rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年5月30日 李炳哲が「自衛力強化の立場」を表明(「労働新聞」は金正恩称賛に集中)

 

 本日の朝鮮中央通信は、李炳哲党中央軍事委員会副委員長(党政治局常任委員)が5月29日、「日ごとに侵略的性格が無謀になる米国と南朝鮮の反朝鮮軍事的しゅん動によって朝鮮半島と地域の軍事的緊張が一層重大になっていることで、朝鮮中央通信社を通じて次のような自衛力強化の立場を発表した」として、骨子次のような内容を報じた。

  • 「米国防長官の南朝鮮地域訪問を契機に、常時配備水準に格上げされた米核戦略攻撃手段の朝鮮半島への展開、規模と期間において歴代最大に拡張された米国・南朝鮮連合訓練、史上、類のない水準で行われている空中偵察行為は、・・地域情勢にとても危険な後の暴風と逆流を引き寄せる恐れのある爆発潜在力を内包している」
  • 「(前述のような)米国とその追随勢力の危険極まりない軍事的しゅん動によって造成された地域の憂慮すべき安全環境は我々をして、敵の軍事的行動企図をリアルタイムで掌握できる頼もしい偵察情報手段の確保を最大急務として求めている」
  • 「6月にほどなく打ち上げられる我々の軍事偵察衛星1号機と新たに試験する予定の多様な偵察手段は、・・米国とその追随武力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡、監視、判別し、事前に抑止および備えて共和国武力の軍事的準備態勢を強めるうえで必須不可決のものである」
  • 「我々は、偵察情報手段の拡大と多様な防御および攻撃型兵器の更新の必要性を不断に感じており、・・包括的で実用的な戦争抑止力強化活動をより徹底した実践で行動に移していくであろう」

 同「立場」で注目されるのは、まず、「連合合同火力撃滅訓練」をはじめとした米韓の動向について詳細・具体的に指摘・非難した上で、こうした情勢への不可避の対応として、軍事偵察衛星の打ち上げを位置づけていることである。こうした主張からは、間もなく予定されている衛星打ち上げの正当性を印象つけようとの狙いが色濃くうかがわれる。

 そうした説得の対象としては、米国の「空中偵察活動」が「周辺国家の縦深地域と首都圏まで包括」と主張していることなどから、中国が意識されていることがうかがわれるが、同時に、北朝鮮国内に向けた側面も否定できないと考えられる。

 今日の時点では、同「立場」は「労働新聞」に掲載されていないが、昨日(29日)付けの「労働新聞」は、「核戦争の導火線に何とかして火を付けようとする危険千万な軍事的企図」と題する朝鮮中央通信社論評を掲載しており(同論評は朝鮮中央放送でも放映)、国内に向けて、米韓の軍事動向の「危険性」、それへの対応の必要性などを宣伝しようとの意図が存在することは間違いないと思われる。同「立場」は、明日の「労働新聞」に掲載されるのでないだろうか。

 二番目の注目点は、今後獲得すべき偵察手段として、軍事偵察衛星1号機に加える形で、「新たに試験する予定の多様な偵察手段」を挙げていることである。これが何を指すのか、にわかに予測しがたいが、想定外のものが飛び出してくる可能性も含め注視すべきであろう。

 話題は変わるが、本日の「労働新聞」は、第1面から3面までを費やして、金正恩の領導の偉大性、実績などを大々的に喧伝している。

 まず、1面には、「主体革命の百年大計のために」と題する大論文を掲げ、金正恩の賢明な領導により「百年大計」に基づく政策展開が行われていることを称賛している。そこでは、「百年大計戦略は、一言で言えば主体をくまなく強化すること」と説明され、具体的には、「思想理論活動を前提とする」ものであり(金日成金正日主義の確立)、「党を強化し、人民大衆を力強い社会主義建設者として準備させ」、「自存、自立の強力な担保と土台を構築」し、「革命の後備隊が立派に準備されている」ことなどがあげられている。また、そうした金正恩の「百年大計を果敢に設計する原動力」は「後代の運命と未来に対する崇高な責任感」であり、「金正恩同志が帯びられた特出した実力は、百年大計を成果的に実行することのできる無限大の力である」などと主張している。

 また、2面及び3面には、前掲論説を具体化する形で、「首都が変わり、地方が変化する 偉大な党が広げた繁栄の設計図に従って進む人民の信念高い」との共通題目の下、2面には「胸躍る時代」と題し、平壌市内に建設された街区と各地農村住宅の写真16枚を配した記事が、3面には、「夢のようなこの幸福 誰が下さったのか、我が元帥様の恩徳である、今日も良いが明日はまたどれだけ輝煌燦爛たるものであろうか」と題する評論が掲載されている。

 こうした宣伝は、要するに、金正恩の施策について、これまでの実績として平壌市内及び各地農村での住宅建設を掲げつつ、更に、「後代」のための未来志向的なものであることを印象つけることによって、日常生活などに対する人々の不満の緩和、慰撫を目指したものと思われる。

 そうした企図を前面に打ち出した本日の紙面構成と前掲の李炳哲の「立場」における衛星打ち上げに対する正当化付与のための言説は、人民の疑念解消・支持獲得のための説得(弁解?)という点で、通底しているように思われる。