rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年9月24日 外務省副相の談話を通じて「終戦宣言」を批判

 

 朝鮮中央通信は、24日、「終戦宣言」を批判する李泰城(音訳)外務省副相の談話(23日付け)を報じた。

 談話は、冒頭、「第76回国連総会の舞台で朝鮮半島での終戦宣言問題が再び浮上している」とした上で、同宣言に関し、「今まで長期間持続している朝鮮半島の停戦状態を終えるということを公開する政治的宣言であるという点で象徴的な意味はある」「今後、平和保障システムの樹立へ進む上で終戦を宣言するのは一度は経るべき問題である」ことなどを認めつつも、「目の前の現実は終戦宣言の採択が時期尚早だ」と主張する。

 談話は、その根拠として、米国の大陸間弾道ミサイルICBM)の試射(本年2月,8月)や「米国・南朝鮮ミサイル指針終了宣言」(5月)、「日本と南朝鮮に対する数十億ドル分の武装装備販売承認」などについて「全てわれわれを狙ったもの」と決めつけ、「朝鮮半島と周辺の地上と海上、空中と水中に展開されていたり、機動していたりする米軍武力と膨大な最新戦争資産、そして毎年行われる各種の名目の戦争演習は米国の対朝鮮敵視政策が日ごとにいっそう悪辣(あくらつ)になっている」との現状を挙げている。

 そして「(こうした)米国の敵視政策が変わらない限り、終戦を十回、百回宣言するとしても変わるものは一つもない。むしろ米国・南朝鮮同盟が引き続き強化される中で終戦宣言は地域の戦略的バランスを破壊し、北と南をきりのない軍備競争に追い込む残酷な結果だけを招くようになる」との憂慮を示す。

 談話の結論は、「米国の対朝鮮敵視政策が残っている限り、終戦宣言は虚像にすぎない」のであり、「今は終戦を宣言する時ではない」、「米国の二重基準と敵視政策の撤回」こそが「最優先的な順位にある」というものである。

 いうまでもなく、同談話は、文在寅大統領がこのたびの国連総会での演説で「終戦宣言」の発出を改めて提案したことを受けたもので、北朝鮮として、基本的にそれに反対する意向を示したものといえよう。

 ただし、「終戦宣言」そのものの意義は認め、「一度は経るべき問題」としていることからすると、それ自体に反対というよりは、現時点では、まず、「米国の二重基準と(対北)敵視政策の撤回」から実践すべきという主張と理解すべきであろう。

 問題は、では北朝鮮は、そのために具体的に何が必要、あるいは何であれば有効と考えているのかということである。談話の表現からすると、朝鮮半島周辺に配備された「最新戦略資産」や戦争演習(軍事演習)などに対して警戒心を強めているようであり、また、南北間の「きりのない軍備競争」についても懸念を示しており、こうした軍備をめぐる、いわば軍備管理的な対応なり交渉を期待しているようにもみえる。「二重基準」批判も、南北の軍事力整備に対する対応(北については「挑発」と非難し、南については「抑止力」と評価)への批判であるから、結局、軍備管理問題に帰納するようにも思える。

 こうした主張は、ある意味で、文政権が推進する「戦時作戦統制権」の早期移管(=対米自主化促進)のための国防建設政策が南北関係改善と衝突するとの極めて皮肉な現実を浮き彫りにしているようにもみえる。

 いずれにせよ、文政権としては、北朝鮮の北京・冬季オリンピック参加が不可となり、画策していたそこでの南北首脳会談の夢が事実上霧散した状況で、南北関係再調整のいわば最後の切り札として出した「終戦宣言」提案までこうして拒絶されてしまうと、いよいよ「万事休す」の印象が否めない。それでも、最後まで「あがき」(よく言えば「模索」)は続けるのであろうが。