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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年5月28日 金正恩朝鮮総連に書簡を送付

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が、総連第25回全体大会参加者にあて送った書簡「各界各層同胞群衆の無窮の力で総連復興の新時代を開いていこう」を全文掲載している。

 なお、朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」ホームページ掲載の記事によると、同大会は、本日午後開幕、29日まで開催の予定であるという。

 書簡の概要は、前段で4つの活動課題を提示し、後段でそうした課題実現の基礎となる組織強化のための方策を列挙したものとなっている。それぞれの骨子は、次のとおりである。

1 活動課題

 課題1:「同胞第一主義」の実現:「同胞第一主義」とは「主体思想、人民大衆第一主義を在日朝鮮人運動実践に具現した思想」。同胞の「教育権、企業権、生活権」などの「権利擁護活動」、同胞に対する「奉仕福祉活動」、「同胞生活相談所」運営の活性化など。

 課題2:「民主主義的民族教育」の強化発展:「総連と在日朝鮮人運動の生命線であり、在日同胞社会の存立と将来がかかっている万年大計の愛国事業」と位置づけ、「徹頭徹尾、自分の首領、自分の祖国、自分の民族を正しく知らしめることに中心を置」き、「政治思想教育と民族性教育を確固として優先させつつ、同胞の事業と生活に必須的な知識と技術を教えてやる方向」の下、教育活動家(=教員)隊列の強化はじめ、学校支援活動拡大など。

 課題3:「民族性固守」:「民族性固守の出発点、愛国の第一歩」としての朝鮮語の愛用をはじめとして料理、舞踊、衣服など固有の文化・風習の継承強調

 課題4:「祖国の自主的統一と社会主義建設」への貢献:「祖国統一事業」では、北朝鮮の路線・方針を支持・宣伝、「民族談合事業を強化して祖国統一力量をより増大」、海外民族団体との連携強化、「南朝鮮人民の正義の活動を積極支持声援」など。「社会主義建設に特色をもって寄与」では、「主体革命偉業、総連愛国偉業に有利な国際的環境を準備」するため、「日本をはじめとした世界各国人民の中で我々の支持者、同調者隊列を絶え間なく拡大」、「地方自治体」への働きかけなど

2 組織強化策

 思想教養事業:「(金日成金正日に関する)偉大性教養」強化。「愛国主義教養を我が国家第一主義との密接な連関の下」実施。宣伝文化活動の活性化

 「一心団結」強化:「総連中央常任委員会指導力」強化(「組織内に主体の思想体系、領導体系を立てる事業を第一生命線として堅持」)。県本部、支部、分会の強化。特に分会強化を強調

 傘下団体の活性化:「思想教養団体としての任務」強調。「同胞商工人」を「総連の基本群衆であり、在日朝鮮人運動の主力軍」と位置、冒頭に「商工会」に言及。

 活動家(イルクン)の活動姿勢転換:同胞を重視・尊重し、同胞の中に入っていく。「同胞のために滅私服務しよう!」のスローガンを掲げて、同胞の「従僕」となるよう訴え

 

 以上のような書簡内容の全般的傾向として、北朝鮮本国における政治概念なりスローガンが色濃く投射される一方、総連の置かれた状況は余り考慮・反映されていないのではないかとの印象がいなめない。

 活動課題の筆頭に掲げられた「同胞第一主義」が「人民大衆第一主義」の焼き直しであることはいうまでもなく、組織強化策の最後の活動家(イルクン)の活動姿勢転換も、幹部(イルクン)に対する官僚主義批判、「滅私服務」「人民の従僕」といった先般来の本国での主張をそのまま書き換えたものである。北朝鮮における幹部と日本の総連活動家(役職者)は、同じ「イルクン」という言葉で表現されても、おかれた環境、権限、地位などにおいては、まったく異なるものであり、同胞の支持に生計の基盤を置く総連の活動家は、本国におけるような官僚主義的態度など、取りたくてもとれないのが実情であろう。

 また、課題2の民族教育については、「総連と在日朝鮮人運動の生命線」であることは、そのとおりであると思うが、そうであればこそ、「徹頭徹尾、自分の首領・・・を正しく知らしめることに中心を置」き、「政治思想教育と民族性教育を確固として優先させ」るとの教育方針を前面に掲げることが妥当なのであろうか。そういう主張をしている限りは、学生の募集もますます難しく、また、自治体からの補助金なども受けにくいままであろう。

 一方、課題3の「民族性固守」は、それが希薄化しつつある現状を踏まえてのものであろう。また、課題4の「社会主義建設への貢献」の中で、かつては大いに期待されていた経済分野の支援について具体的言及がないのは、経済制裁などの状況を配慮したためであろうか、あるいは、実際に期待度が低下しているためであろうか、興味がもたれる。また、昔と異なり、北朝鮮がミサイル実験(さらには核実験も?)を続ける中で、「日本をはじめとした世界各国人民の中で我々の支持者、同調者隊列を絶え間なく拡大」するのは、さぞかし大変であろうと同情せざるを得ない。「民族談合事業」というのは、要するに民団員に対する宣伝・抱き込み活動だが、これも今時奏功するとは思えない。

 組織強化の方策についても、本国と同様に「主体の思想体系、領導体系を立てる」ことが可能なのか、あるいは、そうした方法が組織強化の方策として妥当なのか、ますますの先細りを自ら招くことになるのではないだろうか。地方組織についても、「同胞の基本生活単位であり、末端基層組織である分会」を重視しているが、現実に組織実態を備えた分会がどれだけあるのか、全組織的にそれを活性化させることが本当に可能なのか、疑問と言わざるを得ない。

 29日まで続くとされる総連大会では、長年議長の座を守ってきた許宗萬氏が再任されるのかも注目される。ただ、誰が議長になるにせよ、こうした金正恩書簡の内容を金科玉条として今後の活動を推進することになるわけで、その前途は誠に多難と思われる。