rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月17日 「北南関係総破産の不吉な前奏曲 北南共同連絡事務所完全破壊」

 

 標記は、6月16日付けの朝鮮中央通信記事を掲載したもの。「6月16日14時50分」に、「我々側該当部門においては、既に闡明したとおり開城工業地区にあった北南共同連絡事務所を爆破し完全破壊させる断固たる措置を実行した」ことを明らかにした。

 同爆破は「我々の1次的な初段階の行動である」とした上で、今後の行動については、「我々は、南朝鮮当局の態度を見守りつつ、今後の処身、処事いかんによって連続的な対策行動措置の強度と敢行時期を定めるであろう。今のような鋭敏な局面において南朝鮮当局の破廉恥で無分別な態度と対応は我々のより強力な報復計画を誘発するであろう」として、韓国側の出方に即して緩急を調整する旨を示している。

 これは、誠に身勝手ながら、韓国側の対応により緊張を無用にエスカレートさせることは望まない、つまり韓国側に抑制した対応を期待するとの意向を示したものとも考えられる

 

 本日は、その他にも関連報道が山積なので、簡略にポイントのみ指摘したい。

①「鉄面皮な甘言利説を聞くと역스럽다(またもやと思う、の意?)金与正朝鮮労働党中央委員会第一副部長談話」6月17日付け

 文大統領の6月15日の青瓦台首席秘書官らとの会議及び「6・15宣言20周年記念行事」での演説を「鉄面皮で図々しい内容」ときめつけ、、多くの字句を引用しつつ、具体的かつ徹底的に批判を加えたもの。長文にわたるので個別の引用は割愛するが、小見出しだけ紹介すると、「本末を転倒した美辞麗句の羅列」、「責任を転嫁した鉄面皮な詭弁」、「卑屈さと屈従の表出」(親米事大批判)となっており、内容がうかがいしれよう。

 興味深いのは、「(そのような演説内容は)一人で見るのは惜しいので、我が人民たちにも少し知らせようと私が今日、また言葉爆弾を破裂させたのである」として、同談話が対内向けであることを明示していることである。

②「께끈한것들(汚いものども、の意?)とは、これ以上対座することはないであろう 張今哲朝鮮労働党中央委員会統一戦線部長談話」6月17日付け

 南北共同連絡事務所の爆破を受け韓国青瓦台で開催された安全保障会議後に示された「公式立場」を批判して出されたもの。従前の対北朝鮮対応が国内で「低姿勢」と批判されていたことなどにも言及しつつ、「こんどだけは体面維持が切実であった模様である」などと揶揄している。そして、北朝鮮の責任を問う韓国側の主張に、「我々は喜んで責任を負うであろう」と開き直り、「今後、南朝鮮当局とのいかなる交流や協力はありえない。やりとりする言葉さえないであろう」と関係断絶を宣言している。

 また、「このたびの事態を通じて、敵はやはり敵であるとの結論を確認したことがどれだけ幸いであるか分からない」との表現も印象的である。

③ 「朝鮮人民軍総参謀部代弁人発表(日付はなし)」

 16日の「総参謀部公開報道」を踏まえて、「17日現在、具体的な軍事行動計画が検討されている」とした上で、「明確な立場」を次のとおり表明

1 金剛山観光地区と開城工業地区に連隊級部隊(複数)と必要な火力区分隊(複数)を展開する

2 非武装地帯において撤収した民警哨所を再度進出展開する、警戒勤務を強化

3 全前線で砲兵部隊の戦闘当直勤務を増強、警戒勤務レベルを1号戦闘勤務体系に格上げ、定期的な各種軍事訓練を再開

4 我が人民の対南ビラ散布闘争を軍事的に徹底して保障 

 これら措置についての「対敵軍事行動計画」を早急に「中央軍事委員会の比重に提起する」。

 ここで注目すべきは、「1」で示された部隊規模が「連隊」級とされていること。韓国報道によると、開城地区には本来、2個師団と1個砲兵旅団が駐屯していた由、それに比較すると、今次進出は、1段階小規模な部隊に留めていることになり、緊張を慎重に抑制しつつ事態を展開させていることがうかがわれる。「2」は、2年前の南北軍事合意により撤去された警戒監視施設を復旧するというもの。「3」は内部的な警戒態勢・訓練等を強化するというもの。韓国軍も既に警戒態勢を強化しているであろう。「4」は、先日の「公開報道」の焼き直しに過ぎない。

④「激怒した民心の爆発は何をもってしても防ぐことができない」

 16日付け朝鮮中央通信記事を掲載。対南ビラ散布に向けた国内動向、特に青年層の参画などを紹介するもの。この動きは既定路線のようで必ず実行されるであろう。

⑤「南朝鮮当局が特使派遣を強力要請」

 これも、16日付け朝鮮中央通信記事を掲載したもの。最近の緊張関係打開のため文大統領が金正恩あてに青瓦台の国家安保室長と国情院長の二人を特使として受け入れるよう強く要請してきたが、金与正が拒否したとしている。ちなみに、韓国側も、同報道に関し、事実関係は否定していないので、そのような要請をしたことは事実であろう。金与正の采配が強調されているところがポイントであろう。

 このような事実関係からは、北朝鮮が今次事態かを通じて韓国から何か(対米働き掛けにせよ経済支援にせよ)を引き出そうとしているとの見方が誤りであることが裏付けられる。それを企図していたとすれば、特使受け入れは、それを迫る絶好の機会であったはずであり、北朝鮮は、それを断固拒否したのである。

⑥ 朝鮮中央通信社論評「破廉恥の極致」

 南北共同連絡事務所爆破に対する韓国国統一部のコメントなどを批判したもの。北朝鮮に対する責任追及をとらえて「盗人たけだけしい」と反発、「開城工業地区で轟いた崩壊の爆音が北南関係の総破産を予告する前奏曲となりうることを銘記し、口を勝手に遊ばせてはならない」と警告している。

 朝鮮中央通信の記事は、冒頭に紹介した連絡事務所爆破報道にも見られるとおり、韓国側に対応の抑制を期待している節がうかがえる。

 私見でも、文政権がここで切れてしまっては、いままでの隠忍自重はすべて水の泡、「敵はやはり敵」という北朝鮮の期待するコースに自ら陥ることになるとも考えられる。「得意淡然、失意泰然」(現在はいうまでもなう後者)というのは期待しがたいのであろうか。