rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

8月4日 論説「最大非常体系は高度の覚醒と厳格な遵守を要求する」

 

 標記論説は、コロナ防疫活動の徹底を改めて訴えるもの。まず、「我が人民が人類を脅かす世界的な大災難の中でも安定した生活を享受し、社会主義建設を粘り強く推進できるのは、我が党の先見の明ある領導の高貴な結実」であることを称賛した上で、「党と国家がいかに強力で水も漏れない防疫対策を立てても、それを執行遵守すべき幹部と勤労者が瞬間でも安逸弛緩すれば、その生活力(効用)がまともに発揮されない。最大非常体系下において防疫戦の成果如何は全面的にそれに対する人々の観点、覚悟にかかっている」として、各人の取り組み姿勢の重要性を強調する。

 そして、「(人々の間で)即時的で徹底的な措置を取ったのだから、どんなことが起きようか、まさか悪性ウイルスが我が単位、我が家庭にまで侵入するだろうか、と勝手に慰安し解釈する観点が少しでも頭の中を支配するならば、その後禍は、取り返しがつかない」として、警戒感の弛緩を強く戒めている。

 論説が求めるのは、「全党的、全社会的に強い組織規律と行動と思考の一致性を徹底して保障し、非常防疫指揮部の指揮に一体となって絶対服従し行動する秩序を厳格に立てる」ことである。

 同日の「労働新聞」には、同論説に加えて、「全党的、全社会的に非常防疫事業の度数を高めよう」の共通題目下、「最も優先的な事業として堅持し完璧に 各地党組織において」 「醸成された事態の深刻性を心に刻み、抜け穴を漏れなく探し出し」などと題して、各地・機関の取り組み状況などを紹介する記事が10件近くも掲載されている。更に、朴奉柱(党副委員長)が南浦港の防疫事業状況を現地了解したとの記事も掲載されている(訪問日には言及なし)。

 その一方、同日には、「洪水と暴雨被害から人民の生命財産と国の財富を保護しよう」との共通題目下、「些細な隙間もなく」「逃した点がないかを確かめて」などと題して、各機関などの災害防止策を紹介する記事も数件掲載されている。

 コロナ防疫対策と予測される大雨対策の双方が当面の課題になっていたことは、1日の本ブログでも指摘したとおりだが、どちらがより喫緊かつ現実的な問題かといえば、大雨対策のように思えるのだが、上記報道ぶりからすると、北朝鮮指導部としては、コロナ対策に重きをおいているように見える。

 その理由の一つは、コロナ対策については、繰り返して政治局会議の議題になるなどした結果、「党の権威」と結び付けられていることにあるのではないかと思われる。

 なお、それと関連して、上掲論説では、「党中央の指示と布置に無限の責任性と忠実性と献身性を持って(実践していく)」べきことを求めているところ、「党中央」との表現が注目される。というのは、先般来の金与正の存在感の高まりの中で、同人を指す表現として、「党中央」が用いられているとの指摘があったからである。本ブログでは、かつてそれについて検討し、その時点では、否定的な見方を示した。では、上掲の「党中央」はどうなのか。金与正を指すものなのか、あるいは、金正恩を中心とした党を指す従前の意義に変化はないのか、一考の価値のある問題である。

 結論的に言えば、これまでのところ、それと金与正との関連を示唆するいかなる端緒も見出すことはできない。逆に言えば、仮に、一部で言われているように金与正を金正恩の後継者として定立しようとする動きがあるとするなら、現在の「防疫危機」は、同女の「実績」作りの格好の機会であり、何らかの形で防疫対策への関与をアピールしてもいいと考えられる。そうした動きが一切報じられていない(少なくとも対外的には)ということ自体が、同女の地位向上に向けた動きが抑制的なものである(ないしは抑制されている)ことを示しているといえるのではないだろうか。