rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年6月17日 評論「党中央委員会第8期第5回全員会議の基本精神」

 

 標記評論は、先に開催の党中央委員会第8期第5回全員会議の「基本精神」について、「勝利の信念と強い意志で峻厳な国難を打開し、今年の闘争目標を成果的に遂行し、活気ある国家発展の新たな局面を開いていこうというもの」と説明している。

 その上で、そこには、「我が党の真っ向から受けて立つ攻撃精神、屈することを知らない闘争精神」と「いついかなる環境の中でも人民のため服務する母なる党としての責任と本分を尽くそうとする我が党の透徹した信念」が込められていると主張している。

 また、本日の社説は、「党にしたがって万難を排し勝利を轟かせてきた歴史と伝統をしっかりと引き継いでいこう」と題するもので、「すべての人民が党と思考と行動を一致させることは現国難を最短期間内に克服し、我々式社会主義建設をより活力をもって進捗させるための必須的要求である」とし、「百戦百勝(の)朝鮮労働党の領導があるが故に我々は必ず勝利するとの確固たる信念を堅持しなければならない。すべての人民が党中央の思想と領導に絶対忠実で党中央との一致歩調を自覚的に義務的に維持しなければならない」と訴えている。

 結局のところ、先の中央委員会が当面の難局打開の鍵として示したことは、信念を持てということであり、いかなる信念かと言えば、党中央すなわち金正恩にしたがってさえ行けば勝利できるとの信念であり、それをもとに、党中央の指示に疑問を抱かず、ひたすらその実現だけを目指して奮闘せよ、ということのようである。

 ちなみに、昨日付け「労働新聞」は、黄海南道海州市付近での「急性腸内性伝染病」の発生を受けて、15日、金正恩が家庭内に備えていた医薬品を被災世帯に寄贈するとともに、党中央勤務員に対しても同様の行動を取ることを指示したことを大きく報じたのに続き、本日付けでは、16日に、金正恩の送った医薬品が海州市の被害住民世帯に伝達され、「(受け取った)人民は嬉しさの涙で両頬を濡らして「金正恩同志万歳!」「朝鮮労働党万歳!」を声の限り叫んだ」こと及び党中央勤務員の医薬品寄贈活動が行われたことを報じている。後者については趙勇元、李日換、金予正、玄松月の写真も掲載している。

 こうした報道は、前述の「母なる党」のイメージ扶植のためのもといえよう。それにしても、コロナ防疫を進める中での新たな伝染病発生という事態は、普通であれば「泣きっ面に蜂」(韓国語で言えば「霜上加霜」)というべきだが、それをも格好の宣伝材料としてしまう北朝鮮の「転んでも多々では起きない」、レジリエンスの高さには改めて驚かされずにはいられない。

2022年6月13日 党中央委秘書局会議を開催

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が6月12日、金正恩が「司会」して開催されたことを伝える記事を掲載した。

 同記事は、会議出席者として、金正恩のほか「秘書である」趙勇元、朴正天、李炳哲、李日換、金在龍、全現哲、朴泰成の名前を挙げている。この7人が先の中央委員会での人事異動を経た秘書局の現況であろう。各人の担当分野については、次のとおりと推測できる。

  • 趙勇元:組織(組織指導部長兼任)
  • 朴正天:軍事
  • 李炳哲:軍需
  • 李日換:宣伝扇動
  • 金在龍:検査・統制(中央検査委員会委員長兼任)
  • 全現哲:経済(経済部長兼任)
  • 朴泰成:科学・教育(韓国報道による推測。今次会議で政治局委員に復活)

 会議で討議された議題は2点あった。1点目は、先の中央委員会全員会議決定を受け、「本年党及び国家事業全般において党組織の役割を決定的に改善することについての問題」であり、「該当する革命的課題を設定した」とされる。

 2点目は、党内規律の強化についてであり、これが同会議の中心テーマであったと思われる。金正恩が「一部党幹部の中で現れている勢道(権力乱用)と官僚主義をはじめとする不健全で非革命的な行為を標的」にして、「党中央検査委委員会と地方の各級及び基層規律監督体系をより強化するための組織機構的対策と効率的な事業体系を樹立」するとともに「検査委員会の事業補佐機構である規律調査部署の権能と職能を拡大強化」するなどして、「厳格な監督事業体系と規律審議秩序、厳正な罰則制度を実施」するよう指示したとされる。

 こうした党内規律強化の動きは、先の中央委員会全員会議において、中央検査委委員長が更迭され、組織指導部長を務めていた金在龍がその後任に任じられたこととも関連するものであろう。また、同会議で行われた「党規約・解説集」の修正・補充も、具体的内容が明らかにされていないが、あるいは、そうした規律強化のためのものであった可能性も考えられる。更に言えば、5月17日に開催された政治局常務委員会会議において、「党中央指導機関メンバーの活動に現れた優欠点を全面的に分析」し、金正恩が「国家指導幹部の非積極的な態度と弛緩性、非活動性」を批判したことなどとも符合する。

