rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年9月26日 金予正が再度談話を発表(加筆版:ゴシック部分)

 

 文大統領の国連総会での「終戦宣言」提案を受けた形で、外務省副相の談話(23日)及び金予正名義の談話(24日付け)が相次いで発表されたのに続き、金予正名義の談話(25日付け)が再度発表された。

 新たな金予正談話について論じる前に外務省副相及び金予正の24日談話の骨子を改めて整理すると、①「終戦宣言」には一定の意味はある、②しかし、現状は、北朝鮮に対する敵視政策、二重基準などの問題が存在する、③そのような状況をそのままにして「終戦」を宣言することには意味がない(むしろ弊害がある)、④「終戦宣言」のためには、そのような状況の改善(姿勢転換)が先決条件である、⑤そうした姿勢転換があれば、南北関係にも良い影響を与えるであろう、というものであった。

 両者の違いは、前者が米国の政策を中心に論じつつ、とりわけ②、③(特に弊害)を強調する一方、⑤には言及していないのに対し、後者は、南北関係を中心に論じつつ、①を手厚く述べた上で⑥に言及したところにあったといえよう。

 今回の金予正談話は、まさにその延長線上において、⑥について一層敷衍・強調しつつ、改めて④を求めたものといえよう。

 具体的には、冒頭で、24日の自らの談話発表を受けた韓国内の反応に対し、「梗塞した北南関係を一日も早く回復し、平和的安定を成し遂げようとする南朝鮮の各界の雰囲気は阻むことのできないほど強烈」と評価し、「我々もやはり、そのような願いは同じ」と同調姿勢を示す。

 その上で、韓国側の「二重基準」を詳細に論難し、「(こうした)公正性を失った二重基準と対朝鮮敵視政策、あらゆる偏見と信頼を破壊する敵対的言動のような全ての火種を取り除くための南朝鮮当局の動きが目に見える実践に現れる」ことを求める。

 そして、そのような要求が容れられた結果、「公正性と互いに対する尊重の姿勢が維持され(る)」ならば、「北南間の円滑な疎通が成されるであろうし、ひいては意義ある終戦が時を失わずに宣言されるのはもちろん、北南共同連絡事務所の再設置、北南首脳の対面のような関係改善の諸問題も建設的な論議を経て早いうちに一つ一つ有意義に、見事に解決される」と文政権の望むところを余すところなく列挙している。

 談話は、最後に「これはあくまでも(金予正の)個人的な見解だ」と留保するとともに、「今後、薫風が吹いてくるか、暴風が吹きまくるか予断はしない」として、韓国側の対応を注視する姿勢を示して結んでいる。

 今次談話でも、前回の談話と同様、関係改善の前提条件、すなわち何をもって「公正性と互いに対する尊重の姿勢が維持」されたとみなすのかは明らかにされていない。一連の談話の中で最も焦点が当てられているのは、「二重基準」、すなわち、韓国が自国の軍備強化を進めつつ、北朝鮮のそれを「挑発」と批判していることである。しかし、それを改めるということが具体的に何を意味するのか、例えば、韓国に軍備強化の自制を求めるものなのか、あるいは逆に、今後北朝鮮が実施するミサイル試射等への韓国の沈黙を求めるものなのか、定かでない。それについては、北朝鮮が恣意的に判断する余地を留保しているのである。

 このような曖昧性について、韓国側の反応で興味深いのは、立場によって両用の解釈がなされていることである。対話推進派と目される識者からは、「韓国側が何らかの働きかけを行えば、そうした条件が満たされたとみなして、関係改善に応じてくるとのシグナル」との趣旨の解釈が示される一方、「揺さぶり」とする警戒的な見方も示されている。

 私個人としては、とりあえず、前回の談話に継ぐ更なる「揺さぶり」との見方を支持したい。では、何のための揺さぶりかと言えば、前述のような「二重基準」に関する韓国側の直接的な対応というよりは、米国に対する働きかけを期待しているのではないだろうか。換言すると、ボールは北朝鮮側にあるとしていた米国側の主張に対し、いわば、ボールを韓国に打ち込んで、そこから自らに有利な方向への展開を待とうというものといえるのではないだろうか。

 そもそも、文大統領の「終戦宣言」提案は、米朝交渉の議題を「非核化」一本ではなく、「米朝関係正常化」とのツートラックにするための起点とすることを目指したものであったという(ハンギョレ新聞25日付け社説)。そうしたツートラック方式は、まさに北朝鮮が望むこところであろう。したがって、北朝鮮は、「終戦宣言」をその起点とするとのアイディアには賛成できないにしても、韓国が米国に対してそうした方式を明確な形で受け入れるよう働きかけることを強く期待していると考えられる。

 今次談話は、文政権に対し、ご褒美を鼻先に並べて、そうした対米働きかけを一層頑張るよう督励することに最大の狙いがあるのではないだろうか。また、仮にそのような働きかけが奏功しなければ、その結果、米韓の間の亀裂は深まることになり、それはそれで北朝鮮にとっては意味のあることであろう。

 文政権の対応が注視される。