rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年7月27日 社説「主体朝鮮の勝利伝統を限りなく輝かしていこう」

 

 標記社説は、1953年7月27日の朝鮮戦争停戦協定締結から69年、北朝鮮流に言えば、「祖国解放戦争戦勝69周年」に際してのものである。

 社説は、まず、その「戦勝」の意義について、「決して侵略者との戦いにおいて国の尊厳と自主権を守り抜き、人類戦争史に輝かしい軍事的奇跡を創造したこと、それだけにあるのではない」として、「我が祖国と人民が永遠に勝利していける誇らしい伝統と財富を準備し、自主と社会主義へと進む時代の流れを推動した。ここに7・27が持つもう一つの巨大な意味がある」として、同戦争を通じて創造された伝統を継承していくことの重要性を強調している。

 そして、その「伝統」に関して、①「戦争の勝敗は、力量の違や武装装備の優劣によってではなく、思想と戦法、戦略戦術によって決定される」ことを示した、②「7・27の勝利は、首領に無限に忠実な我が軍隊の英雄精神と不屈の闘争によって準備された」、③「我が共和国の偉大な勝利伝統は、敬愛する金正恩同志の領導の下に我が革命の威力ある思想精神的武器としてより光を放っている」などと主張している。

 その上で、伝統継承のための課題として、①「敬愛する金正恩同志の周囲に固く結集した一心団結の不可抗力をよりしっかりと固めなければならない」、②「戦勝世代の偉大な英雄精神と強い闘争気風に従い学び我々式社会主義の全面的発展のための総進軍に大きな拍車を加えなければならない(主に経済建設)、③「我が共和国の自衛的国防力を強化するための事業を中断なく強力に推進しなければならない」、④「新世代青年が偉大な勝利伝統のバトンを固く受け継いでいかなければならない」などと訴えている。

 また、同記念日に際しては、26日、「第8回老兵大会」も開催された。同大会では、趙勇元が党中央委の祝賀文を伝達したのに続き、祖国解放戦争参戦者である申鐘民(音訳)同志」が演説を行い、「我々の元帥様(金正恩)をよりしっかりと奉じ、先烈が一生を捧げて守ってきたこの地、有難いこの制度を固く守護し、全世界に高く轟かせていくことを懇ろに付託した」という。また、それに続いて、労働者、戦勝革命史跡館講師、朝鮮人民軍兵士、大学生の代表がそれぞれ討論を行い、戦勝世代を「真の人生の教科書であり真正な愛国者の亀鑑」などと称えた上で「老兵同志の付託を胸に深く刻み青春の突出する力と恐れを知らない気概で進撃の突破口を切り開き、社会主義朝鮮の英雄叙事詩を粘り強く残していく」などとの決意を披歴したとされる。

 このほか、同記念日に際しては、様々な行事が実施されたが、注目されるのは、青年学生の戦時歌謡隊列合唱行進と戦勝69周年慶祝戦争老兵と青年学生との対面集会(いずれも26日)であった。前者には、平壌市内の大学生2000人が参加したとされ、「金日成大元帥万々歳」からはじまって「金正恩将軍(を)命で死守せん」で終わる「戦時歌謡」を合唱しながら平壌市内を行進した。また、後者では、老兵から青年学生代表に「共和国国旗」を引き継ぐ場面がクローズアップされた。これに関連しては、「血で祖国を守護した戦勝世代の遺訓は歴史に長く輝くであろう 尊厳高い我が国旗を守って戦った初世代」との見出しの下で、国旗に関する様々な写真が掲載もされている。

 以上のような7・27記念行事・報道の特徴としては、第一に、「反米」というよりも、金日成の後継者たる金正恩への忠誠強化と「共和国国旗」に象徴される北朝鮮体制の守護に力点が置かれていることである。第二には、そうした呼びかけの狙いが青年層に向けられていることである。いずれも、まさに現在の北朝鮮の状況を反映したものと考えられる。

 なお、余談であるが、老兵大会の出席者に関し常務委員クラスの名前が、金徳訓、趙勇元、崔竜海、朴正天、李炳哲の順で報じられ、金徳訓が筆頭となっている。これは、6月9日の中央委員会全員会議拡大会議に続くものであり、何故か分からないが、同人の序列上昇が確認されたことになる。

 

2022年7月25日 コロナ新規感染者が二けた代に減少

 

