rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月2日 論説「一心団結の天下之大本は民心である」

 

 「天下之大本」は、簡単に言えば「基本」ということであろう。要するに、北朝鮮の特質である体制の一心団結(もちろん、その中心は首領)を維持・強化するためには、何よりも「民心」を大切にし、それを基本としなければならないということで、「民心を掌握し、群衆との事業をうまく行う」ためには、具体的にいかなる課題があるかを論じている。

 論説が掲げる最初の課題は、「人民の思想動向、心理状態をその都度、正確に把握すること」である。そのためには、「群衆を教養対象、事業対象としてではなく、自分の父母兄弟のように」接しなくてはならないと説いている。上から目線ではなく、親身になって傾聴するとの姿勢で、人々の思想動向の趨勢を適時的確に感知することを求めているのであろう。ちなみに、労働党内には、こうして把握された住民の思想・心理状況が定期的に上部に報告・集約され、最終的には金正恩にまで届けられる体系が整備されており、様々な政策策定の材料として利用されているとみられる。

 次の課題は、「群衆の中で提起される問題を責任を持って解決してやること」である。ここで「問題」というのは、個別具体的な不平・不満・不便などを指し、各級の幹部は、それらを単に上級に報告してよしとするのではなく、自らが解決・解消すべく努力することが必要とされる。また、論説は、現在、住民の不満ないし関心が最も集中する分野として、「教育と保健」の二部門を挙げており注目される。これら部門における満足度が住民の体制に対する信認を大きく左右するというのである。多くの北朝鮮住民の関心が、衣食住など生存に直接かかわる次元から、より豊かで健康的な生活の実現といった次元に移りつつあることが、ここからもうかがえる。

 三つ目の課題は、「民心を党の意図にあわせて主動的にうまく導くこと」である。ここでとりわけ強調されているのが、情勢の厳しさを認識させることで、「党組織と幹部が人民に今我々が処している環境についてもしっかり解説してやり、彼らの心臓に火をつけるならば、全国のすべての人民が一体となって立ち上がり国家的立場で国の困難を共に心配し、それを解決するため自らのすべてを皆捧げるようになるであろう」と述べている。ちなみに、この意味するところは、今、多くの住民は、北朝鮮が厳しい状況にあるとは認識しておらず、国家的利害よりも一身の都合・安楽を優先しているということなのであろうか。

 最後に掲げられている課題は、「民心を無視したり曇らせたりする現象と強い闘争を展開すること」である。すなわち、外部からの文化的浸透及び幹部の専横・不正などを厳しく取り締まる必要があるということである。論説は、現在、敵が北朝鮮の内部瓦解を目指して「卑劣な心理謀略戦と思想文化的浸透策動」をこれまでになく強めているとして、これを「断固として粉砕」すると同時に、「(幹部の)専横と官僚主義、不正腐敗行為とあらゆる非社会主義的要素に対して絶対に宥和黙過してはならず、強い闘争を展開し、それらを根こそぎにしなければならない」と訴えている。

 以上4つの課題を通じて、労働党の面目躍如と言えるのは第3、第4の課題であろう。住民の意見を聞き、要望に応えるだけであれば、自由主義圏の政党でも行うことである。そこにとどまらず、住民を「党の意図」すなわち金正恩の構想の実現に向け「すべてを捧げる」ように導き、一方で、そのような「一心団結」を阻害することにつながる要因は徹底して排除することこそ、伝統的に確立されてきた党活動の特徴であることは言うまでもない。

 ただし、そうではあっても、同論説において、第1、第2の課題が、そのような伝統的な課題に先立って(かつ、それらと匹敵する分量で)掲げられていることも、また注目すべき事柄といえよう。北朝鮮指導部としても、上からの一方的な方針の押し付けや「恩恵の下賜」だけでは民心を収攬することはできないことを認識し、民心の帰趨や把握や不平・不満の解消などをこれまで以上に重視する姿勢を採っていることがうかがわれるからである。