rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年4月26日 金正恩が240mm放射砲弾検収試験射撃を視察

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が4月25日、「新たに設立された第2経済委員会傘下国防工業企業所が生産した240㎜放射砲弾の検収試験射撃をご覧になった」ことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

  • 試験射撃指導者:朴正天(軍政指導部長)、趙春龍(軍需工業部長)の両秘書、金正植(軍需工業部)副部長、高炳賢第2経済委員会委員長
  • 試験結果:「放射砲弾の飛行特性と命中性、集中性の指標がたいへん満足に評価された」
  • 金正恩言動:「当該の国防工業企業所で今年に示逹された軍需生産計画を間違いなく質的に遂行することについて強調」、「新しい技術が導入された240mm放射砲武器体系我が軍隊の砲兵力量強化において戦略的変化を起こすことになるであろうと確言」

 同記事には、滑走路に停められた2連装の発射車両(TEL)がミサイル状のものを発射する状況が示されている。

 これまで、240mm放射砲弾に関しては、金正恩が昨年8月11,12日における「重要軍需工場現地指導」の一環として「大口径操縦放射砲弾生産工場」を視察した際、「国防科学研究部門において・・122mmと240mm放射砲弾の操縦化を実現したことは・・放射砲利用分野における一大革命」とした上で、「これからは砲弾生産に総決起」することを求め、「前線部隊の砲兵武力強化において操縦放射砲弾を幾何級数的に増やすことが極めて切実な問題(であり)・・増加された軍の作戦需要に即して砲弾生産において成長を収めより多くの砲弾を前線部隊に縦長配備しなければならない」と指示していた。

 また、今年に入ってからは、国防科学院が2月11日、「240㎜操縦放射砲弾の弾道操縦射撃試験」を実施して「操縦放射砲弾と弾道操縦体系を新たなに開発することに成功」し、「このような技術的急進によって240ミリ放射砲の戦略的価値と効用性が再評価され・・戦場における240ミリ放射砲の役割が増大」することを確信している」ことが報じられていた(12日付け朝鮮中央通信)。

 要するに、昨年8月時点で開発済みであった誘導可能な240mm放射砲弾を今年2月に試験発射し、それを生産するために「新たに近代的に設立された企業所」(昨年8月の金正恩指示により建設と推測)が実際に生産した砲弾の性能をこのたびの試射で確認したのであろう。そして、今後は、同企業所で量産される240mm放射砲弾が軍部隊に供給され、その「砲兵力強化において戦略的変化を起こす」ことを期待・予言しているのであろう。

 「核」のみならず通常戦力面でも戦力強化を着々と推進していることを改めて印象つける動きといえよう。

 なお、本日は、金正恩が4月25日、金日成軍事総合大学を「祝賀訪問」したことも報じられているが、それについては、別途論じたい。

2024年4月26日 朝鮮労働党第2回宣伝部門活動家講習会の開催状況について

 

