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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年3月5日 第1回全国市・郡党責任秘書講習会を続行(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」が伝える標記会議2日目(3月4日)の状況は、次の通りである。

 まず、講習会初日から続く「討論」に関しては、21人の討論者の氏名・職責が報じられた。このうち、7人については、「党事業と市・郡の経済事業、人民生活向上と教育事業発展において収めた成果と経験について言及された」と報じられる一方、14人については、「これまでの自分の事業と市・郡党委員会事業において発露された不足点と偏向を批判的見地から分析した」と報じられており、模範的人物とそうでない人物を明確に対比させる形で行われたことがうかがえる。

 報道は、更に、「市・郡党事業を責任を持って行えず深重な欠陥を発露させた幹部たちに対する鋭い批判が行われた」としている。これが、前述の14人に対するものであるのか、あるいは、それとは別にもっぱら批判を受けるだけの人物を対象として行われたものであるのかは判然としない。

 その後、金正恩が「結論」を述べた。そこで挙げられた課題は、大別すると3点になる。

 まず求められたのは、「何よりも党内部事業に力を注ぎ、我々の革命陣地、階級陣地をしっかりと固める」ことである。具体的には、幹部隊列の整備、党員の拡大・管理、党生活(総括など)の強化、党委員会部署に対する指導・統制の強化などである。とりわけ強調されたのが「農村党事業を強化」することで、「営農活動(の指導)にばかり重きを置かず、3大革命を推進し、里党事業を確立する」ことなどを督励した。また、「(党員以外の)群衆を教養し覚醒させる」こと、「反社会主義、非社会主義を制圧消滅する闘争を大衆自身の事業として転換させる」ことなどにも言及があったとされる。

 次に掲げたのは、責任秘書の自己修養、すなわち「自らの政治実務水準と事業能力を決定的に高め、事業作風と風貌を不断に改善していく」ことである。とりわけ後段に関しては、「人民大衆第一主義」の観点から、「人民の生活上の苦衷を解決する事業を最優先」することや「清廉潔白を堅持し権力乱用と官僚主義、不正腐敗を絶対に行わない」こと、更には「(自分自身だけでなく)家族、親族も絶対に私利私欲を追求できないように警戒する」ことなどが繰り返し要求された。

 最後に挙げたのは、先の党大会及び中央委員会全員会議で示された課題貫徹に取り組み、「市・郡の経済事業と人民生活改善に顕著な実績を出す」ことである。ここでは、「市・郡党責任秘書に提起された優先的な経済課題は、農業生産を決定的に増やすことである」として、農業部門に対する指導の強化、とりわけ「農業部門に根深い虚風(ほらを吹くの意か)をなくす闘争」を訴えている。あわせて、「自体の技能工力量と建設装備に依拠して地方建設を力強く推進」することや「地域の自然地理的条件を積極的に利用して地方工業工場を活性化し、人民消費品生産を増やす」こと、あるいは、畜産、養魚の振興などで「人民生活を向上」させることが求められた。

 報道は、「講習会は続く」としている。金正恩の「結論」の後に何をするのか注目される。

 以上の「結論」に関し、韓国の報道などでは、最後の「優先的な経済課題は農業生産を増やすこと」という部分だけを取り上げて、あたかも、農業が党・市郡党責任秘書の最優先課題として、あるいは当面の経済政策の優先目標として提示されたかのような印象を与えている。しかし、前述のような「結論」の全体構成から見ると、そのような印象は誤ったものと言わざるを得ず、農業生産に対する指導は、いくつかの課題のうちで、後ろのほうに位置する一つでしかないことは明白であろう。むしろ、地方の党組織(責任秘書自身の姿勢を含めて)ないし社会の引き締めといったた方面に今次講習会開催の主たる狙いがあるように思われる。それに関連して驚いたのは、「家族、親族も絶対に私利私欲を追求できないよう」にとの訴えで、ここからは、市・郡党責任秘書の家族のみならず親族までもが、その威光を笠に着て不正な利益をむさぼっているという実情がうかがわれる。

以下加筆部分

 金正恩の「結論」に関し、もう一つ注目されるのは、地方経済の振興に関しては、事実上、自助努力によって実現するよう求めていることである。国家としての資源配分は重化学工業などを優先し、人民生活に直結する地方経済や軽工業部門などは地元の自助努力やリサイクルなどで賄おうというのが彼の基本戦略のようである。そのことは、党大会の「報告」などでも示唆されていたが、上記「結論」で改めて示されたように思う。そうした方針を徹底することも、今次「講習会」開催の一つの狙いなのであろう。