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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年9月10日 金正恩が「国慶節」に際し「重要演説」実施を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が「国慶節」(政権創建記念日)に当たる9月9日、党中央庁舎において、党・政府。軍などの「指導幹部に会って祝賀し、国家事業方向に関する重要演説」を行ったことを報じると同時に「偉大なわが国家の隆盛・繁栄のために一層奮闘しよう」と題する同演説を紹介する記事を掲載した。その概況は、次のとおりである。

ア 出席者:党常務委員会委員をはじめとする党と政府の指導幹部、各道党責任秘書、最高人民会議常任委員会と内閣、勤労者団体、省、中央機関、軍需工業部門の責任幹部、国防省の指揮メンバーと各軍種司令官、武力機関の責任幹部

イ 演説の位置づけ:「今年の現在までの国家事業全般の現況を総合的に深く分析、評価し、国家事業において堅持すべき闘争方向と指針を詳細に明らかにした」(「重要演説の全文は出版、印刷されて党及び政府機関に配布される」)

ウ 演説骨子

  • 地方振興政策:「全面的国家発展を促すための重大な戦略的決断」、「地方発展の構想に対する懐疑的な態度と立場を持つ人々も確かにいるであろう」が「10年後に我々は今日のこの問いに現実的変革で答えるであろう」
  • 今年のこれまでの事業総括:「人民経済の各部門が月別、四半期別の生産計画を狂いなく遂行しつつ、今年に達成すべき整備・補強目標を着実に推進している」、「農業の作柄も今までは全般的に良好」、「国防力の急進的な発展を力強く促して大きな画期的結果を獲得」→「重要政策的課題が基本的に勝勢に乗って正しく、満足に進捗している」
  • 今後の重要課題(総論):「最も重要なのは、全ての党員と全国の勤労者、人民軍将兵の限りない愛国心と忠誠心をさらに昇華させ、拡大させて成功裏の結実へと導くこと」
  • 経済分野課題:「勤労者の生産的熱意と創意性を最大限に高め、技術・技能水準を向上」、「生産部門全般で現存設備に対する正常な整備・補修・・生産工程と設備の絶え間ない更新」、「年まで完結することになっている整備・補強計画を所定の期日に無条件に完了」、「国家的に生産物の円滑で安らかな流通を重視し、企業体の相対的独自性に基づいた生産経営活動の有利な条件と環境を整えてやるのに優先性を付与し、勤労者の実質所得を持続的に高めるための効果的な対策を講じる」
  • 地方振興政策:「(今日の)先決課題は新時代の地方発展政策の無条件的かつ完璧な実行」、「首都市民の物質的・文化的生活水準をもって朝鮮式社会主義の体制的特性と優越性について評価しようとしてはなら(ない)」、「年末には必ず20の市・郡で同時多発的に完工の実体を出さなければならない」、「追加対象として予見した科学技術普及中心は総合的な文化生活拠点に拡張して建設・・住民が映画も鑑賞し、スポーツ・文化生活も行い、衛生環境条件が整った商業網とその他の各種の便益施設まで含まれた多機能化された複合型文化中心(とする)」
  • 国防関係課題:「周辺軍事的安全環境は、米国が主導する軍事ブロックシステムの無分別な拡張策動と、それが核に基づいた軍事ブロックという性格に進化」→「核力量とそれを国家の安全権の保障に任意の時刻に正しく使用することのできる態勢がより徹底的に完備」の必要性論証、「核を保有した敵手国家が強要するいかなる威嚇的行動にも徹底的に対応することのできる核力量を絶えず強化していく」
  • 党・政府機関の活性化:「党組織と党活動家の責任感と役割」強調、「(党の)組織力指導力、実践力を遺憾なく発揮して今年の闘争目標を無条件に達成するための企画と指揮を電撃的に強力に展開(すべき)」、「経済幹部は、・・110余日しか残っていないことを自覚して、一日一瞬も無駄に過ごせず受け持った任務の遂行に邁進(すべき)」、「法機関の機能と役割を全面的に強化」

 金正恩の演説は、相当長文であるが、そうした中で、重点を置かれているのは、地方振興政策の意義と軍備増強の必要性である。とりわけ前者については、敢えて「懐疑的な態度と立場を持つ人々」の存在を前提に、同政策の実現可能性を強調していることが印象的である。

 また、内容面を見ると、国防分野を含め、概して従前の方針・主張の繰り返しであるが、新たに示されたものとしては、先般提起したばかりの地方工業工場に付加した施設建設方針に関し、「科学技術普及中心」としていた施設を「総合的な文化生活拠点」へと改めた点をあげることができる。「地方建設歴史で概念さえなかった新しい対象」であるだけに、建設の負担はますます強まることになろう。

 このほか、経済管理に関し、「企業の相対的独自性」重視などに言及していることも注目される。しばらく影を潜めていた「改革」的施策の再浮上につながるものであるのか、慎重に見極めていく必要があろう。

 なお、今年が「共和国創建76周年」といういわゆる「節目の年」でないにもかかわらず、「国慶節」に際して金正恩が多数の幹部を集めて、こうした「重要演説」を行ったのは、代議員選挙の遅延により、例年この時期に開催していた最高人民会議が開催できないため、そこで行うはずの「施政演説」に代替させる狙いがあったのではないかと考えられる。それにつけても、選挙はどうなっているのか気になる。