rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年3月14日 論説「社会主義生活様式確立は革命の前進発展のための重要な事業」(3月15日加筆版) 

 標記論説は、このところの「反社会主義、非社会主義現象」根絶を訴える動きの一翼をなすものだが、いくつかの点で注目すべき論理展開がみられる。

 まず、「帝国主義者の策動」に対しては、従前同様、「今日、我々の前進をどうにかして妨げようとする帝国主義者の策動は思想文化分野において悪辣に繰り広げられており、その執拗性、狡猾性は想像を超えている。帝国主義者がまきちらすブルジョア思想文化と腐った生活様式は人々を思想精神的に変質堕落させ、社会主義制度を内側から瓦解させる危険な毒素である」など、強い警戒心を示している。

 興味深いのは、現在、北朝鮮が経済建設に力を集中していることを指摘した上で、「しかし、経済状況が良くなるからと言って(思想文化面での)異色的で不健全な現象が自ずとなくなるものではなく、また、このような現象をそのままにしていては経済建設自体も成果的に推進することができない」と主張している点である。

 また、積極的な独自の価値創造の必要性を強調している点も注目される。すなわち、「多様で優秀な自分のものが多くなければ、他人のものにあこがれるようになり、異色的な風潮に陥ることになる。社会主義社会の本態とわが人民の思想感情にも合い、わが時代の志向と文明の高さにも即した革命的で高尚な社会主義生活文化を創造し発展させてこそ、人々が我々の思想文化が第一であるとの高い矜持と自負心を持って我々の思想と制度、伝統をしっかりと固守していくことができる。すべての部門、すべての単位において我々のものであると堂々と自負することのできる思想精神的財産、物質文化的財産をより多く作り出すほど人々は他人のものに自ずと背を向けることになり、それだけ我々の思想文化陣地はしっかりと固められることになる」との主張である。

 このような主張は、換言すると、北朝鮮で生産される各種製品の品質が外国製品(「他人のもの」)に比べて勝っていれば、思想文化的な面でも外国へのあこがれは自ずと姿を消し、自国の体制・制度に対する信頼・評価が生まれるということを主張しているようにも思える。それは、換言すると、現状の非社会主義現象蔓延の根本的原因が、北朝鮮製品の品質の低さを通じて、人々が自国に対する劣等感を抱かざるを得ないことにあるということになろう。これ自体は、非常に合理的な主張のようにも思える。ただ、そこから導かれる結論は、良質の製品を豊富に生産供給できるようになるよう経済建設を進めることが急務ということになる。結局のところ、経済建設と思想教養を並行して進めるべきというのが筆者の主張したい点であろうか。

以下加筆部分

 14日の「労働新聞」には、上記論説に加えて、「道徳はわが社会を支える基礎」と題する評論も掲載されている。同評論は、「東ヨーロッパ社会主義国(における体制崩壊)の教訓」として、「道徳問題をおろそかに扱うならば、社会主義の基礎を弱化させる結果をもたらすことになる」ことを挙げ、「皆が全社会の道徳気風を徹底して確立する事業を自分自身と後代たちのための事業とみなして、一体となって奮い立つ」ことを訴えている。

 ちなみに、同評論では、「道徳」の例として、高齢者を大切にするといったことを挙げており、一般的な意味での道徳を社会主義体制の基礎とみなしていることがうかがえる。そして、敵対勢力が北朝鮮体制を瓦解させるために、それを劣化させようとしているとの警戒心を示している。

 余談であるが、日本(あるいは、その他の資本主義国)の保守派の人々も、道徳の退廃が体制を揺るがす、甚だしくは、共産主義者がそのために道徳を破壊すべく策動しているとの警戒心を抱いている。そこでいう「道徳」も、同評論が想定する道徳と大きく変わるものではない。互いに敵対する勢力が、同一の要素(道徳)を自体制の基礎とみなし、相手がその破壊を企図しているとして非難・警戒し合うというのは、なんとも皮肉というか興味深い現象ではないだろうか。