 本日の「労働新聞」が掲載した国家非常防疫司令部の発表によると、7月23日午後6時から24日午後6時までに新たな発生した「有熱者」は、「50余人」であり、同統計の発表開始以来はじめて100人を割り込んだ。また、死者については、7月5日に「1人」(累計で74人)とされて以来、発表がない。なお、この間の累計「有熱者」数は、477万2740余人に達するとされている。

 こうした数字がどの程度正確であるのかは判断しがたいが、少なくとも趨勢として、5月に爆発的に蔓延したコロナの感染が相当収束の方向にあることは間違いないであろう。

 7月27日の朝鮮戦争戦勝記念日」に際して全国老兵大会の開催が予定されていることも、コロナ感染をさほど心配しなくても良い状況に至っていることを物語っているといえよう。1953年の停戦時に18歳であった少年兵でさえ既に87歳である。コロナが心配なら、大半が90歳代と思われる同戦争参戦者を全国から集めることはできないであろう。

 こうした防疫活動の成果を見ると、北朝鮮体制の社会全般に対する統制力といったものが、他国とは比較にならないほどの水準で機能していることを認識させられる。「苦難の行軍」などを経て随分と弛緩したとみられていたが、いつの間にか、ここまで復元していたということであろう。

2022年7月20日 社説「戦勝世代の偉大な英雄精神で社会主義建設の活路を力強く開いていこう」

 

 標記社説は、現在直面する苦境打開の鍵として、朝鮮戦争を勝ち抜き戦後復興を成し遂げた戦勝世代の「英雄精神」を継承することを訴えるものである。

 社説は、まず、その「英雄精神」の持つ意味(効用?)を説明している。第一に挙げられるのは、「首領に対する絶対的な信頼と決死貫徹の意志を百倍してくれる根本源泉である」ことである。第二に「主体的力をくまなく強化し、その威力で絶え間なく奇跡と変革をもたらす」ことである。これに関しては、「自力更生、堅忍不抜の意志を抱いて歴史の奇跡を抱いてきた英雄世代の精神を受け継ぐ子孫は、絶対に苦境の前に躊躇したり他人の力に期待したりしない」と主張している。第三に、「全社会に革命的同志愛と義理、美徳と美風をよりはっきりと花咲かせる滋養分」であるという。

 社説は、「戦勝世代の英雄精神」を以上のように説明した上で、「1950年代の偉大な革命世代の崇高な精神世界に自らを照らしあわせ、生の瞬間瞬間を価値ある偉勲と献身で輝かせていく」ことを訴え、とりわけ、党員に対しては、その先頭に立つべきことを求めている。また、「青年たちは、1950年代(の)祖国守護精神を貴重な遺産として受け止め、祖国保衛に青春を捧げることを大きな矜持として、またとない栄誉として堅持しなければならない」とも主張している。

 概して新味のない主張ではあるが、ここでも、先般来紹介してきた様々な論調と同様、「首領に対する絶対的な信頼」の確立が一番の課題として強調されていることを指摘せざるをえない。また、青年に対して、「戦勝世代」の精神の継承を求めるのは分かるが、そこで「祖国保衛」についてだけ殊更強調しているのが若干気になる。それだけ、兵役忌避のムードが蔓延しているということであろうか。

 もう一つ気になるのは、「他人の力に期待」することを戒めていることである。いまだに「他人」に期待する声があるのだろうか、あるとすれば、中国だろうか。そうだとすると、ここでも、中国との関係の微妙さが垣間見られるといえよう。

2022年7月18日 政論「無敵の力を千百倍に固めよう」

 

 標記政論は、朝鮮戦争を回顧し、その被害の深刻さを強調しつつ、そうした被害を再び受けないための国力強化の必要性を訴えたものである。

 そのため、まず、「戦争は人民において不幸であり、苦痛であり、痛みであり、傷口である」と戦争の悲惨さを強調した上で、「我々が今のように強かったならば、多数の人々に苦痛と不幸を強要した怨恨の6・25(朝鮮戦争)はなかったはずだ」と主張する。

 そして、現状については、このところの軍事開発の進展などを挙げて「我々は強くなった」としつつも、「しかし、我々は、より強くならなければならない」と主張し、「帝国主義がある限り!」と続ける。「帝国主義が残っており、我々の尊厳と自主権を毀損しようとする敵対勢力が残っている限り、自分の力を絶え間なく強化しようとする我々の闘争の進軍路には絶対に休止符も終止符もありえない」というのがその理由である。

