rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月14日 金正恩咸鏡南道剣徳地区被害復旧現場を現地指導

 

 剣徳地区は、先の党中央軍事委員会会議において、金正恩の主唱の下、台風9号により甚大な被害を受けたとして、その復旧に人民軍部隊の投入を提起した地域である。現地指導の日付は例によって明らかにされていない。

 記事によると、復旧工事の現状は、「剣徳地区に新たに建設する住宅2,300余世帯について、総工事量の60%を突破」したところという。金正恩が言っていた「党創建記念日までの住宅復旧」の目標は達成できていないことになるが、金正恩は、出来栄えに満足したようで、賞賛の言葉を重ねており、「人民軍軍人たちの労力的偉勲を高く評価」したとされる。

 ただ、被災地への路程で見た同地の住宅状況などについては、そのみすぼらしさへの驚きを隠さず、「(かねて)剣徳地区が人民経済の重要命脈であると、重視すると言ってきたが、実際の剣徳地区人民の生活に対して応分の関心を払うことができず、このような立ち遅れた生活環境の中で暮らさせていることに深刻に自責しなければならない」と述べ、「剣徳地区を(革命戦跡地として、再整備中の)三池渕市に次ぐ国家的な模範山間都市、鉱山都市として立派に転変させる偉大な構想と設計図」を示したという。

 具体的には、「今進めている被害復旧建設は1段階として80日戦闘期間に総力を尽くして質的に(質を確保しつつの意)完成させ、2段階として党第8回大会で提示する5カ年計画期間に剣徳鉱業連合企業所、大紅青年英雄鉱山、龍養鉱山に2万5,000世帯の住宅を新たに建設する決心」をし、「自分が直接責任を負って担当し、人民軍隊と共に剣徳地区の鉱山村を世界にない鉱山都市、すべての人々がうらやむ史上初めての山岳峡谷都市として整備するとおっしゃり、剣徳地区建設方向と関連した具体的な教え」を示したという。

 とりわけ、軍に対しては強い期待を示し、「国家的に重視する政策対象を定めると、打算を先行させて敗北主義に陥り泣き声ばかり」の「国家計画機関に頼らず、人民軍隊がセメント、鋼材、燃油をはじめとした建設資材も全面的に受け持って来年から毎年5,000世代づつ年ごとに建設する」ことを命じた。

 また、「設計部門では、80日戦闘期間、剣徳地区建設総計画案を作成する」よう命じ、「設計に先立ち必ず現地踏査を行い、自然災害にも心配なく生活上の不便もないよう敷地を正しく選定し、人民の要求を徹底して反映し、住宅の外部と内部デザイン案をしっかり作るよう」にとの注文もしている。

 こうして、「今日、再度、人民軍隊を信じ、世紀的な膨大な闘争課題を決心」し、「人民軍部隊にもう一度、偉大な我が人民の為に、偉大な我が党の為に、偉大な我が国家のために献身的に戦っていこうと熱烈に訴えた」という。

 結局のところ、今次訪問は、復旧作業の指導よりも、むしろ同地の再整備という膨大な課題を人民軍に付与したことに大きな意味があったと考えられる。

 記事の文面では、それが即興的なもののように記載されているが、果たしてそうであろうか(そうだとしたら、実に恣意的な政策運営ということになる)。事前にある程度の腹案があってのことではないだろうか。

 いずれにせよ、昨年までしきりに強調されていた軍の経済建設への動員は、本ブログでも指摘してきたように今年に入ってやや抑制気味であったように見受けられたが、先般来の災害復旧への動員を契機として再開され、今次指導により、より本格的・恒常的なものとして改めて復活しそうな気配である。軍では、このニュースを聞いて、嘆息しきりなのではないだろうか。労働力だけでなく、セメントなどの所要資材もすべて自ら調達せよというのだからその負担は半端なものではないであろう。

 また、「国家的に重視する政策対象を定めると、打算を先行させ」るのは、むしろ正常な経済運営であり、「自分(金正恩)が直接責任を負う」とか軍が担当するとかいう形での資材調達は、結局、いわゆる「党経済」とか「軍需経済」とかの機能に依存するということで、むしろ経済を歪めているようにも思えるがいかがなものであろうか。まあ、「国家計画機関」への批判的言及は、軍をおだて(利権を吐き出させ)るための修辞であるのかもしれないが。