 4月24日付け「労働新聞」は、標記講習会が4月20日から23日までの間、開催されたことを報じる記事を掲載した。遅ればせながら、その概況は、つぎのとおりであった。

  • 開催目的:「大衆の忠誠と愛国の底知れない力と情熱を興隆強国の建設へ総志向させるべき党宣伝部門の活動家の思想精神と活動方式を一新し、党思想活動において明白な実際の改善をもたらすための対策を立てること」
  • 出席者:李日煥(秘書)、朱昌日(宣伝扇動部長)、李斗星(勤労団体部長)、李恵貞(党歴史研究所長)、党中央委員会宣伝扇動部と当該部署の活動家、各道・市・郡党とそれと同じ機能を果たす党委員会宣伝扇動部の活動家、省、中央機関をはじめとする機関、工場、企業、農場の宣伝活動家、革命事績、文学・芸術、出版報道部門の活動家、党幹部養成機関と勤労者団体の活動家
  • 主な進行状況:①金正恩の「党思想活動を改善、強化することについて下さったお言葉」を伝達、②「報告」(李日換秘書)、③「講習」(李日換、宣伝扇動部副部長(複数)、党中央幹部学校教員(複数))、④金正恩に捧げる宣誓文採択
  • 「報告」中の注目部分:冒頭、金正恩の思想部門の業績について縷々言及・称賛の上で、「時代の発展と革命実践の要求に合致しない思想活動はその歴史的使命に忠実であることができない・・現時代の党思想活動は名実共に党中央を中心とする全党と全社会の一心団結を一層強化し、党政策貫徹のための闘いに全人民を総決起させることに志向されなければならない」、「党組織と党宣伝部門の活動家が激変する現実に応じることができず、宣伝・鼓舞活動においてはっきりした改善がないことについて厳正に分析」、「金正恩総秘書を唯一の中心とする全党と全社会の思想的・意志的統一と団結を全面的に強化し、朝鮮式社会主義偉業の勝利を収めるのに真に寄与しよう」
  • 「講習」の概要:①「偉大な金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化することに党の思想活動の総力を集中することに関する内容」、②「革命事績事業、党の指導業績を通じた教育活動で新たな転換をもたらす問題、時代的要求に即して宣伝鼓舞の形式と方法を不断に革新していく問題、偉大な金正恩時代の革命精神、新しい千里馬精神で全国が沸き立つようにする問題」、③学習方法を画期的に改善して全党に革命的学習気風を一層確立する問題、視覚宣伝、視覚鼓舞の威力をより高めて全国が党中央の革命思想で脈打ち、党政策の貫徹で沸き立つようにする問題、3大革命赤旗獲得運動を一層活発に繰り広げて社会主義の全面的発展を力強く促す問題」
    • 講習①の具体的内容:「我が革命の指導指針であり、社会主義全面的発展の勝利へと嚮導する偉大な実践綱領である金正恩同志の革命思想は、人民大衆第一主義を核とする思想、理論、方法の全一的な体系であり、人民の宿願をはっきりとした実態へと展開する変革的路線であることについて原理的に解説した」、「敬愛する金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化することに党宣伝部門の作戦と実践を総志向させる上で提起される原則と具体的な課題について言及した」
    • 講習②の具体的内容(一部):「敬愛する総秘書同志の不滅の業績を擁護固守し、長く輝かして行くことは、革命事績部門に提起された最も重大な歴史的使命である」、「偉大な金正恩時代を象徴する威力ある革命精神、闘争精神である新たな千里馬精神の本質的内容と創造過程、巨大な生活力(効用の意)について解説」
  • 講習の成果・意義:「すべての参加者は・・敬愛する総秘書同志の革命思想、革命理論により全国を変革させる聖なる偉業遂行に全霊を惜しみなく捧げる・・固い決意を固めた」、「(今次)講習会は、荘厳な変革の新時代、偉大な金正恩時代の要求に即して党思想事業を根本的に革新し、思想の尽きない力で国家復興の上昇気勢を引き続き高潮させるための新たな跳躍台を準備する上で重要な実践的意義を持つ契機となった」

 以上の引用のうち、下線は、朝鮮中央通信の日本語版では省略されていた部分である。また、金正恩の「お言葉」の内容は何ら示されていない。

 以上のような記事の内容から判断すると、同講習会の最大の狙いは、金正恩の権威を従前以上のレベルに持ち上げること、端的に言えば、金日成金正日の膝下から完全に抜け出ることではないかと思われる。

 その端的な表れとしては、第一に、「講習」①で「金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化する」ことを前面に押し出したことがあげられる。ここは、従前の公式理論によれば「金日成金正日主義で・・」とすべきところであろう。「金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化しよう」との表現は、これまでもスローガンとしては掲示されていたが、そこに「党宣伝部門の作戦と実践を総志向させる」ことが公式化されたことの意義は大きい。

 第二は、講習②の「革命事績事業」に関し、「総秘書同志の不滅の業績を擁護固守し、長く輝かして行くこと」を「最も重大な歴史的使命」と位置付けたことである。「革命事績事業」において、金正日はともかく、実際に「抗日闘争」を展開し建国に関与した金日成を差し置いて、金正恩の業績誇示を最優先に位置づけるというのは、実に驚くべき「変革」である。

