rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月23日 金正恩金剛山観光地区現地指導の狙い(10・24改訂版)

 

 本日のトップニュースは、いうまでもなく金正恩金剛山観光地区に対する現地指導であろう。なかでも、韓国側によって建てられた施設の撤去を命じたことは、韓国で大きく報じられ、対韓姿勢の硬化がとりざたされている。その背景には、先の同人の白頭山登頂時における「決心」に対する「対米強硬策を樹立」との解釈があり、その延長線上で今回の金剛山現地指導が解釈されているのであろう。

 しかし、本ブログで既述のとおり、金正恩白頭山登頂の主たる狙いは国内向け(住民の経済建設への奮起呼びかけ)と考えられるのであり、今回の金剛山観光地区での現地指導の狙いも、その流れの中で解釈されるべきと考える。

 そのような解釈は、同現地指導に関する報道全体を見れば自ずと明らかである。韓国側施設の撤去に関する言及に何らかの韓国に向けた思惑も存在することは否定できないが、それが今回、金正恩金剛山を訪問した主たる理由とは考えにくいのである。また、同日に掲載された社説の内容が「自力更生」の実践を強調するものであったことも、その傍証足り得ると考える(同社説については、項を改めて紹介したい)。

 では、金正恩の狙いは何か。それについて、同報道は、今次訪問が「世界的に指折りの名山中の名山として知られる金剛山を我が国人民と世界各国人民が心から楽しめる総合的な国際観光文化地区として立派に整備しようとの構想を抱いて」のものであったとしている。

 そして、金正恩は、韓国側によって建設された施設を視察し、それらがいずれもみすぼらしく民族性も欠如しているなどと酷評、また(金剛山観光中断後、長期間の)管理が悪くて無残な状態になっていることを指摘した上で、「他人に依存しようとした先任者たちの依存政策が極めて誤ったものであったと厳しく批判」したとされる。

 その上で、彼は韓国側施設を「南側関係部門と合意して」すべて撤去するよう指示するとともに、それらに代わる施設を「民族的特性と現代性を結合させた我が国の建築形式の典型性を帯びた発展した形態で立派に建設」するよう指示した。

 金正恩の指示は、それに止まらない。金剛山地区を地理的に隣接する元山カルマ海岸観光地区(現在、大々的に建設中)及び馬息嶺スキー場(かつて大々的な取り組み、完成済)と結び合わせて、「一つに連結された文化観光地区として世界的な名勝地らしくしっかり整備」するよう指示し、あわせて、そのような大々的な建設を完成させる力量は北朝鮮国内に十分存在するとの見方も示したとされる。

 要するに、金正恩の今次指導の趣旨は、金剛山は世界水準の名勝地なのだから、韓国任せで開発してもらい北朝鮮は幾分かの利益を得るだけという消極的姿勢ではなく、自らが主動的にかつ民族色も十分発揮しつつ最高水準の開発を推進すべきということであろう。まさに、最近加速されつつある「自力更生」路線の典型的な表現と言えるのではないだろうか。つまり、ここで金正恩が批判の対象としているのは、「南側」そのものではなく、それに依存するばかりの対外依存的消極姿勢ないし政策なのである。

 ちなみに、韓国からの観光客を全面的に排除する意向のないことは、「南側同胞が来るというならいつでも歓迎する」としていることからも明らかであるし、韓国側施設の撤去についても、上述のように韓国側と調整した上でのこととしている点に留意すべきであろう。

 むしろ、ここで注目されることは、上述の消極的政策の主体となっている「先任者たち」という表現である。報道でも指摘されているとおり、韓国資本を導入した金剛山観光が金正日時代に推進されたことから、金正日に対する批判と解する余地は確かに存在する。誰の決定であれ、改めるべきは改めるとの金正恩の強い姿勢の表れと考えるべきかもしれない。ただ、少なくとも表面的には、「金剛山観光サービスと関連した政策的指導を担当した党中央委員会該当部署」の対応が名指しで批判されていることから、当面の責任追及はこちらに向けられ、金正日に対する直接的批判に進む可能性は低いと考えられる。

 その関連で、金正恩の「先任者批判」及び韓国側施設撤去指示に続けて、「同行した幹部皆」が(韓国側施設を)「工場・企業所に建てられる労働者宿舎よりも酷い建物」などとして、その撤去・建て替えに賛同したことが報じられていることも注目される。従前の発想であれば「上御一人」の評価だけで充分なはずであり、それに敢えて同行幹部の意見(同調にせよ)を付加するというのは、ある意味、領導者の位置を相対化するもののようにも感じられる。これが、発展的な意味での新たな指導スタイル模索の一環なのか、あるいは、「先任者批判」を行うには、金正恩一人では力不足で皆の加勢を必要と感じたのか、今後じっくりと見極めていくべき問題と考える。