rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年5月6日 金正恩が「15年構想」を抱懐?

 

 本日の「労働新聞」掲載の評論「市、郡党委員会は、すべての里を三池淵市の農村里水準に転変させることに力を注ごう」は、「今後、15年の間に全国の200余個の市、郡のすべての里をすべて三池淵市に整備する農村里の水準で、社会主義理想村として転変させることがわが党の構想であり、社会主義農村建設において我々が占領すべき目標である」として、各市、郡が域内の里整備に力を注ぐよう訴えている。あわせて、「農村の村を改変させるのと同時に(そこに住む)人々を精神文化的に開明させなければならないとうのがわが党の意図である」ともしている。

 ここで「我が党」というのは、金正恩が3年前に三池淵市を訪れた際、同地を全国の模範として整備するよう指導したとの故事を挙げていることなどからして、金正恩を指すことは明らかであろう。

 三池淵市を全国の模範として整備するとの方針は、これまでも繰り返し主張されてきたところだが、そこでの力点は同市の整備を立派に行うということに置かれており、その模範に基づいた全国の里の整備を「15年」という具体的な期間を設定して推進するというのは、また別の話といえる。当初からそのような構想が語られていたのか否か判然としないが、いずれにせよ、そのような構想が示されたのは同評論が初めてではないだろうか。

 実は、「15年」という期間設定には、伏線がある。それは、先の青年同盟大会にあてられた金正恩の書簡の中で、「我が党は今後の5年を我々式社会主義建設において画期的発展をもたらす効果的な5年、・・・大変革の5年としなるようにしようと作戦しています」とした上で(ここまでは他でも繰り返されている主張)、「そして、次の段階の巨大な闘争を連続的に展開し、今後15年内外にすべての人民が幸福を享受する隆盛繁栄する社会主義強国を打ち立てようとしています」と述べたことである。

 前掲評論において示された「15年」を目途とした全国の「里」整備方針は、この書簡で言及された「すべての人民が幸福を享受する隆盛繁栄する社会主義強国」建設構想を具体化したものと考えてよいのではないだろうか。

 もう一つ想起されるのは、最近活発化した「戦後復旧期及び千里馬時代の英雄のように・・」の宣伝キャンペーンの中で、見習うべき期間について「14年間」という数字が挙げられていることである(例として、3月1日付け「労働新聞」社説)。

 こうした「15年構想」があるとすれば、それは、金正日時代に掲げられていた「強盛大国」構想の金正恩版との印象もあるが、それよりも一層長期的であり、かつ具体的な構想ともいえる。

 ただ、気になるのは、なぜ、そのような金正恩の構想が党の大会とか中央委員会、ないし最高人民会議といった党政府の方針を策定する正式な場では示されず、青年同盟の大会あて書簡や「労働新聞」の評論といった形でしか示されないのかという点である。いまだ、金正恩個人の構想の段階にとどまっているということなのか、あるいは、彼がいかに構想しても、それを党政府の正式の計画として打ち出すには、やはりそれなりの手続きなり段階が必要ということを示しているのであろうか。この点、北朝鮮の政策決定過程を検討する上で、一つの注目される切り口になるのではないだろうか。