rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年3月28日 ロシア連邦対外情報局代表団の北朝鮮訪問を報道

 

 本日の「労働新聞」は、セルゲイ・Ye・ナルイシキン局長を団長とする標記代表団が3月25日から27日までの間、北朝鮮を訪問したことを報じる朝鮮中央通信の記事を掲載した。

 同記事は、訪問期間中、「李昌大国家保衛相とセルゲイ・Ye・ナルイシキン局長間の会談」及び「国家保衛省の活動家と対外情報局代表団員間の実務会談」が行われ、「朝鮮半島とロシアを巡る現国際および地域情勢に対する見解が互いに通報され、敵対勢力の増大する諜報・謀略策動に対処して協力を一層強化するための実務的問題が幅広く、真摯に討議」され、「提起された問題について完全な見解の一致を見た」としている。

 北朝鮮が、こうした対外情報分野での交流状況を公表するのは、異例といえるが、敢えてそれを報じたのは、朝ロ関係の多方面的な緊密化を内外に印象付けたいとの思惑が強く作用しているのであろう。

 また、合意されたという「実務的問題」(下線部)が具体的にどのようなものであるのかは、定かでないが、敢えて推測すると、ウクライナ戦争への北朝鮮の各種支援などに対する欧米側の情報収集活動を妨げる防諜活動などが考えられる。

2024年3月26日 金予正が対日交渉拒否を表明の談話を発表

 

 本日、朝鮮中央通信は、昨日に続く金予正党副部長の談話を報道した。その骨子は、次のとおりである。

  • 「日本側は25日午後、内閣官房長官の記者会見で、拉致問題がすでに解決されたとの主張は全く受け入れられないという立場を明白にし・・核・ミサイルといった諸懸案という表現を持ち出して、我々の正当防衛に属する主権行使に干渉し、それを問題視しようとした」
  • 「日本は、歴史を変えて地域の平和と安定を図り、新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気が全くない」
  • 「我が政府は、日本の態度を今一度明白に把握し・・日本側とのいかなる接触にも、交渉にも顔を背け、それを拒否するであろう。朝日首脳会談は、われわれにとって関心事ではない」

 同談話は、昨日の金予正談話に対する内閣官房長官の記者会見での反応をもって、日本側すなわち岸田政権に「新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気が全くない」との評価を下し、その結果として、そうした「勇気」の存在を前提に対日交渉も可能としてきた従前の立場をこれ以上続けないとの立場を闡明したものといえるだろう。

 ただし、文面は、そうであっても、本当に相手にする気がないのであれば、無視すればよいだけであり、敢えてこうした強硬姿勢を示すのは、一種の揺さぶり効果を期待したものであるかもしれないし、あるいは、うがちすぎかもしれないが、国内向けに、日本との交渉で毅然とした姿勢を堅持していることをアピールする狙いが込められている可能性も否定できない。

 そうした推測をするのは、戦前の近衛内閣が「爾後国民政府を(交渉)対手とせず」との声明を出した際にも、その狙いは主に国内向けで、実際は、同政権との交渉可能性を完全に捨ててはいなかったとの裏話を何かの本で読んだ記憶があるからである。

 ただ、いずれにせよ、「無条件での首脳会談」呼びかけと拉致・核問題完全解決必要主張(それと、おそらくは水面下での試行錯誤的接触)をひたすら繰り返す岸田政権の対北アプローチは、率直に言って稚拙の印象を否めない。「史上、最低水準の支持率を意識している日本首相の政略的な打算に、朝日関係が利用されてはならない」との金予正談話の一節が正論に聞こえてしまうのが悲しい。

2024年3月25日 金予正がまたも対日関連談話を発表

 

