rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月21日 「人民死守戦の最前線で赫々たる偉勲を立てた最精鋭首都党員師団平壌に到着、首都市民たち熱く歓迎」

 

 標記記事は、9月から咸鏡南北道での台風被災地の復旧のため編成・派遣されていた首都党員師団が任務を終え、11月20日、平壌に帰還したことを伝えるものである。

 師団参加者らは、列車で平壌駅に到着、党副委員長である朴太徳、金英哲や平壌市党委員長・金永換らの出迎えを受けた後、バスで錦繍山太陽宮殿前広場に向かった。沿道では多数の市民がこれを歓迎したという。

 そして、同広場では、同日、「首都党員師団戦闘員たちの忠誠の報告集会」が開催され、第1首都党員師団長を務めた崔輝党副委員長が「偉大な首領様と偉大な将軍様に捧げる忠誠の報告」を、朴奉柱党副委員長が「祝賀演説」を行った後、「敬愛する最高領導者金正恩同志に捧げる宣誓文」が採択されたという(集会開催状況は別途記事で報道。報告及び祝賀演説は全文を別途掲載)。

 崔輝副委員長は、報告の中で、首都師団の活動について「咸鏡南北道の災害復旧戦闘に首都党員師団を動員したのは、決して建設労力が不足したからではなく、国が困難で大変なとき、国が傷を負ったとき、我が党員が立つべき位置がどこであるか、何をするべきかもう一度認識させるためであると述べられた敬愛する最高領導者同志の高い志を心臓に刻んで、最大に奮発し朝鮮労働党員の革命的信念と創造本態がいかなるものであるかをはっきりと示した」と自賛している。

 また、朴奉柱副委員長は、「金正恩同志の委任により党中央委員会の名前で最精鋭首都党員師団の栄誉を轟かし錦繍山太陽宮殿に駆け付け偉大な首領様と偉大な将軍様に勝利の報告、忠誠の報告を捧げる戦闘員たちを熱烈に祝賀」するなどと述べ、その功を称えた。

 金正恩あての宣誓文では、「首都党員師団の永遠の戦闘員であるとの栄誉を一生堅持し、いつでも全国の先頭で総進軍の歩幅をより大きく踏み出していく」などとの決意を表明した。

 更に同日の「労働新聞」は、上記記事に加えて、「平壌は熱く抱擁する」と題して同師団を称える政論や「最精鋭首都党員師団の英雄的偉勲は我が党歴史に永く輝くであろう」と題し同師団の出発から現地での作業状況、建築した住宅などを紹介する多数の写真を伴う朝鮮中央通信の記事など関連記事で紙面の大半を埋め尽くしている。なお、昨日(20日付け)の「労働新聞」も、「最精鋭首都党員師団に戦闘的敬意を捧げる」と題する政論を掲載していた。

 これら一連の記事から言えることは(以前にも書いたことの繰り返しになるかもしれないが)、首都党員師団の編成・派遣には、金正恩の言葉通り、単なる建設労力の動員にとどまらず、多大な政治的狙いが込められていたということである。

 まず、被災地をはじめとする全国の人民に対して、一般に特権階層と目されている平壌在住の党員を災害復旧の現場に動員することによって、金正恩の「人民重視」の姿勢を印象付けるとともに社会の一体感を醸成することであろう。

 一方、師団に参加した党員に対しては、金正恩の呼びかけに応じて多大な業績を築いたとの「経歴」ないし名誉を付与することにより、自ずと金正恩ないし体制に対する忠誠心の強化を図ることが期待できよう。彼らのそのような名誉、経歴は、金正恩の偉大性を前提とするものであるからである。簡単に言えば、彼らは、既存体制の正統性が揺るがない限りにおいて、「首都党員師団」参加者という経歴を自慢することができるのであり、いわば、金正恩と「運命共同体」的関係になったといえる。これは、いわば、首都に1万人の親衛隊員を配置したことを意味する。体制安定に大きな意義があるのではないだろうか。

 甚大な台風被害を受けた直後にこのような構想を打ち出した金正恩の政治的資質は、非凡なものと言わざるを得ない。