2024年9月14日 金正恩の核施設視察時における「先制攻撃」発言について(補論)
9月13日付け「労働新聞」は、金正恩の「核兵器研究所と兵器級核物質生産基地」を現地指導したことを報じたが(同日の本ブログ参照)、そこでは、金正恩が米国の「核脅威」増大などを理由に「核戦力を中枢とする自衛的国防力と先制攻撃能力を絶え間なく引き続き拡大、強化していく」必要性を述べたことが明らかにされている。
ここで着目されるのが「先制攻撃能力」との表現である。金正恩は、核兵器を防衛目的のみならず、「先制攻撃」にも使用しようとしていることになる。それを単純に解釈すると、北朝鮮がある日突然、核ミサイルを用いた奇襲攻撃をかけてくる可能性を指摘することもできよう。
しかし、それは誤解であろう。ここで金正恩が用いた「先制攻撃」との表現は、日本の防衛論争でも取りざたされる、「他国からの侵害が急迫したものである場合に、それを排除するために必要な攻撃」、すなわち「先制的自衛権」の行使(pre-emptive attack)を意味するものと考えるべきであろう(言うまでもないが、日本政府(及び多くの保守論客)は、我が国は、現行憲法の規定の下でも、そうした権利を保有していると主張している)。
現に、北朝鮮の核ドクトリンは、2022年9月8日、最高人民会議第14期第7回会議において「法令」として採択した「朝鮮民主主義人民共和国核武力について」において、核武力の使用条件として、「共和国に対する核兵器その他大量殺戮兵器による攻撃」、「国家指導部、国家核武力指揮機構に対する攻撃」、「国家の重要戦略的対象に対する致命的な軍事攻撃」などが行われた場合と並べてそれらが「切迫していると判断される場合」を規定している(第6項)。
金正恩の述べた「先制攻撃能力」とは、具体的には、そうした場合における攻撃能力を指すものであろう。
ただ、それだけ言って終わると、金正恩のために陳弁したように思われるので、あわてて付け加えると、もちろん、そうした「判断」は、北朝鮮が行うものであるから、それが恣意的に拡大されない保証はない。核兵器使用の可否を実際に制約するのは、もし核兵器を先制的に使用した場合、どのような報復がなされるのか、その場合の損得勘定はどうなのかについての(金正恩の)認識だけであろう。
米韓当局者が「北朝鮮の核兵器使用は体制終焉を意味する」ことを繰り返し強調し、その言葉の実体を担保するための制度構築に力を注いでいるのは、まさにそれ故と考える。