rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月17日 社説「必勝の信念高く白頭の行軍路を雄々しく引き継いでいこう」

 

 標記社説は、昨年来の「白頭精神」の強調すなわち「抗日パルチザン闘争」の精神に学ぶことを呼びかける一連の思想キャンペーンに沿ったものであるが、一部に注目される表現があるので、その部分に絞って紹介したい。

 その一つは「華麗な変身」と関連付けて論じられていることである。すなわち、先の中央委員会会議での「正面突破戦」決定について述べたことに続けて、「白頭の行軍路、自主、自立、自衛の道は偉大な首領が選択された道であり、我々がこの道に行くのが正しいのか誤っているのかを論議する余地もない。華麗な変身を望み、この道から瞬間でも離脱するなら革命家としての存在価値を失うこととなり、最初からこの道に進まなかったよりも劣る悲惨な運命を経ることになる」との主張である。

 「華麗な変身」というのは、「正面突破戦」を提唱する中で、経済制裁などの敵の圧迫に耐えかねて譲歩しようとする考えを指して「華麗な変身を夢見る幻想」などと言った文脈で用いられてきた。上述のような社説の主張は、そういったいわば「敗北主義」的考え方への対抗論理として、「白頭精神」が用いられていることを如実に示すものといえよう。

 もう一つは、「白頭精神」を「首領決死擁衛精神」及び「正面突破戦」と関連付けていることである。すなわち、「白頭精神」継承の一環として、「抗日革命闘士たちが発揮した首領決死擁衛精神を確固として継承しなければならない。今日の正面突破戦は首領擁衛戦である。白頭の行軍路を継承するということは、すなわち首領擁衛の伝統を輝かしていくということである」との主張である。

 「正面突破戦」の趣旨や狙いについては、これまでに様々な解説がなされてきたが、管見の限りでは「首領擁衛戦」という意味を付与されるのは余り例がなかったように思われる。

 以上の2点を合わせ大胆に推測すると、経済制裁への対応すなわち対米交渉に関して一部に宥和的意見があったが、金正恩は、あくまでもそのような路線に反対し、「主体」堅持を目指す「正面突破戦」を打ち出した。したがって、それを成功させないと彼の地位ないし威信も揺らぎかねない、とのシナリオが描ける。ここで「一部」というのが特定の人物ないしグループであるのか、あるいは漠とした社会的雰囲気(「声なき声」)であったのかは定かでない。現時点では、後者の可能性が高いと考えている。

 ただし、本日の「労働新聞」には、「社会主義運動の汚い背信者」と題して旧ソ連トロツキーを紹介・批判する記事が掲載されている。同記事は、「大勢に沿った忠誠心、私心が先に立った忠誠心は長続きできない」ことの例としてトロツキーの生涯を描写した上で、「トロツキー背信行為は、信念化できていない忠実性、崇高な道徳と純潔な良心に基づかない忠誠心は首領に対する強固な忠誠心になることができないことを示している」と結んでいる。

 ここで批判対象となっている「信念化できていない忠実性」が前掲社説のいう「華麗な変身を望み・・・革命家としての存在価値を失う」ことと符合するようにも感じられる。この時期に敢えてトロツキーを挙げて批判するのは何のためか、前掲社説との関連はあるのか、単なる偶然なのか、昨日(1月16日)付け社説に関する疑問ともあわせて、実に興味つきないものがある。