rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月29日 金正恩の「超大型放射砲の試験射撃参観」を報道

 

 まず、飛翔体発射に関する事実関係については、韓国の聯合通信が報じたところでは、「韓国軍合同参謀本部によると、北朝鮮は28日午後、東部の咸鏡南道・連浦から朝鮮半島東の東海上に超大型放射砲とみられる短距離飛翔体2発を発射した。飛行高度は約97キロで、約380キロを飛行し、30秒の間隔で発射された。北朝鮮が飛翔体を発射したのは今年に入り13番目となる。直径600ミリとみられる超大型放射砲の発射は4回目」とされる。

 労働新聞の本報道が同発射に関するものであることは明らかであり、以下、今回の実験について、技術開発的側面、対外政策的側面、国内政治的側面から、その意義を検討したい。

 技術開発的側面では、労働新聞は、今次実験が「超大型砲の戦闘適用性を最終検討することを目的」としたもので、結果、「武器体系の軍事技術的優越性と信頼性が確固として保障されたことを確証した」とした上で、金正恩も「結果について大満足を示した」と報じている。

 以上のような報道が具体的に何を意味するのかと言えば、前述韓国報道で示された2発の飛翔体の発射間隔が「30秒」であったことが焦点になっていると考えられる。放射砲においては、発射間隔が武器の特性上、重要な性能となるところ、9月10日に実施された超大型放射砲の2回目の実験においては、「19分」と観測され、北朝鮮の報道でもその短縮が今後の課題として指摘され、10月31日実施の第3回目の実験においては「3分」に短縮されていたとの経緯がある。発射間隔については、これで完成の域に達したと言えよう。

 ただし、「超大型放射砲」と称する兵器の発射台は、これまでの実験報道に添付された写真によれば4連装であるが、これまでの4回の実験では、いずれも2発しか発射されていない。本当の意味での「信頼性」を確認するためには、4発を連続発射する必要があるとも考えられ、今後、そのような実験が行われる可能性が指摘される所以となっている。

 次に、対外政策的側面では、多くの報道で「北朝鮮が対米交渉の期限を年内と区切ったことを背景に、米韓を圧迫する狙い」が指摘されている。しかし、私は、そのような要素がまったくないとまでは言えないにせよ、それが主な狙いかといわれると、懐疑的と答えざるを得ない。

 その根拠は、何よりも、この兵器が韓国国内を主な標的にするものであって、「アメリカ・ファースト」を信念とするトランプ大統領に対しては、さほどの「脅威」を感じさせるものではないからである。

 このような実験が行われたからと言って、それが現時点における米国の対北朝鮮交渉姿勢にいかほどの影響を及ぶすであろうか。仮に、米国がかつてのオバマ政権時代のように「戦略的忍耐」路線に基づき、対北朝鮮交渉を事実上棚上げしているような状況であれば、あるいはこのような実験も、米国政権内部において北朝鮮問題への対応の必要性を喚起するという効果を及ぼしたかもしれない。しかし、現状は、米朝交渉の基本的枠組みは既に形成され、その中で具体的条件等をめぐる水面下の交渉が断続的ながらも進められているのではないか。そのような状況であるとすれば、今回のような実験によって、米国から何らかの譲歩を引き出すということが期待できるとは考え難い。むしろ、米国側に北朝鮮は交渉妥結に焦っているとの印象を与え、あるいは無用の反発を招いて交渉姿勢を硬化させてしまうなど逆効果のおそれさえある。北朝鮮としては、「トランプは気にしない」と考えたからこそ、このような実験が出来たと考える方がより現実的と言えよう。

 国内政治的側面については、今次実験は、従前の一連の実験に比して、とりわけ軍に対する意義が大きかったと考える。

 そのことを具体的に論じる前に、念のため北朝鮮におけるこの種の兵器開発の主体は、朝鮮人民軍ではなく国防科学院であることを確認しておきたい。もちろん、国防科学院には軍人の身分を持つ職員も多数在籍するが、その指導は、党中央委員会(軍需工業部)によって行われているとみられる。当然、今回のような実験も国防科学院が主宰して行われる。そのことは、報道で「国防科学院において実施した超大型砲の試験射撃」と明記されていることに加え、実験において金正恩を出迎えた者として、「党中央委員会の李炳鉄同志、副部長金正植同志と張昌河同志、全日浩同志をはじめとする国防科学研究部門の指導幹部達」(人名は音訳)が上げられていることからもうかがえる。

 その上で、今次実験に関して注目されたのは、軍の総参謀長に加えて「大連合部隊長達」が参観したことが報じられたことである。なお、北朝鮮で「大連合部隊」とは、軍団級の部隊を指す表現とみられている。この種の実験に関し、その長(すなわち軍団長)の参観が報じられるのは異例のことである。

 更に、実験終了後、「大連合部隊長達は、人民軍隊の軍事技術的強化のため今年においてだけでも、その威力が非常な多数の武装装備を開発完成させて下さった敬愛する最高司令官同志に祝賀のあいさつ、感謝のあいさつを謹んで差し上げた」ことが報じられており、これもまた、異例な内容といえる。

 このような報道ぶりからは、今次実験においては、とりわけ軍に対して、金正恩が軍事力強化に引き続き多大な努力を払っており、また偉大な成果を上げていることを誇示することに大きな意味が込められていたことがうかがえる。

 要するに、今次実験については、先般の金正恩の最前線島嶼防御部隊への視察と合わせて考えても、世間では前述のとおり対米交渉期限切れを控えた圧迫説が有力なようだが、私としては、むしろ金正恩の軍に対する「生活面も装備面もしっかり配慮していますよ、忘れていませんよ」というメッセージの色彩が濃いのではないかと思われる。

 もちろん、同時に、対韓抑止力につながる兵器開発を急ぎたいとの思いもあるであろう。その背景には、今後の対米交渉の推移によっては、核戦力の廃棄ないし無力化もありうるとの予測があるとも考えられる。

 ただし、労働新聞報道の中で「国防科学者達は、・・・我々式の先端武装装備をより多く研究開発し、一日も早く人民軍隊に装備させ・・る燃える決意に満ちている」と報じられていることなどを勘案しても、それら兵器の実際の配備までには、なお一層の努力と時間を要すると考えれる。