rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年7月28日 祖国解放戦争戦勝69周年の記念行事で金正恩が演説

 

 本日の「労働新聞」は、7月27日、祖国解放戦争戦勝記念塔前で、標記記念行事が開催され、李雪柱夫人とともに出席した金正恩が演説を行ったことを報じるとともに、「祖国解放戦争参戦者たちは、我が共和国の最も英雄的な世代である」との見出しの下、同演説の全文を掲載している。

 同演説に関し、韓国や我が国の一般報道では、同演説の一部を引用してかなり強硬な対米・対韓対決姿勢を示したかのように伝えているが、全体的な論旨、さらには、同日の行事全般を総合すると、必ずしも、そうとは言えないと考えられる。

 確かに、同演説は、金正恩自ら対米、対韓非難を展開し、とりわけ、韓国に対しては、はじめて「尹錫悦」及び「尹錫悦政権」を名指しして非難した点で注目に値するものである。

 しかし、対米関係で非難しているのは、北朝鮮に対する「2重的態度」や「悪魔化」といった宣伝次元の政策である。その上で、「我が国家の印象を引き続き毀損させ、我々の安全と根本利益を引き続き厳重に侵害しようとするならば、必ず、より大きな不安と危機を甘受せざるをえないであろう」と、抽象的なけん制を加えているに過ぎない。

 一方、韓国に対しては、「歴代のいかなる保守『政権』も凌駕する極悪無道な同族対決政策と事大売国行為に没頭して朝鮮半島の情勢を戦争の道へと引きずりこんでいる」などかなり強い表現を用いており、「武器開発及び防衛産業強化策動に一層熱を上げ、米国の核戦略装備を大々的に引き込もうしている」ことを批判している。しかし、ここでも最も強い反発は、「特定の軍事的手段と方法によって先制的に我が軍事力の一部分を無力化」するとの概念であり、それに対する牽制として、「そのような危険な試みは即時強力な力によって膺懲されるであろうし、尹錫悦『政権』とその軍隊は全滅するであろう」との威嚇的言辞を弄しているわけである。ただし、それ以外の動向に対しては、「これ以上、尹錫悦とその軍事やくざがふりまく醜態と客気を黙って座視できない」としつつも、対応については、米国に対する牽制と同様、「軍事的緊張を高潮させる今のような態度を続けていくなら、相応する対価を払うことになるだろう」と抽象的な表現にとどめている。

 また、そうした国外の脅威に対する自国の対応としては、「我が国家の核戦争抑制力」は「万全態勢にあり」、「この地の安全とこの国の制度と主権は・・徹底して担保されていることを確言します」とし、核実験はもとより軍備増強などへの直接的言及は控えている。

 そうした中で、「党中央は最近に国家防衛力の発展戦略に関する任務を策定し正確な執行へと領導」していることを明らかにしている点が注目されるが、その内容については、「勝利は常に愛が熱烈で信念が強い側にあり、これは先端軍事技術が総発動される今日の戦争にも変わることがない」との考え方を前提に掲げつつ、「人民軍隊は百勝の源泉である政治思想的優越性を高く発揚させる」べきことが強調されている。おそらく、この部分は、先の中央軍事委員会の決定、すなわち前線部隊への核兵器運用任務の付与、軍内党組織の機能強化などを反映しての表現と考えられる。

 加えて留意すべきは、この演説の大半は、記念行事に参加した戦争老兵への賛辞やその精神の継承の重要性に置かれており(その点は、7月27日付け社説と同様)、また、同行事では、落下傘降下、アクロバット飛行、花火、芸術公演など祝祭的色彩の濃いものであった。

 また、同記念日に際しては、戦勝杯体育競技大会(3日~27日、平壌市と地方各所)、同ボーリング競技大会(25日~27日、平壌ボーリング館)、更には、同日夜、金日成広場で「青年学生の夜会」が、また、「この日、各道所在地と市、郡でも青年学生の慶祝舞踏会があった」のである。つまり、金正恩が演説していた時、青年学生はダンスを楽しんでいたのである。

 上掲演説の含意は、こうした諸般の状況等を念頭において検討されるべきであろう。