 本日、朝鮮中央通信は、金正恩党中央委副部長名義の談話(同日付け)を報道した。その骨子は、次のとおりである。

  • 「最近も岸田首相は、(以前とは)また別の経路を通じて可能な限り早いうちに朝鮮民主主義人民共和国国務委員長に直接会いたいという意向を我々に伝えてきた」が、「単に首脳会談に乗り出すという心構えだけでは不信と誤解でいっぱいになった両国関係を解決することができない」
  • 「日本が今のように我々の主権的権利の行使に干渉しようとし、・・拉致問題に依然として没頭するなら首相の構想が人気取りにすぎないという評判を避けられなくなる」
  • 「心から日本が両国関係を解決し、我々の親しい隣国になって地域の平和と安定を保障することに寄与したいなら、自国の全般利益に合致する戦略的選択をする政治的勇断を下すことが必要である」

 この談話冒頭でも述べているが、金予正は、去る2月15日にも談話を発し、岸田総理の国会発言に絡める形で「朝日首脳会談」の前提などについての立場を示していた。

 今次談話でも、それに関する主張に特段の変化はみられないが、注目されるのは、岸田総理が「また別の経路を通じて・・(金正恩に)会いたいという意向を我々に伝えてきた」ことを明らかにした点である。

 その事実関係については、私は知る由もないが、こうした談話が発出されたことから推測しても、まったくの事実無根ではないのであろう。そして、今次談話は、そうした「意向」に対する回答の性格を帯びたものであろう。

 換言すると、北朝鮮側としては、このたび用いられた「また別の経路」に対し、十分な意思疎通が可能とは認識していないし、おそらくは、そうした経路を通じた「意向」伝達に対しては、さほどの好感を抱いていないのであろう。仮に、その「経路」を通じた交渉を望むのであれば、こうした形で敢えて公表することのではなく、それを通じて北朝鮮の意向を打ち返せばよいと考えられるからである。そうではなく敢えてこうした「談話」の形で回答したということは、端的に言えば、顔を洗って出直してこいというメッセージと言わざるを得ないように思われる。

2024年3月25日 金正恩の第105戦車師団視察を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が3月24日、ソウル柳京洙第105戦車師団指揮部と第1戦車装甲歩兵連隊を視察したことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

  • 同行者:朴正天党秘書・軍事委副委員長、強純男国防相、李永吉総参謀長
  • 師団指揮部での主な動向:①革命事績館(金日成金正日の指導経緯などを展示)を視察、②師団長から師団の攻撃・防御作戦計画に対する報告聴取、師団管下連合部隊の作戦戦闘任務と戦闘訓練方向を教示、③軍人会館で師団芸術宣伝隊の公演を観覧、④指揮部将兵と記念写真撮影
  • 師団直属第1タンク装甲歩兵連隊での主な動向:①迎接報告を受ける、②訓練競技で優勝したタンク兵を再度激励、③連隊指揮部庁舎で指揮メンバーと談話、④区分隊兵室(寝室)視察、⑤連隊訓練場でタンク兵の障害物克服・高速突破訓練を指導、⑤訓練参加タンク兵及び連隊兵士と記念写真撮影、⑥区分隊食堂(食事状況)を視察
  • 金正恩の主な発言:「戦争準備の完成と戦闘力強化の誇らしい成果で主席と国防委員長の不滅の業績をしっかり守り、一層輝かせていくようにすべきだ」(革命事績館にて)、「戦車兵を圧倒的な思想・精神力でより徹底的に武装させ、軍事技術的に、肉体的にしっかり鍛え上げ、戦闘技術機材の経常的な動員態勢を抜かりなく整える」ことを指示(師団指揮部にて)「指揮官が軍人の食生活をより改善するためにいつも深い関心を払い、肉と野菜をはじめいろいろな副食物を適時に日常的に保障し、兵士らに立派な生活条件を整えてやるために真心を尽くして努力しなければならない」(食堂にて)

 今次の同師団への視察は、3月13日に実施の「戦車兵大連合部隊間の対抗訓練競技」で同師団の出場チームが優勝したことを受けてのものと思われる。ただし、添付写真で紹介された訓練風景に登場する戦車は、その際に披露された新型戦車ではない従来型のもののようである。新型戦車が同師団に未配備であるのか、あるいは、今次視察した第1装甲歩兵連隊とは別の戦車部隊があって、そこに配備されているのかは定かでない。