 こうした主張は、2018年4月、国家核武力の完成を前提に経済建設への力量集中を訴えた当時の発想とは、明らかに異なるものである。

 ただし、更に注目されるのは、「強くなる」ことの意味について、「我々の不敗の力の核は昨日も今日も政治思想的威力である」として、専ら、統一団結や自力更生精神などの強化を訴える一方、国防力強化の必要性については、ほとんど具体的な言及がないことである。

 同政論の直接的狙いが何かは判然としないが、基調としては、国防力の継続的(あるいは永続的)強化の必要性を主張しつつも、その前提となる核心的課題としては、国内の意思統一の重要性を主張しているように思える。そして、そうした統一の中心として金正恩が想定されていることはいうまでもない。

 そう考えると、同政論も、昨日付けの社説と、題材は違えど最終的に目指すところは同じともいえる。やや牽強付会な見方かもしれないが、今日の北朝鮮の喫緊の課題は「思想」問題にあるように思えてならない。

 

2022年7月17日 社説「党中央の決定と指示を決死貫徹する革命的気風をより高く発揮しよう」

 

 標記社説は、前段で、「党中央の決定と指示を決死貫徹する」ことの重要性について、①「主体的力、内的動力を非常に増大させ活気あふれる国家発展の新たな局面をひらいていくための必須的要求」、②「一致団結した力で防疫戦線において勝利を成し遂げるための必須的要求」であることを挙げる。なお、①では、党中央を核とした一致団結こそが主体的力、内的動力の源泉であると主張している。

 後段では、その実現のための方法として次の3点を訴えている。

 第一は、「党中央の決定と指示をすべての思考と行動の出発点とみなし闘争」することである。そうして、「党中央の決定と指示をすなわち法として、至上の命令とみなし、些細な理由と口実もなく、一つも漏らすことなく、無条件に徹底して貫徹」することを訴える。

 第二は、「党の唯一的領導体系の深化」である。それは、具体的には、「総秘書同志のお教えは、すなわち真理であり、実践であるとの確固たる信念を堅持」しつつ、「革命と建設で提起されるすべての問題を党中央に報告し、唯一的結論にしたがって処理する革命的規律と秩序」を確立することと説明される。

 第三は、「第4回、第5回全員会議の決定貫徹において無条件性、徹底性、正確性の気風を高く発揮」することである。そして、そのために、「党決定貫徹を妨害する主たる障害物である敗北主義と無責任性、無能力と要領主義、三日坊主的執務姿勢、本位主義をはじめとしたあらゆる誤った思想観点と執務姿勢」を払拭すべきことを訴えている。

 社説は、これに続き、以上のような課題の実行主体として、党員、幹部、党組織を挙げ、それぞれの役割発揮を訴えているが、そこは省略する。

 以上のような社説の主張は、結局のところ、党中央=金正恩を信じて頑張れ、という訴えであり、「思想論」に基づく苦境打開を訴えた14日付け評論と一脈通じるように思える。また、同社説には、15日の本ブログで紹介した内閣全員会議拡大会議(そこでは15日開催と記述したが14日開催の誤りでしたので訂正します)で目についた「無条件性」も、繰り返されている。更に言うと、「党中央の唯一的領導体系」もこのところ盛んに主張されている。こうした同旨のトートロジー的な主張がひらすら繰り返されているのが今日の北朝鮮の状況といえよう。

2022年7月15日 内閣全員会議拡大会議を開催

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が14日、金徳訓総理の「指導」による「画像会議」形式で開催されたことを報じる朝鮮中央通信の記事を掲載した。その骨子は次のとおりである。

