rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年5月22日 共産主義社会実現の方途と金正恩「首領化」の進行

 

 本日の「労働新聞」に掲載の評論「党細胞は㎡当たり責任制の原則において受け持った革命陣地を革命化共産主義化しなければならない」は、各党細胞が「3大革命」を進めることによって共産主義化を実現するとの構想を示したものである。

 評論は、まず、「㎡当たり責任制」の趣旨について、「全党のすべての党細胞が(自らの細胞の管轄下の)党員と勤労者を共産主義的に教養改造する事業と自己の単位を党政策の要求通り変貌させる事業を全面的に責任をもって執行していくこと」と説明した上で、「一言で言えば、それは党細胞が自らの受け持った革命陣地を3大革命化するということ」と要約している。

 そして、そのための具体的課題として、「何よりも、党細胞が思想革命、人間改造事業に優先的に力を注ぎ、自己の単位の党員と勤労者皆を熱烈な革命家、真の共産主義者にすること」をあげる。「党細胞は、細胞内の党員のみならず自己の単位の群衆を教養改造する直接的な教養者、人間改造の担当者である」ことが求められていることになる。

 次に掲げられる課題が「技術革命」、「文化革命」の推進である。そのために、「(管轄下の)党員と勤労者の技術実務水準を不断に高め大衆的技術革新運動を力強く展開」するとともに、「大衆体育活動と群衆文化芸術活動を活発に展開し、集団内に革命的浪漫性と気迫があふれるようにし、生産文化、生活文化を確立し、更には単位の園林緑化までもすべて党細胞が責任をもって面倒見るべき」ことを求めている。

 ここで注目されるのは、「共産主義」化において「思想革命」が極めて重視されていることと「文化革命」に関し体育、芸術、緑化など身近な活動と結び付けていることである。こうした形で「共産主義」を定義するのであれば、非常に主観的に(つまり恣意的に)その実現あるいは進捗を宣言することが可能になるのではないだろうか。

 こうした「共産主義」へのいわば急ぎ足での移行の動きが金正恩「首領化」の動きと表裏一体的に進められていることはかねて指摘してきたとおりである。本日の「労働新聞」には、後者に関連する論調も掲載されている。

 例えば、「忠実性を生命として堅持した思想と信念の強者として 各地党組織において」と題する記事は、「各地党組織において忠実性教養を思想事業の主軸として扱い、多様な形式と方法で進行して幹部と党員と勤労者をひたすら首領の思想と意図のとおり思考し行動する思想と信念の強者、熱血の愛国忠臣として育てている」ことを紹介するものである。

 同記事では、「黄海北道党委員会」において、「このような(教養)事業が力強く展開される中で今、道内の幹部と党員、勤労者は、首領に対する忠実性を信念化、良心化、道徳化、生活化し、敬愛する総秘書同志の思想と領導に限りなく忠実を尽くす熱意」を抱いて奮闘しているとし、また、「平壌化粧品工場党組織」では、「敬愛する総秘書同志の偉大性と不滅の領導業績を深く認識させることに重点を置いて忠実性教養を多様な形式と方法で実質的に組織進行している」ことを伝える。

 要するに同記事においては、「首領」と「敬愛する総秘書同志」は、入れ替え可能な言葉として用いられているのである。

 また、以上とは別に「党員は党決定貫徹のための今日の実践闘争において首領に対する忠実性、党性の検証を受けよう」との共通題目の下で掲載された「忠実性と実践」と題する評論は、「全国の党員皆が、言葉ではなく高い事業成果で首領を奉じていく燃える意志を抱いて」いるとしている。同評論では、むしろ金正恩はほとんど言及されず、「首領」に対する忠実性が繰り返されている。それが金正恩であることは、既に当然の前提とされているともいえよう。その上で、それへの忠誠は、言葉ではなく実践で示されるべきことを強調しているのである。