rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月10日 金与正が対米関連で談話発表

 

 朝鮮中央通信が標記談話(10日付け)を報じた。本日付け「労働新聞」には掲載されていない。明日以降掲載されるかは微妙なところ。国内宣伝用の内容とは考えにくいので、おそらく掲載されないと思うが、仮に掲載されれば、金与正「格上げ」運動の更なる加速化を意味することになろう。

 談話の内容については、報道では、米朝首脳会談を「無益」としたあたりに注目が集まっているが、それは前置きで、より重要なのは、後段の今後の米朝交渉の枠組みないしアジェンダに関する部分と考える。

 まず、今後の米朝交渉について、その「基本主題」は、過去の「非核化措置対制裁解除」から「敵対視撤回対米朝交渉再開」に改めるべきとし、また、首脳会談開催の条件として、「米国の重大な態度変化」をあげている。また、それに続けて、「我々の核を奪うことに頭をめぐらすのではなく、我々の核が自ら(米国)に脅威にならないようにすることに頭をめぐらす」よう求めている。同時に、米国内における北朝鮮「人権問題」への言及やテロ支援国家再指定などの動向を指摘して、「(大統領の個人的意見にかかわりなく)米国の対朝鮮敵対視政策は決して撤回されえない」との認識を示し、北朝鮮としては、それに対応する必要があると主張している。

 要するに、首脳会談を開きたければ、そういった国内の「敵視政策」的動向を一掃するほどの姿勢を明示せよということであろう。大統領選挙前の得点稼ぎに利用されることを念頭に、かなりハードルを上げているといえよう。

 その上で、北朝鮮の「非核化」については、「しないのではなく、できないのだ」と主張し、その実現のためには、米国の「不可逆的な重大措置」が同時に行われる必要があると主張する。では、「重大措置」とは何かと言えば、「制裁解除」ではないとしつつ、具体的な言及は避けている。想像するに、非核化をできなくしている原因すなわち「敵視政策」の撤廃であろう。米国が北朝鮮の包括的で不可逆的な核開発の廃止を求めるのであれば、北朝鮮も米国の敵対視政策(に伴う動向)の包括的で不可逆的な廃止を担保する措置を求めると主張したいのであろう。

 また、北朝鮮の当面の行動については、あえて「大統領選挙前のクリスマスプレゼント」への「心配」に言及して、「全面的に自分たち(米国)の行動にかかっている」とし、「経済的圧迫や軍事的脅威のような役に立たないことにだけ執心するなら、何が起きるか見なければならない」「我々の重大な反応を誘発する危険な行動に出るなら、寝ている虎を起こす」ことになるなどと警告している。

 もう一つ注目すべきは、「現執権者との親しい関係よりも今後絶え間なく引き続き起きる米国の対朝鮮敵対視に対処し得る我々の対応能力向上により多くの苦心をすべきとき」との認識に続けて、「米国からの長期的な危険を管理し、そのような脅威を抑制し、そのような中で我々の自主権を守護する展望的な計画を樹立しなければならず、実際的な能力を強固にし、不断に発展させなければならない」としている部分である。これは、先の崔善姫外務第一次官談話の「米国の長期的な脅威を管理するためのより具体的な戦略的計算表を練っている」との表現とも符合するもの、あるいは、それを更に具体化して述べたものとも言える。何らかの行動を念頭においているように見受けられる。

 ただし、談話は、結びの部分では、米国独立記念日行事のDVDを送ってほしいとの個人的お願いや金正恩トランプ大統領に対する「事業で必ず良い成果があることを祈念する」とのあいさつを伝え、本文中の厳しい要求をいわば「善意」のオブラートでくるんでいるのも特徴的といえる。

 過剰な推測であるかもしれないが、以上の談話の主張を組み合わせると、大統領選挙前におとなしくしていてほしければ、今後、北朝鮮が進める「実際的な能力」強化のための措置を容認せよ、つまり、大統領選挙の邪魔はしないから、こちらのやることにも口を出さず、ウィン・ウィンでやりましょうとのメッセージとも解釈できる。そういう意味でも、「実際的な能力」強化が何を念頭においているのか、注目の必要があろう。