 なお、金正恩の発言のうち注目されるのは、「戦闘技術機材の経常的な動員態勢を抜かりなく整える」という部分(下線部)で、陸上部隊の中での最エリート部隊である同師団においてさえ、戦闘技術資材(戦車の部品等であろう)を常備することが問題になっていることをうかがわせるものと考えられる。いわんやその他の一般部隊においておや、ということであろう。

 このほか、食事風景で食卓に白米・おかずが山盛りであったのは、ご愛敬とみるべきであろう。常にこういう状態が問題なく維持できるのであれば、敢えて指揮官に食生活改善への腐心を訴える必要もないのではないか。

2024年3月24日 祖国統一民主主義戦線中央委員会の解体を報道

 

 本日の朝鮮中央通信は、標記委員会が23日、会議を開催し、自らを「正式に解体することを決定」したとする記事を掲載した。そこでは、同決定の経緯として次のような会議内容が紹介されている。

  • 「会議では、朝鮮労働党と共和国政府が・・大韓民国の連中を和解と統一の相手ではない最も敵対的な国家、不変の主敵、徹底的な他国と烙印を押し、北南関係と統一政策に対する立場を新しく定立したことについて強調した」
  • 「北南関係が・・戦争中にある二つの交戦国関係として完全に固着された現実で、全民族的な統一戦線組織である祖国統一民主主義戦線中央委員会がこれ以上、存在する必要がないということについて見解の一致を見た」

 祖国統一民主戦線は、その名の示す通り労働党をはじめとする諸団体の統一戦線組織であるので、「中央委員会」が解散するということは、すなわち「統一戦線」自体が消滅することを意味する(それを構成していた各団体は、そのまま存続する)のであろう。

 同委員会の解散は、1月12日開催の対敵部門活動家決起集会において、「北南関係の改善と平和統一のための連帯機構として設けた6・15共同宣言実践北側委員会、祖国統一汎民族連合北側本部、民族和解協議会、檀君民族統一協議会など、我々の関連団体を全て整理すること」が決定されたことの延長線上での動きであり、驚くにはあたらないかもしれないが、長い歴史を持つ組織であるだけに、そこまでやるのかという感慨を禁じ得ない。

 ちなみに、在日朝鮮総連も、同戦線に参加していたと記憶している。多数の韓国国籍者を含む「在日同胞」を活動基盤とする朝鮮総連がこうした韓国切り離しの動きにいかに対応していくのか改めて注目される。

2024年3月23日 労働党代表団の中国要人との会談状況を報道(24日加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、標記代表団団長の金成南党国際部長(政治局候補委)が、21日、「中国共産党対外連絡部長との会談を実施」し、「中国人民政治協商会議主席と会った」ことをそれぞれ伝える朝鮮中央通信の記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

 2024年3月24日加筆分

 24日の「労働新聞」は、朝鮮労働党代表団団長が、22日、「中国共産党中央委員会書記(蔡奇)と会った」ことを報じる朝鮮中央通信の記事を掲載した。その骨子は、下記に追加したウのとおりである。

 

ア 中国共産党対外連絡部長(劉建超)との会談

  • 「(金部長は)我が党の対米、対敵闘争路線と政策について言及した」(中国側のこれに直接対応した発言は紹介なし)
  • 「双方は、両党、両国が社会主義建設と対外関係分野において取っている政策についての互いの支持を再確認し、・・長期的で展望的な眼目で双務関係を全方位的に強化発展させるため党対外事業部門の間の協調を拡大していく立場を表明した」

イ 中国人民政治協商会議主席(王滬寧・党政治局常務委員)との面談

  • 「(金部長は)朝中関係が社会主義を核とする真実で固い同志的関係で絶え間なく昇華発展していることについて言及した」
  • 「王滬寧同志は、国際関係がいかに変われども双方の戦略的選択である中朝親善は絶対に揺るがないであろうとしつつ、常に朝鮮を立派な同志、立派な友、立派な隣邦とみなしている中国は、両党最高領導者の重要合意を実質的行動へと転化させ両国人民により大きな幸福を準備し、地域の平和と安全に貢献するであろうと述べた」
  • 「(王滬寧は)国際及び地域情勢問題に対し朝鮮側と戦略的意思疎通と戦術的協同を強化し共同で対応することによって国際社会の正義を推進する中国側の用意を表明した」 

