rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月12日 論説「コメで社会主義を守り我が革命を守護しよう」

 

 標記論説は、標題のとおりコメの増産こそが北朝鮮体制を維持していく上での死活的課題であるとして、それに向けた奮闘を訴えるものであるが、これまでの本ブログでの論点とも関連する興味深い内容を含んでいるので、その点を中心に紹介したい。

 その第一点は、コメ増産を「自力更生」実現のカギと主張する中で、改めて他者への依存の排撃が強調されていることである。若干長くなるが当該部分を訳出する。

 「穀物増産に自力富強、自力繁栄の近道がある。他人を見ながら助けを望むのは自滅の道である。誰も我々が強くなり良い生活をするのを望まず、助けることもできない。我々の土地で我々の力でより多くの穀物を生産し自給自足することは国と民族の自主権と生存権、発展権を守るための確固たる担保である。」

 ここで言われている「他人」とは誰を指すのか。先般、北朝鮮が韓国当局からの人道的食糧支援の申し入れを拒絶したことなどを勘案すると、韓国を指すと考えることもできよう。

 昨日のブログに掲載した対韓政策に関する論稿において、北朝鮮指導部が国内に韓国への依存風潮が生まれることを警戒しているのではないかとの仮説を提起した。我田引水かもしれないが、同論説の上掲のような主張は、まさにそのような警戒心の存在を反映したものと言えるのではないだろうか。

 第二点は、生産目標を超過した生産物の処分に関する問題である。同論説は、穀物増産の重要性を前述のように強調した上で、その具体的方策について、「現時期我々の農業労働者が社会主義を守り党と革命を保衛するということは、穀粒を一粒も無駄にすることなく収穫し、国家穀物収買計画を必ず遂行するということを言う」と述べて、国家上納予定量の完遂を求めている。

 ここまでは、ある意味で想定し得る主張と言えるが、同論説は、それにとどまらず、次のように「愛国米」の献納まで言及している。

 「国の米びつを一杯にする人が真の愛国者である。今、多収穫先駆者たちが自分に与えられた国家穀物収買計画を遂行した上で、多くの愛国米を国に捧げる美しい行いを発揮している。自分の家の米びつより国の米びつを先に考え、真心を捧げるこのような愛国者たちがいるから、我が党が強く我が国家が強固なのである」

 11月3日の本ブログで紹介したとおり、2日付けの評論「社会主義分配原則を徹底して守ろう」の中には、「穀物生産計画を超過達成した単位において、各種名目で穀物を(予定より)もっと回収して農場員の生産意欲を低下させる現象がないようにしなければならない」との記述があった。それと上掲のような「愛国米」献納の称賛とは、どのような関係になるのであろうか。

 名目的には自由意思に基づく「献納」であると言っても、前述のような体制に対する忠誠の問題として、「自分の家の米びつよりも国の米びつを先に考える」ことが称賛されている状況においては、とりわけ成果を上げた「多収穫先駆者たち」は、相当量の「愛国米」献納を余儀なくされるのではないだろうか。

 そのような方法によれば、当面は「国の米びつ」を一杯にすることが可能であるかもしれないが、長期的には、2日付け評論が懸念していたような「農場員の生産意欲を低下させる」結果を招くことになるのではないだろうか。