2024年11月26日 金正恩の新浦市浅海養殖事業所建設場に対する現地指導を報道(加筆版)
本日の「労働新聞」は、金正恩が咸鏡南道新浦市に建設中の浅海養殖事業所の建設場を訪れ、現地指導したことを報じる記事を掲載した(訪問期日は不詳)。その骨子は、次のとおりである。
- 同行者:「党主要幹部と設計及び施工単位の指導幹部」、「党咸鏡南道新浦市委員会の張経国(音訳)責任書記をはじめとする(同)市責任幹部」
- 同事業所の現況:「(事業所建築工事の)総工事量の70余%が進捗し、100ヘクタールの養殖場を造成し、ホタテガイとコンブの模範養殖を行っている」、「新しい養殖技術と方法を積極的に取り入れ・・優良品種のホタテガイの生存率を80%水準で保障し・・コンブ養殖の先進技術の導入においても重要な成果を収めた」、「党中央の直接的な関心と配慮によって・・各種の漁具資材とプラスチック製の船、養殖母船をはじめとする必須の生産手段、設備、装備が完備されており、加工場に設置する設備一式の製作と確保も最終段階」
- 金正恩の評価:「今回の重要建設の設計を通じて・・機能性、経営管理の便宜さを主とする多様な空間利用方式を積極的に生かした設計に対する新しい概念を会得・・に対して肯定的な変化・・と評価」の一方、「全ての工程が建設法に準じた科学的で法規的な手順に従って厳格に行われず・・機能性の側面よりも直観的効果にのみ偏り・・趣味本位的かつ無規律的で、経済的実理性を保障しない弊害・・を指摘」
- 金正恩の提示した課題:①「設計の全般がより更新された事業システムに依拠すべきであり、それを監察し審議・承認するシステムも一層強化」、②「従業員の技術・技能水準を高める事業を強くとらえて推進」
新浦市浅海養殖事業所は、金正恩が7月15日、同地を訪問、「地方経済発展関連協議会」を主宰し、地方発展の「可能性を確証」するための浅海養殖業の「標本基地」として建設・整備することを決めた事業所である。
金正恩がそうした事業を発起した趣旨は、「地方発展20×10政策」の対象となる20の市・郡以外の地域においても、同政策の対象となるまで待つことなく、それぞれが主動的・自立的に当該地域の自然条件などを活用して、「地域経済発展」に向けた取り組みを進めることを促すモデル・ケースを創造することにあったと考えられる。
ただ、モデル・ケースは、あくまでもモデル・ケースであり、そこでの成果は、「党中央の直接的な関心と配慮」があってこそのものとも考えられる。それを模倣して、各地で一斉に取り組みをはじめた場合に、果たしてそれに類する結果を得られるか否かは、疑問なしとしない。
いずれにせよ、このところの金正恩の動向からは、年末に向け、年初来広げた「大風呂敷」の成果を確認・結束することに躍起となっていることがうかがえる。
以下加筆
さらに蛇足かもしれないが、金正恩の「趣味本位的かつ無規律的で、経済的実理性を保障しない弊害」に対する批判は、そもそも、金正恩がかねて建築が持つ政治的象徴物としての意義を強調してきたことを勘案すると、それを真に受けて独創的な形状や壮大な規模などを目指してきた実務陣にとっては、いわば「梯子を外された」との印象を与えるものではないだろうか。
金正恩としては、俺の言ったのは、あくまでも本来の機能・用途を十分に発揮するという前提の下での独創性であり、無駄に奇抜なデザインを目指せと言ったわけではないということになるのかもしれないが、「お言葉」の真意を体して的確に実践するのは、なかなか難しいということになろう。