 そうした意味で、今次秘書局会議で示された方針・措置などは、全員会議以前から続く一連の流れの延長線上のものといえる。

 ただ、そうであるならば、規律強化の必要性などについて、金正恩が全員会議の場で、出席した全国の幹部に直接、訴えてしかるべきところと考えられるが、報道された限りでは、全員会議では、そうした問題について直接的な言及はほとんどなされていない。あるいは、実際には、異例にも第1の議題とされた「組織問題」(人事)審議に際し、更迭される人物に対する官僚主義批判などがなされたが、それは報道されなかったといった可能性も考えられなくもないが、何か釈然としない印象を拭えない。

2022年6月12日 中央委員会詳報

 

 標記会議の開催状況に関しては、昨日の本ブログで概略紹介したが、金正恩の「結論」、「報告」の注目点及び主な人事異動について、改めて整理しておく。

金正恩の第2議題(本年上半期総括)に関する「結論」、第3議題(コロナ防疫)に関する「報告」の注目部分

  • 上半期活動結果に関し、「進一歩の成果」と肯定的評価。国防建設:「国家安全に対する担保と信頼の基礎を固める上で歴史的前進」、経済部門:「多くの部門の生産を増加させ全般的経済に上昇推移」、コロナ防疫:「突発的な非常防疫事態の中で安定と発展速度を確実に維持している。・・(経済部門で)一時的に醸成された混乱を迅速に整頓し、非常状況の要求に即して事業を緻密に組織指揮し経済政策執行を頑強に推進した」
  • 下半期に向けた課題:「金属、化学、電力、石炭工業をはじめとした基幹工業部門の下半年度闘争方向と実行対策を具体的に提示」とのみ記述の一方、「農事と消費品生産を今年経済課題中の急先務として提起」、農業・軽工業部門に関しては各種課題を列挙。「農村住宅建設の初年度課題を必ず遂行」も訴え
  • 外交安保関連:「我が国家の安全環境は極めて深刻で周辺情勢はより極端に激化しうる危険性を帯びており・・国防力強化のための目標占領をより促進することを催促している」「自衛権はすなわち国権守護問題であり・・国権を守護する上では少しも譲歩しない我が党の強対強、全面勝負の闘争原則を再闡明」「対敵闘争(従前は「対南関係」と表記の部分)と対外事業部門で堅持すべき原則と戦略戦術的方向が闡明された」
  • コロナ防疫活動関係:「突発的な重大危機を経て封鎖中心の防疫から封鎖と撲滅闘争を並行する新たな段階に入った現情勢」において、「当面する防疫危機を成果的に打開するとともに国家防疫能力建設を同時的に力強く推進」を訴え、保健制度充実等にも言及。「人民の自覚的一致性を基盤とした防疫」も強調、「思想動員」をはじめとした党組織の役割発揮を督励

主な人事異動内容

  • 経済関係:党秘書・経済部長(全現哲・政治局委員)、党軽工業部長(韓光相・政治局候補委員)、党科学教育部長(李忠吉)、内閣副総理(全勝極)、食糧工業相、商業相、国家科学技術委員長
  • 軍・治安関係:軍総参謀長(李泰摂・政治局委員・軍事委員)、軍総政治局長(鄭慶沢)、軍保衛局長(趙慶哲・軍事委員)、軍総参謀部偵察総局長(李創浩・軍事委員)、社会安全相(朴守日・政治局候補委員・軍事委員)、国家保衛相(李創大・政治局候補委員)、党軍需工業部長(推測:趙春竜)
  • 党組織関係:党検査委委員長・党秘書(金在龍)、検査委委員(金仁哲・社会安全省副相)、内閣政治局局長・内閣党委員会責任秘書(金豆日)
  • 外交・対南関係:外務相(崔善姫・政治局候補委員)、党統一戦線部長(李先権)

 

2022年6月11日 党中央委員会第8期第5回全員会議拡大会議が閉幕

 

 本日の「労働新聞」は、6月8日から10日までの3日間開催された標記会議の概況を報じる記事を掲載した。

 同会議の最大の特徴は、第1議題として「組織問題」をとり上げ、党、内閣、軍にわたる大規模な高官級人事を実施したことである。「組織問題」は議題の最後に置かれるのが通例であり、開幕当初の報道で会議内容が具体的に報じられなかったのも、これと関係すると考えられる。一般報道では、崔善姫の外相就任に注目が集まっているが、それよりも権力中枢に近い党中央委秘書・部長、軍治安機関トップなどで相当規模の入れ替えが行われており、その意味、背景などについて、十分な検討が必要であろう。

