rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月10日 論説「非社会主義現象との闘争は全群衆的な事業」

 

 おなじみのテーマを扱ったものであるが、従前とは異なる含意もうかがわれる点などで注目される。

 ちなみに、昨2019年5月31日付け「労働新聞」にも、標記と酷似の「非社会主義現象との闘争は全人民的な事業」と題する評論が掲載されている。そこでは、「育ちゆく新世代を背倫背徳と浮華放蕩した生活に染まらせ国の前途を背負う柱、人材ではなく精神不具者、無気力な存在とするのが不健全で異色的な思想と要素である」と青年に対する悪影響を指摘していた。

 標記論説は、「人々の精神を蚕食し社会を変質堕落させる非社会主義的現象の一形態」である「異色的な現象」を主たる批判対象とし、具体例として「服装と整髪を我が人民の情緒と美観に合わないようにして出歩く現象、文化語(標準語)を使わず外来語や方言を混ぜて言語生活をめちゃくちゃにする現象など」を指摘している。その上で、「今日、異色的な現象を徹底して無くすこと、人民大衆自身の運命、社会主義の運命と直結する死活的な問題であり、全群衆的に展開すべき重要な政治的事業」であると意義付け、その意義を更に次の2点に敷衍して解説している。なお、ここで「方言」というのは、咸鏡道方言とかではなく(それを矯正せよというのは無理)、おそらく韓国風の話し方を指すのであろう。それが北朝鮮国内ではやっていることは、かねて指摘されてきたところである。

 第一は、「我々の革命陣地、社会主義陣地を固く固守するため」すなわち、体制の保全に直結する課題との意味である。その背景には「(かつての社会主義国崩壊の)歴史的教訓は、社会主義思想と背馳する些細な現象も疎かにしたり放置したりすれば、血で勝ち取った社会主義が一朝にして水に飲まれた土手のように崩れ去るということを明白に示している」との認識がある。

 第二は、より今日的な意義で、「正面突破戦で社会主義勝利の活路を開いていくため」になるという。すなわち、「正面突破戦に奮い立った今日、異色的で不健全な現象との闘争を強く展開しなければ、大衆の革命熱、闘争熱、愛国熱を引き続き高潮させることことができないのはもちろん、社会主義強国建設に厳重な後遺を及ぼすことになる」というのである。なお、ここで批判対象とされているのは、「集団の利益より個人の利益をまず追及する現象、時代的雰囲気に合わない奢侈な生活をして社会主義イメージに墨を塗る安逸弛緩した堕落した現象など」である。

 その上で改めて「我々は、服装と整髪をするにも社会主義文明建設の要求に合うよう我々式に行い、言語生活も徳と情があふれるわが社会の大風貌が生きるようにしなければならない。歌を歌い踊りを踊っても、文学芸術作品を一つ創作しても、主体性と民族性が生き脈打つようにしなければならない」と訴えるとともに、それを実行するためには、「思想教養団体」による「思想闘争」及び「法機関」による「法的闘争」を強力に展開する必要があると主張している。

 以上のうち、第一の部分は、概ね従前の主張の繰り返しといえよう。しかし、第二の意義にかかわる部分は、それとはやや別種の意味内容を持っているように見える。それは、端的に言えば、社会の上流層・指導層の行動を念頭においていると思われる。そうでなければ「奢侈な生活」を送ることはしたくてもできない。また、歌を歌ったり踊りを踊ったりはともかく、「文学芸術作品の創作」は、大衆に出来ることではないであろう。彼らのうちの一部が利己的行動に走り、そうして蓄積した経済力を背景に奢侈な生活あるいは外来的な服装・ヘアスタイルなどを誇示し、それが一般大衆に悪影響を及ぼしているということではないのだろうか。そのような見方が正しいとすれば、北朝鮮が体制保全の「絶対兵器」とみなす「一心団結」を維持する上で、実に危うい状況と言わざるを得ないであろう。