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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年4月26日 朝鮮労働党第2回宣伝部門活動家講習会の開催状況について

 

 4月24日付け「労働新聞」は、標記講習会が4月20日から23日までの間、開催されたことを報じる記事を掲載した。遅ればせながら、その概況は、つぎのとおりであった。

  • 開催目的:「大衆の忠誠と愛国の底知れない力と情熱を興隆強国の建設へ総志向させるべき党宣伝部門の活動家の思想精神と活動方式を一新し、党思想活動において明白な実際の改善をもたらすための対策を立てること」
  • 出席者:李日煥(秘書)、朱昌日(宣伝扇動部長)、李斗星(勤労団体部長)、李恵貞(党歴史研究所長)、党中央委員会宣伝扇動部と当該部署の活動家、各道・市・郡党とそれと同じ機能を果たす党委員会宣伝扇動部の活動家、省、中央機関をはじめとする機関、工場、企業、農場の宣伝活動家、革命事績、文学・芸術、出版報道部門の活動家、党幹部養成機関と勤労者団体の活動家
  • 主な進行状況:①金正恩の「党思想活動を改善、強化することについて下さったお言葉」を伝達、②「報告」(李日換秘書)、③「講習」(李日換、宣伝扇動部副部長(複数)、党中央幹部学校教員(複数))、④金正恩に捧げる宣誓文採択
  • 「報告」中の注目部分:冒頭、金正恩の思想部門の業績について縷々言及・称賛の上で、「時代の発展と革命実践の要求に合致しない思想活動はその歴史的使命に忠実であることができない・・現時代の党思想活動は名実共に党中央を中心とする全党と全社会の一心団結を一層強化し、党政策貫徹のための闘いに全人民を総決起させることに志向されなければならない」、「党組織と党宣伝部門の活動家が激変する現実に応じることができず、宣伝・鼓舞活動においてはっきりした改善がないことについて厳正に分析」、「金正恩総秘書を唯一の中心とする全党と全社会の思想的・意志的統一と団結を全面的に強化し、朝鮮式社会主義偉業の勝利を収めるのに真に寄与しよう」
  • 「講習」の概要:①「偉大な金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化することに党の思想活動の総力を集中することに関する内容」、②「革命事績事業、党の指導業績を通じた教育活動で新たな転換をもたらす問題、時代的要求に即して宣伝鼓舞の形式と方法を不断に革新していく問題、偉大な金正恩時代の革命精神、新しい千里馬精神で全国が沸き立つようにする問題」、③学習方法を画期的に改善して全党に革命的学習気風を一層確立する問題、視覚宣伝、視覚鼓舞の威力をより高めて全国が党中央の革命思想で脈打ち、党政策の貫徹で沸き立つようにする問題、3大革命赤旗獲得運動を一層活発に繰り広げて社会主義の全面的発展を力強く促す問題」
    • 講習①の具体的内容:「我が革命の指導指針であり、社会主義全面的発展の勝利へと嚮導する偉大な実践綱領である金正恩同志の革命思想は、人民大衆第一主義を核とする思想、理論、方法の全一的な体系であり、人民の宿願をはっきりとした実態へと展開する変革的路線であることについて原理的に解説した」、「敬愛する金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化することに党宣伝部門の作戦と実践を総志向させる上で提起される原則と具体的な課題について言及した」
    • 講習②の具体的内容(一部):「敬愛する総秘書同志の不滅の業績を擁護固守し、長く輝かして行くことは、革命事績部門に提起された最も重大な歴史的使命である」、「偉大な金正恩時代を象徴する威力ある革命精神、闘争精神である新たな千里馬精神の本質的内容と創造過程、巨大な生活力(効用の意)について解説」
  • 講習の成果・意義:「すべての参加者は・・敬愛する総秘書同志の革命思想、革命理論により全国を変革させる聖なる偉業遂行に全霊を惜しみなく捧げる・・固い決意を固めた」、「(今次)講習会は、荘厳な変革の新時代、偉大な金正恩時代の要求に即して党思想事業を根本的に革新し、思想の尽きない力で国家復興の上昇気勢を引き続き高潮させるための新たな跳躍台を準備する上で重要な実践的意義を持つ契機となった」

 以上の引用のうち、下線は、朝鮮中央通信の日本語版では省略されていた部分である。また、金正恩の「お言葉」の内容は何ら示されていない。

 以上のような記事の内容から判断すると、同講習会の最大の狙いは、金正恩の権威を従前以上のレベルに持ち上げること、端的に言えば、金日成金正日の膝下から完全に抜け出ることではないかと思われる。

 その端的な表れとしては、第一に、「講習」①で「金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化する」ことを前面に押し出したことがあげられる。ここは、従前の公式理論によれば「金日成金正日主義で・・」とすべきところであろう。「金正恩同志の革命思想で全党と全社会を一色化しよう」との表現は、これまでもスローガンとしては掲示されていたが、そこに「党宣伝部門の作戦と実践を総志向させる」ことが公式化されたことの意義は大きい。

 第二は、講習②の「革命事績事業」に関し、「総秘書同志の不滅の業績を擁護固守し、長く輝かして行くこと」を「最も重大な歴史的使命」と位置付けたことである。「革命事績事業」において、金正日はともかく、実際に「抗日闘争」を展開し建国に関与した金日成を差し置いて、金正恩の業績誇示を最優先に位置づけるというのは、実に驚くべき「変革」である。

 このほか、「報告」中での「時代の発展と革命実践の要求」の強調や講習会の意義としての「金正恩時代の要求に即して党思想事業を根本的に革新」との表現など、記事中に繰り返される変化の訴えも、そうした文脈から理解することができよう。

 もう一つ注目されるのは、そうした金正恩の権威向上をそれだけに終わらせず、それをもって「党政策貫徹のための闘いに全人民を総決起させること」につなげようとしていることである。ここでは、人民の中での金正恩の権威高揚と人民の生産活動への献身が表裏一体のものと観念されているのであろう。

 そうした意味で、この講習会は、北朝鮮の政治史において、一つの里程標的なものとして位置づけられることになるのではないだろうか。