 このほか、「報告」中での「時代の発展と革命実践の要求」の強調や講習会の意義としての「金正恩時代の要求に即して党思想事業を根本的に革新」との表現など、記事中に繰り返される変化の訴えも、そうした文脈から理解することができよう。

 もう一つ注目されるのは、そうした金正恩の権威向上をそれだけに終わらせず、それをもって「党政策貫徹のための闘いに全人民を総決起させること」につなげようとしていることである。ここでは、人民の中での金正恩の権威高揚と人民の生産活動への献身が表裏一体のものと観念されているのであろう。

 そうした意味で、この講習会は、北朝鮮の政治史において、一つの里程標的なものとして位置づけられることになるのではないだろうか。

2024年4月25日 外務省米国担当副相が「談話」を発表

 

 朝鮮中央通信は、本日、外務省・金雲哲(音訳)米国担当副相の「談話」(25日付け)を報道した。その重要部分は、次のとおりである。

  • 「過去の十余年間、国連で対朝鮮制裁決議履行の監視に携わってきた不法な存在が凋落する危機に瀕するようになると、米国が破綻した制裁・圧迫構図の抜け穴を埋めてみようと汲々としている」
  • 「しかし、それ(米国による制裁措置)がここ朝鮮半島では米国の首を締めるわなになっている・・過去、米国が国連舞台で新しい制裁決議をつくり上げるたびに、朝鮮民主主義人民共和国のより威力あり、より向上した核実験を触発させたように、米国の極悪非道な制裁は我が国力の段階的上昇を奮発させた触媒剤、動力に作用してきた」
  • 「米国が朝鮮民主主義人民共和国に反対する新しい制裁劇を演じる場合、我々はそこから米国が最も恐れる力のレベル・アップに必要な新しい機会を持つことになるであろう」
  • 朝鮮民主主義人民共和国は、・・既に掌握した軍事技術的強勢を不可逆的に作り、周辺の安保形勢の統制力を向上させるためのより強力な実際行動を取っていくであろう」

 以上のうち、最初の引用部分は、2009年6月採択の国連安保理決議(第1874号)により設置された北朝鮮に対する制裁監視などのための専門家パネル(=「不法な存在」)の存続が昨月の安保理会議においてロシアの拒否権行使により否決されたこと(=「凋落する危機に瀕する」)を受けて、米国などがそれに代わる機構の設置を模索していると伝えられていることを指すものであろう。

 したがって、それ以降の引用文は、そうした機構が設置された場合には、北朝鮮が更なる対抗措置を取るとの姿勢を示すことにより、そうした試みを牽制するものと考えられる。ここで注目されるのは、そうした対抗措置の過去の事例として敢えて「核実験」に言及していることであり、これは、今後の対抗措置として、その再現も辞さないとの姿勢を示したものと言えよう。ただ、実際問題として、有志国による「専門家パネル」などの設置があったからと言って、北朝鮮が直ちにそれを口実に核実験を行うのかといえば、その可能性は極めて低いのでないだろうか。

 むしろ、興味をそそられるのは、外務省対外報道室長に続いて金予正が談話を発出した(昨日付け本ブログ参照)その翌日、具体的な出来事がない中で、外務省副相名義の談話が出されるという、「談話」発出のタイミングと名義人のレベルである。

 そこに何か北朝鮮内部における機関相互間の競争ないし対抗的な力学を感じるのは考え過ぎであろうか。

 なお、金恩哲(김은철)については、聯合通信ホームページの人名データベースでは、2007年に朝鮮赤十字会副書記長、年度未詳で対外文化連絡委員会副局長の肩書しか記載されていない。

2024年4月24日 外務省室長、金予正が米韓非難の談話を発出

 