  • 参加者:朴正根、楊勝浩副総理をはじめとする内閣メンバー。内閣直属機関、省機関幹部、道、市、郡人民委員会委員長、農業指導機関、主要工場、企業所幹部が傍聴
  • 議題:上半年の人民経済計画遂行状況を総括、3・4分期の人民経済計画を無条件に遂行・・するための対策を討議
  • 報告(朴正根副総理・国家計画委委員長):①上半年総括:「科学技術を前進と発展の動力として生産活性化を推進し、経営活動の実利を保障」、「現われた欠陥と偏向、原因と教訓を分析」、「経済事業を予見性を持って作戦(段取り)し、周到精密に組織進行することについて指摘」、②今後の課題:「国の経済発展と人民生活向上のための闘争において一歩前進を成し遂げるための事業方向を提示」
  • 討論(参加者不詳):「最大に奮発し奮闘することにより・・戦闘目標を無条件に遂行する決意を表明」
  • 討議内容:①「現行生産と整備補強事業を同時に推進し下半年人民経済計画を完遂する問題」、②「経済管理体系と方法を現実的条件に合うようより改善し、国家の統一的な指揮体系を補強するための決定的な対策を立てる問題」
  • 決定採択:「該当する決定(複数)が全員一致で採択」

 今次会議に関する以上のような報道は、基調において従前の会議報道と軌を一にしたものといえるが、具体性が一層希薄化しており、どこに重点がおかれているのかほとんど推測しがたい内容となっている。

 そうした中で今次会議の特徴を強いて挙げれば、計画遂行における「無条件」が繰り返し強調されている点である。これは、先の中央委第8期第5回全員会議においても同様であった。逆読みすると、それだけ計画遂行を阻害する事由(原料、エネルギー不足など)が頻発している現状を反映しているとも考えられる。そういう中で何とか計画を完遂しようすれば、幹部の「奮発・奮闘」に期待するしか道がないのかもしれない。記事に具体性がないのは、そうした窮状の結果とも思える。

 なお、討議内容②の「国家の統一的な指揮体系を補強するための決定的な対策」というのも気になるが、これまでも同種の表現が示されながらも(公開された限りでは)見るべき改編措置が講じられることのないままうやむやになってしまった例が少なくないので、余り期待せずに見守ることとしたい。いずれにせよ、経済管理に関しては、「計画」強化(中央集権化)の方向性が維持されているのは間違いないであろう。

2022年7月14日 評論「思想論を堅持して進めば撃破できない難関はない」

 

 標記評論は、現下の厳しい情勢における思想論、すなわち心の持ち方の重要性を主張したもの。そこで求められる具体的な思想の内容として、3点を挙げている。

 第一は、「必勝の信念をより固く堅持する」ことである。中でも「敬愛する金正恩同志がいらっしゃるから我々は必ず勝利するとの岩のような不変の信念」の重要性を強調する。

 第二は、「自力更生の精神をフル充填する」ことである。「自力更生が決して、今日直面している難関を克服するための戦術的な対応策ではなく、我が党の確固不動たる政治路線であるということを骨に刻まなければなあない」として、その徹底を訴えている。

 第三は、「集団主義威力を総爆発させる」ことである。ここで「集団主義」とは、「誰もが家事よりも国事を先に考え、個人の利益よりも社会と集団の利益を貴重なものとみなす確固たる観点を帯び」、「あい路と難関にぶつかるたびに互いに助けあい、学びあい、力を合わせて集団的革新、連帯的革新を起こし進んでいくことによって、落伍した単位、落伍した人がなく皆一緒に発展し、皆一緒に前進」していくことである。

 その上で、最後に「全党が実質的な思想事業を行おう」として、「思想事業を党委員会的な事業として確固として転換させること」、すなわち、担当者まかせにせず、党委員会全体の協力により進めることを訴えている。

 以上のような主張の一つ一つは特段目新しいものではなく、むしろ、かねて繰り返されてきたものであるが、現下の苦境打開の要諦として、こうした形でそれらが列挙されたことは、北朝鮮指導部が進めようとしている方向性を改めて確認させるものともいえよう。

 とりわけ、3点目の主張は、「各自が生産しただけ受け取る」という「社会主義的分配原則」を超えた、いわば共産主義的な発想に基づくものともいえよう。それは、さしあたっては、コロナ蔓延、大雨被害などの現下の非常事態における相互扶助を念頭においたものであろうが、やや中期的に見ると、経済運営における市場経済的要素の活用に否定的・消極的影響を及ぼすことになるのではないだろうか。

 いずれにせよ、こうした「思想論」に状況打開の鍵を求めるところに北朝鮮の置かれた状況の厳しさがうかがわれるし、更に言えば、こうした主張の背景には、そこで主張されている考え方(金正恩に対する信頼、自力更生、集団主義など)に対する信念の動揺あるいは疑念の拡散といった現象が存在するのかもしれない。