ウ 中国共産党中央委員会書記(蔡奇・党政治局常務委員)との面談(24日加筆)

  • 「(金部長は双方が)党建設と国家管理をはじめ各分野でよい経験を交換し、戦略・戦術的協同を強化することについて強調した」
  • 蔡書記は、「血潮で結ばれた中朝親善」に言及の上、「互いに意思疎通を強化し、実務的協力を深化させて中朝外交関係設定75周年に当たる今年に、両党、両国の親善関係のより一層の発展を積極的に促すであろうと強調した」
  • 「(蔡書記は)党建設と経済発展、人民の生活向上で大きな成果を収めていることをうれしく思うと述べ」た
    • ここでも中国側から、北朝鮮の対外政策への支持が示されていない

 これら記事は、一見、両国関係の緊密さを誇示しているようにも読めるが、深読みすると、中国側は、北朝鮮の「対米、対敵闘争路線と政策」について手放しの賛同を示すのではなく、北朝鮮側に「戦略的意思疎通と戦術的協同」を求め、あるいはそれを前提とした上での支持姿勢を述べたとも考えられる。

 また、同代表団は、21日に北朝鮮を出発、中国入りしており、これら会談もその日のうちに行われている。何かあわただしい印象を感じるのはうがちすぎであろうか。

 同代表団については、コロナによる国境閉鎖解除後初の党代表団の訪中と言うことで、北朝鮮による対中関係緊密化に向けた努力のようにいわれている。しかし、そもそも同代表団は、中国だけでなくベトナムラオスも訪問国に含めており、いわば中国を「one of them」扱いしているともいえる。

 こうした点を総合すると、朝中関係には、いまだ隙間風が吹いているように思えるのだが、いかかであろうか。

2024年3月20日 金正恩による新型中・長距離極超音速ミサイル用固体燃料エンジン地上噴出試験指導を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が3月19日、標記試験を指導したことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

  • 同行者等:記事中には記載ないが、添付写真に金正植党軍需工業部副部長、金予正副部長の姿あり
  • 実施概況:ミサイル総局と傘下発動機(エンジン)研究所が3月19日の午前と午後、西海衛星発射場で新型武器体系開発日程により実施
  • 試験結果:「重大試験の大成功によって、新型中・長距離極超音速ミサイル武器体系開発完成の時間表が確定」
  • 金正恩言動:「この武器体系の軍事戦略的価値は・・大陸間弾道ミサイルに劣らず重要」、「第8回大会が示した5カ年計画期間の戦略兵器部門の開発課題が立派に完結したことに大満足を表示」

 北朝鮮は、昨年11月にも、「新型の中距離弾道ミサイル用の大出力固体燃料発動機(エンジン)を開発し、その1段階発動機の初噴射試験を11日に、2段階発動機の初噴射試験を14日に成果裡に実施」したと報じている(15日報道)。このエンジンと今次試射実験が行われたエンジンがどのような関係なのか、前者を更に補完・発展させたものであるのか、あるいは、別途の用途を持つ異なる種類のものであるのか、よく分からない。

 なお、本ブログでは、本年1月14日に実施された「極超音速機動型操縦戦闘部を装着した中・長距離固体燃料弾道ミサイルの試射」に際し、昨年11月に噴射実験が行われたエンジンを実装したものと推測していたが(1月15日付け本ブログ参照)、どうやら、それは早とちりであったようだ。

 実際は、この時は、北朝鮮の発表通り「極超音速機動型操縦戦闘部」の試験であって、エンジンは従来型ものを使用しており、この「戦闘部」(弾頭の意か)と今次実験されたエンジンを結合することによって、「新型中・長距離極超音速ミサイル」が完成することになるのかもしれない。とすれば、いずれ、その発射実験が行われることになるのであろう。