 本日、朝鮮中央通信は、外務省報道局対外報道室長及び金予正が同日、それぞれ談話を発表したことを相次いで報じた。各談話の骨子は、次のとおりである。

ア 外務省報道局対外報道室長談話

  • 「22日、米国務省のスポークスマンは朝鮮民主主義人民共和国の自衛的軍事訓練について国連安保理の「決議違反」「威嚇」と言い掛かりをつけて国際的対応を云々した」が、「核反撃想定総合戦術訓練は、朝鮮半島地域の軍事的緊張を一方的に高調させる米国と大韓民国に明確な警告信号を送るもので、戦争の勃発を抑止するための正当な自衛権行使となる」
  • 「我々は、米国が冷戦式の考え方にとらわれて排他的な軍事ブロックを形成し、陣営対決を追求して他国の戦略的安全を害することに断固反対する」
  • 「正当防衛力の強化が不法に罵倒される不正常な行為が慣習化されていることについて絶対に黙過しないであろうし、より強力で明白な行動で自己の主権的権利と合法的利益をしっかり守っていく」
  • 「国際社会は、・・米国と大韓民国に挑発的な対決行為を直ちに中断することに関する明白な信号を発信すべきであろう」

イ 金予正談話:「盗人猛々しい無理押しはわれわれに通じない」

  • 「米国は、・・我々の自衛権に該当する活動に対して・・紋切り型の無理押し主張をして盗人猛々しく振舞っている」
  • (1月以来の米韓合同軍事訓練について詳細に言及した上で)「今年に入って現在まで、米国が手先らと共に行った軍事演習は80余回、韓国かいらいが単独で強行した訓練が60余回にもなるという事実を見ても、地域情勢悪化の主犯が果たして誰なのかがはっきり分かるであろう」
  • 「米国が引き続き手先らをかき集めて力を自慢し、我が国家の安全を脅かそうとするなら、米国と同盟国の安保はより大きな危険に直面することになるであろう」
  • 「最近になって韓国かいらい軍部ごろの頭目らが度を過ぎて言い散らしている。上司を信じて奔走し、我々を相手に武力対応を試みようとするなら、あの連中は即時壊滅するであろう」

 両談話は、共に、北朝鮮が22日に実施した「核反撃想定総合戦術訓練」に対する米国の批判に反論する形で、同訓練が米韓の合同軍事訓練により生じた情勢悪化に対応するための「自衛権」行使であるとして、その正当性を主張するとともに、今後の米韓の出方を牽制したものといえる。

 ただし、金予正談話は、その米韓の合同軍事演習について今年1月以降の実施状況を詳細・具体的に論じるとともに、米韓に対し、それぞれ強い口調での牽制を加えているのが特徴的といえる。

 これに対し、外務省対外報道室長の談話は、米韓合同軍事演習についての具体的言及は省く一方、「国際社会」に対し、北朝鮮の立場への同調を訴えている。また、「排他的な軍事ブロックを形成し、陣営対決を追求して他国の戦略的安全を害することに断固反対」との文言は、朝鮮半島というよりも、むしろ米中対立の文脈に適合する主張のようにも思える。

 いずれにせよ、こうした主張の内容は、北朝鮮の従来の立場の繰り返しであり、何ら驚くべきものではない。

 しかし、一つの出来事に対し、こうして二つの談話が発出されるという北朝鮮政権内部のメカニズムがどうなっているのかについては関心がもたれる。とりわけ、外務省が「室長」という比較的低いランクで対応しれきたのに対し、金予正が続くというのは、何か「格」がそろわないといった印象をいなめない。誠に不可解である。

2024年4月23日 金正恩総書記の「核反撃想定総合戦術訓練」指導を報道

 

 本日の「労働新聞」は、4月22日、600㎜超大型放射砲を動員した「核反撃想定総合戦術訓練」が初めて実施され、金正恩がこれを「指導」したことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

