rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月16日 論説「家庭礼儀道徳をしっかり守ることは家庭と社会の前に帯びた義務」(17日一部修正)

 

 標記論説は、家庭内において、親子・夫婦の間で道徳的な正しい関係を築くことを訴えるもの。北朝鮮では、11月16日は「母の日」とされていて、同日付けの紙面にはそれに関連した記事が種々掲載されており、同論説も、その延長線上で出されたものとも考えられる。しかし、内容は必ずしも母親に限ったものではないので、仮に「母の日」を契機としたものであるとしても、もう少し幅広い社会的要請を背景に書かれたものと考えられる。

 まず、この問題の全般的背景としては、「いかなる試練も難関も道徳で固まり道徳で和睦した家庭を壊すことはできない」などとあることから、各家庭を取り巻く「試練・難関」の存在が念頭にあるようであるが、それが具体的にどのような状況を指すのかは判然としない。

 いずれにせよ、「和睦した家庭を整え維持することは、決して個別的過程に限られた問題ではなく、社会の存立と発展に直結する重大な社会的問題である」と述べて、この問題が現下の社会的課題として提起されていることをうかがわせている。

 その上で、同論説は、そのための課題を2つ挙げている。第一は、親子関係、すなわち「まず父母と子供の間の倫理をしっかり守ること」である。とりわけ重視されているのが老親の面倒を見ることで、その必要性を「父母が年老いるほど真心を込めて世話をすることが重要である。いかなる条件と環境においても、いつでも父母の健康と生活に対し格別の関心と神経を使うのは、子供たちの当然の本分である」と強調している。

 同時に、子供の養育については、道徳面での教育について、「父母は子供たちにしっかり食べさせ着させることも重要だが、それよりもっと重要なことは、彼らを精神道徳的に立派に育てること」と強調されている。

 二番目の課題として挙げられているのは、夫婦関係すなわち「夫婦間の倫理を正しく守ること」である。ここでは、夫婦が互いに思いやり、助け合うことの重要性を強調し、夫が仕事に専念する余り家庭を顧みないといったことを戒めている。

 以上を見ただけでは、この論説が掲載された狙いなり背景を正確に指摘することは困難であるが、推論するに、伝統的(儒教的)な家族関係の規範意識が徐々に希薄化する一方、それに代わる、いわば「社会主義的家族観」のようなものも十分に確立できない中で、とりわけ老親の面倒を忌避する子供世代、子供にしっかりした道徳観を示すことのできない親世代などが増加し、そのような風潮が様々な社会問題の遠因となっている可能性があろう。夫婦の在り方についても、具体的なところは判然としないが、何らかの混乱が生じている可能性が考えられる。

 この論説と関連して想起されるのは、『労働新聞』紙上に時々掲載される、隣人、同僚あるいは不遇な人らに利害を度外視して親切を施した人を顕彰し、北朝鮮社会における人情のあつさを強調する記事である。やや偏屈な見方かもしれないが、そのような事例が本当に社会全般で普遍的なものとなっているのであれば、殊更、記事として特筆大書する必要もないのではないだろうか。

 上記論説が論じるのは家庭内の人間関係であり、上掲記事は地域社会などでの人間関係に関するものであるが、いずれにせよ、社会全般において、人間関係全般に問題が生じている、端的に言えば、人心がすさんだものになりつつあることを反映しているのではないかとの印象を拭えない。

 仮に、そのような印象が正しいとするなら、その背景には、永年にわたる経済不振とか物資不足に基づく「絶対的貧困」というよりは(あるいはそれに加えてというべきか)、むしろ近年の市場経済的要素の積極的導入政策などによる「相対的貧困」あるいは「拝金主義」といった傾向が存在するのではないかとも思われる(すべては推測であるが)。