rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年9月13日 巡航ミサイルの発射実験を実施

 

 本日の「労働新聞」は、「国防科学院は9月11、12の両日、新しく開発した新型長距離巡航ミサイルの試射を成功裏に行った」ことを報じる記事を掲載した。

 同記事によると、同試射は、朴正天(党常務委員、秘書)と「党中央委員会の金正植、全日好の両副部長」参観の下で行われ、「発射された長距離巡航ミサイルは、わが国家の領土と領海上空に設定された楕円および8字形飛行軌道に沿って7580秒を飛行して1500キロメートル界線の標的を命中し」、その結果、「試射を通じて新しく開発したタービン送風式エンジンの推進力をはじめとする技術的指標とミサイルの飛行制御性、複合誘導結合方式による末期誘導命中正確性が設計上の要求を全て満たした」ことを確認し、「兵器システム運用の効率と実用性が優れたものに実証された」としている。

 また、同試射に至る経緯については、「第8回党大会が示した国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画の重点目標の達成において大きな意義を持つ戦略兵器である長距離巡航ミサイルの開発は、この2年間、科学的で頼もしい兵器システムの開発プロセスに従って推進されてきたし、この過程に細部的な部分試験と数十回のエンジン地上噴出試験、相異なる試験飛行、制御誘導試験、戦闘部威力試験などを成功裏に終えた」ことを明らかにしている。

 更に、巡航ミサイル開発の意義について、「党中央の特別な関心の中、中核的な事業として頑強に推し進められてきたこの兵器システムの開発は、わが国家の安全をいっそうしっかりと保障し、敵対的な勢力の反朝鮮軍事的しゅん動を強力に制圧するもう一つの効果的な抑止手段を保有するという戦略的意義を持つ」もとの自賛している。

 北朝鮮巡航ミサイル開発についてこうした報道を行うのははじめてのことであるが、韓国報道などによると、既に今年の1月22日及び3月21日の2回にわたって巡航ミサイルの試射が実施されていたとのことであるので、上記報道でも述べているとおり、これまで着々と進めてきた研究・開発の延長線上で実施されたものとみるべきであろう。また、今回の報道だけでは、当該ミサイルの命中性能、弾頭搭載重量などは不詳である。したがって、軍事技術的に今回の試射がどの程度の意義を有するものなのか、どの程度画期的なものであるのかは、慎重に検討する必要があろう。

 一方、政治外交的には、国連の弾道ミサイル発射禁止という決議に違反することなく、新たな種類の新兵器開発の進展を誇示し、先の米韓合同軍事演習への一種の対抗措置としての意味も含めて、軍事力整備の進捗状況を内外に強く印象付ける意味があったといえよう。また、「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」の存在が明らかにされたことも今次報道の注目点であろう。これも、内外への印象付けのために敢えて報じたものと考えられる。

 ただ、疑問に感じるのは、「党中央の特別の関心の中」で進められてきた同ミサイルの試射になぜ金正恩が立ち会わなかったのか、更に、従前は同人が立ち会わなかったミサイル試射に際し恒例的であった、同人への「報告」とか同人からの「祝賀」とかに関する記述が今次報道ではなされていないのかということである。韓国の報道などでは、「内政重視」の姿勢をアピールするためといった解釈が主流のようであるが、希望的観測にも思える。むしろ、今次試射が実際のところは軍事技術的にさほど重要なもの(画期的なもの)でなかったためとも考えられるのではないだろうか。それにもかかわらず、敢えて大々的に報道したのは、やはり、米韓合同軍事演習への対抗策(報復)として、しかるべき「脅威」を与えたいとの思いが働いたのではないだろうか。

 余談であるが、今次試射に朴正天が立ち会ったことは、彼の「党秘書」としての職責に軍需部門が含まれていること、換言すると、李炳哲の当該部門での権限喪失を示唆していると考えることができるのではないだろうか。李炳哲は、9日の閲兵式、錦繡山太陽宮殿を訪問などに関しても出現が伝えられていないようだが、どうなったのだろうか。