  • 訓練概要:「超大型ロケット砲兵部隊を国家核兵器総合管理システムである『核引き金』システム内で運用する訓練」
  • 訓練目的:「我々の核戦力の信頼性と優秀性、威力と多様な手段に対する示威、核戦力の質的・量的強化」
  • 背景事情:米韓空軍が4月12日から26日まで「連合編隊群総合訓練」を実施、「一日平均100回の発進を強行して極度の戦争熱を鼓吹」、4月18日には「連合空中浸透訓練」も実施、「我が国家の安全環境が甚だしく脅かされている看過できない現実」
  • 指導幹部:金正恩が「訓練を指導」、金正植(軍需工業部)副部長が「同行」、張昌河ミサイル総局長が「訓練を指揮」
  • 訓練概況:①「国家最大核危機事態警報である『火山警報』システムの発令時、各部隊を核反撃態勢へ移行させる手順と工程に熟達させるための実動訓練」、②「核反撃指揮システム稼働演習」、③「核反撃任務が課された分隊を任務遂行工程と秩序に熟練させ、核模擬戦闘部を搭載した超大型放射砲弾を射撃させる手続き」(下線部重点事項)
  • 参加部隊:「当該の連合部隊から選定された火力襲撃中隊」、「関連部隊、区分隊の指揮官、軍人が参観」
  • 放射砲弾(ミサイル)飛翔状況:「射程352キロの島の標的を命中打撃」(添付写真では、4発を同時発射) 
    • 韓国軍は、22日、同日午後3時1分ころ平壌付近から短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体数発が発射され300㎞飛行後、東(日本)海に弾着した旨を発表
  • 金正恩言動:「訓練結果に大満足を表示・・高い命中正確度について・・高く評価」、「(今次)訓練が成功裏に行われたことで、戦術核攻撃の運用空間を拡張し、多重化を実現するという党中央の核戦力建設構想が正確に現実化したと満足げに評価」、「戦争抑止戦略と戦争遂行戦略の全ての面で核戦力の中枢的役割を絶え間なく強める方向で戦法と作戦を引き続き完成し、核戦力の経常的な戦闘準備態勢を完備していくことを強調」

 これまで北朝鮮は、2023年3月27日、金正恩が「核武器兵器化事業」に対する指導を行う中で、「国家核武器総合管理体系『核引き金』の情報化技術状態」を「了解」すると同時に、同人の指導下で模擬核弾頭搭載弾道ミサイルの「師範教育射撃訓練」を実施している。

 更に、本年3月18日には、やはり金正恩の「指導」の下、「超大型放射を装備して重要火力打撃任務を受け持っている西部地区砲兵部隊の射撃訓練」において、「600mm放射砲」6発の「一斉射撃」を実施している。

 今次訓練は、そうした各種訓練(「核引き金」に基づく迅速対応、模擬核弾頭の搭載、ミサイルの一斉発射)を組み合わせた文字通りの「総合戦術訓練」であったのであろう。

 なお、上記報道では、訓練実施の背景事情として米韓軍の合同演習による情勢悪化について相当の分量を割いて説明している。こうした言及は、3月初頭以来繰り返してきた各種軍事訓練等の報道においては、ほとんどみられなかったものである。そのことは、核兵器使用を想定した今次訓練については、3月来の通常戦力を用いた訓練とは別格のものと位置付けていることの反映と考えられる。

(本日は、午前中所用でブログ更新が遅くなりました)

2024年4月20日 巡航ミサイル超大型戦闘部威力試験と新型対空ミサイル試験発射を報道

 

 本日、朝鮮中央通信は、ミサイル総局が4月19日午後、「朝鮮西海上で戦略巡航ミサイル『ファサル(矢)―1ラ―3』型の超大型戦闘部の威力実験と新型対空ミサイル『ピョルチ(流星)―1―2』型の試射」を実施、「当該の目的が達成された」とする「ミサイル同局発表」を報じた。

 同発表は、「当該の実験は、新型兵器システムの戦術技術的性能および運用など、複数の面における技術高度化のためのミサイル総局と管下国防科学研究所(複数)の日常的な活動の一環であり、周辺の情勢とは無関係」と主張する一方、飛行距離・高度などについては一切言及していない。また、滑走路と見られる場所に位置する装輪式発射車両(TEL)からミサイルが発射された瞬間の写真2葉が添付されているが、素人目にはどちらがどちらか判然としない。

 なお、同実験への金正恩の立ち合いなどは報じられていない。また、同発表は、本日の「労働新聞」には掲載されていない。「労働新聞」の方は、和盛地区第2段階住宅(「林興通り」)の竣工に接した各層の反響を第1面に掲載するなどしており、民生面での成果宣伝に余念がないのであろう。

 ちなみに、韓国・聯合通信によると、対空ミサイルの名称として「ピョルチ(流星)」の名前が報じられたのは初めての由である。

2024年4月17日 金正恩出席下での和盛地区第2段階住宅竣工式実施を報道(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩出席の下、平壌市和盛地区第2段階1万世帯分の住宅竣工式が4月16日に実施されたことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

