rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年5月16日 政治局協議会を再度開催

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が金正恩の「指導」の下、5月15日開催されたこと及びその後、金正恩平壌市内の薬局を視察したことなどを報じる記事を掲載した。 その骨子は、次のとおりである。

協議会開催状況

  • 5月15日現在の感染状況に関する国家非常防疫司令部の通報(別途記事で報道・後述)を聴取
  • 「最大非常防疫体系に移行後の全般的な防疫実態を再検討し、医薬品供給に生じた偏向を至急是正するための問題を集中討議」

金正恩の指摘、批判事項

  • 「医薬品が薬局に適時に供給されていない」、「医薬品が薬局を通じて住民に適時に正確に届けられていない」ことを指摘。「内閣と保健部門の無責任な事業態度と組織執行力に対し強く批判」
  • 「司法、検察部門」が「全国的に医薬品取り扱い及び販売において現れている各種否定的現象」を把握できていない旨を指摘、中央検察所所長の「職務怠慢行為を辛辣に叱責」

金正恩の指示内容

  • 「人民軍軍医部門の強力な力量を投入し平壌市内の医薬品供給事業を即時安定させる」(党中央軍事委特別命令を下達)
  • 「指導幹部が最大の奮発力と闘志、非常な能力と知恵を発揮」して「実質ある事業、実質ある結果」を挙げるよう督励
  • 「当面の闘争方法と目標を提示」(具体的言及はなし)

協議会でのその他の討議事項

  • 国家の行政統制力を更に強化する問題
  • 薬局での医薬品取扱いの衛生安全性を徹底して保障する問題
  • 防疫事業に対する法的統制の度数を一層高める問題
  • 国家の危機対応能力を高める問題、など

金正恩の薬局視察状況

  • 趙勇元はじめ主要幹部帯同して、平壌市内大同江区域の薬局を訪問
  • 薬局運営、薬品販売などの具体的状況を詳細に把握、各種問題点を指摘
  • 「医薬品輸送に関連した強力な実行対策」樹立を重ねて強調

 

5月15日現在の感染状況に関する国家非常防疫司令部の通報内容骨子(朝鮮中央通信記事を別途掲載)

  • 5月14日18時から15日18時までに全国的に39万2,920余名の発熱者が新規発生。15万2,600余名が完治。8名が死亡。
  • 4月末から15日18時までの発熱者総数は、121万3,550余名。うち64万8,630余名が完治、56万4,680余名が治療中。死亡者総数は50名。

なお、昨日の朝鮮中央通信が伝えた国家非常防疫司令部の通報内容骨子は、次のとおりであった。

  • 5月13日夕方から14日18時まで、全国的に29万6,180余名の発熱者が新規発生(うち完治者25万2,400余名)、15名が死亡。
  • 4月末から14日18時までの発熱者総数は、82万620余名(うち49万6,030余名が完治)、32万4,550余名を治療中。死亡者総数は42名。

 要するに感染者数は、とどまるところなく日々増加しており、既に人口の5パーセント近くが感染したことになる。ワクチン接種がほとんどなされていない中で、そうした爆発的な感染が起きているとすると、公表された死者の数は過少に思える。少なくとも感染者の1パーセント程度の試射の発生は免れないのではないだろうか。

 会議で示された対応策などを見ても、軍の医務部門投入以外は、具体性を欠く精神論に近いようにも思える。金正恩の「主動的対応」の呼びかけとは裏腹に、効果的な対応を見いだせないのが実情かもしれない。

 なお、金正恩の「司法、検察部門」に対する前掲の批判内容は、そうした中で医薬品の買い占め、隠匿などが起きていることを示すものであろう。こうした側面では、状況に即した行動が迅速に実行されているのは皮肉な現象といわざるをえない。なぜ「中央検察所所長」だけが叱責されたのかは不明だが、会議の際の対応がよくなかったのではないだろうか。

 一方、「労働新聞」には、「防疫形勢がいかに厳しくとも我々は前進を止めることができない」との共通題目の下、「高度の緊張性を維持しつつ生産と建設を最大限促進しよう」と題する評論や各部門の奮闘ぶりを伝える記事なども掲載されている。こうした対応がいつまで維持できるのかも注目される。