rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年3月1日 社説「『一人は全体のために、全体は一人のために』、このスローガンを高く掲げ、我々式社会主義の威力をより力強く轟かせよう」

 

 標記社説は、「一人は全体のために、全体は一人のために」とのスローガンについて、「我々式社会主義の存立と発展の根本原理が具現されており、わが人民の要求と志向が反映された、世代を超えて高く掲げられるべき、実に良いスローガンである」(おそらく、金正恩の言葉)として、同スローガンに基づく思想宣伝活動の展開を訴えるものである。

 ただし、その趣旨は、もっぱら前段の「一人は全体のために」に置かれている。そのことは、「今こそ誰もが社会と集団のため、偉大なわが国家と人民のため知恵と精力を惜しみなく捧げるべき時である」などとの主張が繰り返されていことから明らかである。

 社説は、同スローガンの今日的意義として、①「すべての人々を党と国家、社会と集団のために身をささげて戦う真の革命家として育てる人間完成の旗幟」、②「我々自体の力、団結の威力で強力な国家経済力を備蓄していけるようにする近道」、③「わが社会をむつまじく団結した一心団結の大家庭としてより美しく整えていけるようにする原動力」となることなどをあげている。なお、②については、「(同)スローガンをより高く掲げて、千里馬時代のようにもう一度、世間を驚かす奇跡を創造しようというのがわが党の意図である」としており、同スローガンの提起が金正恩の意向を反映していることがうかがえる。

 社説は、その上で、同スローガンの下、目指すべき方向として、「誰もが社会と集団の利益の中に個人の利益があり、国家の繁栄の中に自分の幸福もあるという確固たる観点」を扶植すること、「集団的革新の火の手を強く燃え上がらせる」こと、「全国を気持ちが通じ、情が通じる人間愛の大花園として整えていく」ことをあげている。

 「一人は全体のため・・」のスローガンは、金日成時代から用いられていたもので、北朝鮮指導部(おそらくは金正恩)がこの時期、改めてこれを持ち出してきたのは、先般の中央委員会全員会議において策定した「5か年計画」の初年度課題がかなり困難なものであり、人々の自己犠牲的な献身を引き出さない限り実現が見込めない(千里馬時代のような再度の「奇跡の創造」が必要)ということの反映ではないかと考えられる。また、「単位の特殊化、本位主義」といった、いわば集団的利己主義が国家主導の経済運営の障害となっているとの事情も背景になっているのであろう。ここで「一人」と訳した部分は、朝鮮語では「ハナ」つまり「一つ」という意味であるので、これは、まさに、その問題にも直接当てはまるスローガンである。

 なお、「集団的革新の火の手・・」との表現に関連しては、2月22日の黄海製鉄連合企業所における決起集会での「全国の勤労者に送るアピール」にこたえる形で、すべての直轄市・道において勤労団体連合決起集会が開催されたことが25日に報道され(開催日時には言及なし)、さらに、本日の「労働新聞」にも、「5か年計画の初年度課題遂行に総邁進し、実際的な変化、実質的な全身をもたらそう 黄鉄労働階級のアピールに応えて各地で決起集会開催」との見出しの下、各部門の多くの企業所・工場における決起集会開催の状況が報じられている。これら集会では、黄海製鉄初の「アピール」が朗読された後、「今年の自己の単位に提示された戦闘目標が提起され、自力更生、堅忍不抜の闘争精神で党大会決定を徹底して貫徹していく」との決意表明などがなされたとされる。こういったキャンペーンの進め方にも、何か「千里馬運動」を再現したいとの期待がうかがわれる。

 本年度課題については、実務面では25日開催の内閣全員会議拡大会議の開催などを通じて具体的目標の確認・徹底が図られ、労働者の参加意欲の面ではこうした一連の宣伝活動を通じて企業所単位での宣伝活動が展開されたことになる。3月に入った今になって、いよいよ本格的な取り組みが始められることになるのであろうか。