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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年2月23日 黄海製鉄連合企業所で決起集会開催、全国の勤労者にアピール文採択

 

 本日の「労働新聞」は、2月22日、「党中央委員会第8期第2回全員会議精神を高く奉じ、5か年計画の初年度課題を必ずや完遂するための黄海製鉄連合企業所労働階級決起集会」が開催されたことを伝えている。

 報道によると、同集会には、党中央委秘書(兼経済部長)呉洙容はじめ、金属工業相や所在地である黄海北道党の責任書記、同道人民委員長らも参加し、同企業所党委員会責任秘書の演説に続き、企業所支配人、建設大補修事業所所長、溶鉱炉職場職場長の討論、「全国の勤労者に送るアピール文」の採択、決意行進などが行われた。

 演説では、「科学技術を党政策貫徹の根本鍵とみなし、生産工程の技術改造と現代化を進め、再資源化を積極的に実現することによって、計画的で科学的な自力更生」を実現するなどの決意が披瀝された。

 アピール文では、同企業所が当初、高めと考えて設定した今年の生産目標が、それを過小とする金正恩の指導により大きく修正されたことへの反省を述べるとともに、そうして策定された今年の同企業所の鉄鋼材生産目標が昨年の2倍に当たることを明らかにした上で、金属、化学、電力、鉄道運輸、機械工業、建材工業、農業、軽工業、軍需工業部門などの労働者に対しても、それぞれの部門ごとの課題を掲げて奮闘を呼びかけている。また、「今年の戦闘は、新たな5カ年計画遂行の決定的担保を準備すると同時に歴史的な2022年を意義深く迎えるための忠誠の突撃戦である」として、来年が金日成生誕110年、金正恩生誕70周年にあたることにも言及している。

 何らかの重要目標を樹立した際に、どこかの単位の労働者が決起集会を開催して全国の勤労者に奮起を呼びかけ、各地でそれを受けた決起集会を開催するというのは、過去にもしばしば見られた動員宣伝の手法であり、前述の動きも、まさにその繰り返しといえる。ちなみに同企業所は、北朝鮮の3大製鉄所の一つとされている由であり、「5カ年計画」の最重要部門が金属工業(と化学工業)部門となっていること、かつて金日成の要請に応えて画期的な増産を実現した経緯があることなどから、今次の「呼びかけ」の地の栄誉を担うことになったのであろう。余談だが、同集会は、党秘書兼経済部長に就任したばかりの呉洙容にとってのデビュー戦といえるが、こうしたオールドファッションな動員方法とか選定経緯などは、政治局メンバー中で最古参に属する彼の個性が反映されているようにも思える。

 

 報道内容で注目されるのは、同企業所の鉄鋼材生産目標が昨年の2倍であることが明らかにされた一方で、今年の課題としては、生産工程の改造・現代化、再資源化などに力点がおかれていることである。討論者として、実際の鉄鋼生産を担当する溶鉱炉職場の責任者に先立ち、建設大補修事業所の責任者の名前が上げられているのも、そのような傾向をうかがわせる。

 ここからは、「5か年計画」が単なる生産増大というよりは、「自力更生」に向けた経済構造の改編を目指すものであることが改めてうかがえる。生産量については、その結果として、これまで生産工程の正常な稼働を阻害してきた様々な隘路が解消されることにより、自ずと増大する(といっても、本来の生産能力を大きく超えるものではない)ことが期待されているのではないだろうか。

 ただ、そうだとすると、同企業所の昨年比2倍の生産増大というのは、どう解するべきなのか。昨年は、本来の生産能力の半分以下しか稼働できなかったということであろうか。それもありえないことではないかもしれないが、では、今年は、それをもたらしていた問題をすべて解消できるのだろうか。同企業所のこうした事例が他の企業所にも共通する典型的なものであるとすれば、今年の経済部門の成果は、そうした目標設定を主導した金正恩の権威に大きな影響を及ぼすことになると考えられる。来年は、前述のような金日成金正日の誕生記念日に加え、金正恩の執権10周年にあたる年でもある。そうした意味で、今年は、金正恩にとって、自己の権威確立のための重要な「賭け」の年になるのではないだろうか。