  • 同行者:金徳訓総理と党秘書、内閣、武力機関、省、中央機関の幹部、建設者、平壌市内の勤労者(写真では、趙勇元、朴正天、李日換、金在龍各秘書らの姿)
  • 主な行事内容:①国歌奏楽、②竣工辞(李日換)、③金正恩によるテープカット(実際は帯のような布)、④竣工記念公演、⑤飛行隊の上空飛行・花火発射、⑤金正恩あいさつ
  • 「竣工辞」注目部分:「新しく建てられた林興通りは・・金正恩総書記の熱烈な真心がもたらした為民献身の凝結体であり、人民大衆第一主義理念の崇高さと温かさの世界を後世に末永く伝えるべき記念碑的建造物である」、「和盛地区の全ての建設者が党中央が明示した第3段階、第4段階の闘争目標の遂行に総決起して立派な新しい街を建設することによって、我が首都、我が国家の輝かしい明日のために一層力強く前進していこうと熱烈にアピールした」

 李日換の上記竣工辞を通じて、今次竣工した和盛地区第2段階住宅が「林興通り」と命名されたことが明らかになった。また、今年着工した同地区第3段階に次いで来年度には、同地区第4段階が進められることが改めて示された。

 今次竣工式の特徴としては、記念公演が行われたことである。加えて、その合間に上空を飛行する飛行隊による花火発射なども行っており、祝賀ムードの盛り上げを図ったことがうかがえる。竣工式に工事関係者や入居予定者のみならずその他の「平壌市内の勤労者」も参加させた上で、金正恩の指導に基づく民生面での成果を華々しくアピールし、人民の歓心を得たいとの強い思いがうかがわれる。

 なお、今次竣工の第2段階地区には、金正恩が4月5日に現地指導を行い、「施工で現れた一連の欠点を指摘し、早急に正すための対策を立て(た)」ことが報じられていた(6日付け本ブログ参照)。そうした動きも、前述のようなアピールのための布石であったとえいよう。当然、李日換の竣工辞でも、そのことに言及した上で、前掲のとおり同地区に込めた金正恩の「熱烈な真心」を強調している。

追記:記念公演の状況(2024年4月19日)

 朝鮮中央テレビでの同竣工式に関する報道番組では、記念公演の状況が詳細に放映された。そこでは、女性歌手らが党、金正恩を称賛する歌を次々に熱唱し、合間には、それに唱和する観衆とライトアップされた林興通りの姿が繰り返され、画面には曲名と歌詞が字幕で表示された。歌詞で示された党、金正恩の恩情を可視化する意図がありありとうかがわれる。また、観衆の陶酔ぶりも非常に印象的であった。

 もう一つ注目されるのは、同公演の中で「愛国歌」も歌唱されたことで、その際字幕で示された歌詞は、以前、「三千里」となっていた個所を「この世の中」に改めたものであった。この変更が金正恩の対韓・統一関係用語の改正指示によるものであることはいうまでもない。

 なお、同曲に関しては、韓国・聯合通信の報道によると、その画面上の曲名表記が、16日の同番組放送時には「愛国歌」とされていたところ、17日の再放送時には「朝鮮民主主義人民共和国 国歌」と改められていたとのことである。また、これに対し、韓国の国歌(やはり「愛国歌」と呼ばれる)との差別化を図ったものとの見方も示されている。

 ただし、前述の「労働新聞」記事でも竣工式冒頭で「朝鮮民主主義人民共和国国歌が丁重に奏楽(演奏)された」と記載されていたので、それに平仄をあわせただけとも考えられる。日本で言えば、「君が代斉唱」とするか「日本国国歌斉唱」とするかの違いであろうか。

 いずれにせよ、近年、各種行事冒頭での「国歌奏楽」が恒例化してきたが、最近の傾向として、参加者の中で演奏にあわせて口を動かしている人の比率が増えている(以前は、黙って聞いている人が多かった)ように思われる。将来、日本のように「国歌斉唱」になる日がくるかもしれない。