 同会議の開催決定時から主な議題として予定されていた本年上半期の総括と今後の対策については、第2議題としてとりあげられ、金徳訓総理と党中央委農業部長の報告に続いて、金正恩が「結論」を述べ、上半期成果についてコロナ防疫も含めて基本的に肯定的な評価を示した上で、下半期に向けた分野ごとの課題を示した。そこでは、経済関係で農業、軽工業及び建設部門重視の姿勢が示されるとともに、対外関係で「我が党の強対強、全面勝負の闘争原則」を再確認し「国防力強化」の加速を督励するとともに、対韓関係を「対敵闘争」と位置付けるなど、強硬姿勢を印象付けた。ただ、注目の核・ミサイルについての具体的言及はなかった。

 また、喫緊の課題であるコロナ防疫活動については、第3議題としてとりあげ、金正恩が自ら報告を行って、その意義・重要性を強調した上で各種の取り組み強化を呼びかけた。

 会議では、以上の第2、第3議題に関し9つの分科別に研究・協議会を開催した上で、決定書を採択した。

 このほか、第4議題として「党規約と党規約解説集の一部内容を修正補充」することが取り上げられたが、改正が規約に及ぶのかその解説にとどまるのかも含め、具体的内容は公表されず、不詳である。

 今次会議に関しては、概して言うと、これまでに繰り返されてきた主張・報道などの延長線上において、それらを再確認し、その徹底を図るためのものであったと結論づけることができよう。ただ、人事異動の対象者の個別の傾向など子細に観察すれば、何らかの新たな方向性をうかがうことができるかもしれないので、その可能性は留保しつつ、今後検討を深めたいと思う。

2022年6月10日 中央委員会全員会議の開催状況報道せず

 

 昨日、8日からの開幕が報じられた標記会議であるが、今日は、恒例であれば、2日目の状況が報じられるところ、「労働新聞」及び朝鮮中央通信などでも、同会議に関し何らの報道も行っていない。昨日の本ブログで指摘したとおり、昨日の報道ぶりも議事の具体的内容を報じない異例のものであったのに続き、明らかに異例の対応である。

 そもそも会議開催直前の政治局会議に金正恩が出席しなかったことが異例である。

 何が起きているのか、想像がつかないが非常に気になるところである。

2022年6月9日 中央委員会全員会議拡大会議開幕

 

 本日の「労働新聞」は、党中央委員会第8期第5回全員会議拡大会議が8日から開始されたことを報じる記事を掲載した。

 同会議の開催は予定されていたことであるが、その報道ぶりは、異例なものとの印象を禁じ得ない。

 何よりも、添付の写真が会議場である党中央本部庁舎に入っていく参加者の姿をうつしたもの1枚だけで、「会議を司会」したとされる金正恩の姿も、会議場の光景も示されていない。

 また、会議の進行状況については、「上程された討議議題を一致可決で承認した」こと、「議題討議に入った」ところまでしか報じていない。昨日の出来事を報じるにしては、遅すぎるとしかいえない。通例であれば、初日の概況を伝えた上で、「会議は続く」と報じるところであろう。

 このほか、微細な点だが、金正恩を除く常務委員の報道序列にも変化が生じた。金徳訓(総理)、趙勇元(党組織秘書)、崔竜海最高人民会議常務委員長)、朴正天(党秘書)、李炳哲(党秘書)の順番になっている。金徳訓が突然、筆頭に躍り出たわけである。これが一時的なものなのか見極めが必要であろう。

 なんと言っても、7日の政治局会議に金正恩が出席していなかっただけに、その姿が写真などで実際に示されないと、本当に大丈夫なのかとの危惧を払拭できない。

 なお、傍聴者は、昨日の本ブログで予測したとおり、中央、道レベルにとどまらず、「市、郡、重要工場、企業所の責任幹部」ということで、相当大規模な会議になっていると考えられる。

2022年6月8日 党政治局会議開催、金正恩は欠席

 

 本日の「労働新聞」は、党中央委第8期第9回政治局会議が6月7日開催されたことを伝える記事を掲載した。

 最も注目されるのは、同会議に金正恩が欠席したことである。報道では、趙勇元組織秘書が「会議を司会した」としている。

 会議の内容については、「党中央委員会第8期第5回全員会議の討議議題を決定し、全員会議に提出する党及び国家政策執行状況中間総括報告書をはじめとした重要文献と全員会議拡大会議討議形式、日程、傍聴者選抜状況を審議し承認した」とされている。

 コロナ防疫関連の表現はなく、今次会議は、専ら全員会議準備のためであったと考えられる。前述の記載から、「6月上旬」に予定されている同会議が「拡大会議」形式で開催されること、相当規模の傍聴者が参加することが予測される。更に、わざわざ「討議形式」や「日程」を審議したことからして、単なる「報告」→「討論」→「採決」ではなく、分科会ごとの研究・協議などを含め一定の日数を費やして、相当力を入れた形で開催されることがうかがわれる。

 ただ、何よりも気になるのは、金正恩がなぜ欠席したのかである。今のところ、同会議開催を伝える韓国の報道では、さほど着目していないようだが、仮に、数日内にも開催されるであろう全員会議に姿を現さなければ、世界中が大騒ぎになるであろう。