2024年8月10日 金正恩の水害地域再訪、被災民慰労などの動向を報道
本日の「労働新聞」は、金正恩が8月8日、9日の両日、平安北道義州郡水害地域を再訪し、被災民を慰労・激励するとともに、現地での演説を通じて被災民を平壌に移送・保護するとの「特別措置」を発表したことなどを報じる記事及び当該演説文を掲載した。その骨子は、次のとおりである。
ア 金正恩の主要動向
- 同行者:趙勇元、朴正天、金在龍(以上党秘書)、朱昌日(宣伝扇動部長)、韓光相(軽工業部長)
8月8日
- 被害状況確認:「浸水した義州郡の島の地域が一目で見渡される鴨緑江の川岸の丘に登って輪郭が現れ始めた浸水地域の実態を再び具体的に確認」
- 復旧基本方針指示:「今回の被害復旧を単に自然災害による悪結果をいやすための事業としてではなく、わが党の遠大な地方発展綱領を実現する非常に重要な問題という観点を持って、先を見通して発展的に拡大推進する」、「(義州郡の住宅は)電気、飲料水の供給と汚水処理に至るまで都市経営に関する諸般の要素を全て完璧備えた理想的な「『農村文化都市』として建設」
- 被災民慰労・激励:「罹災民が臨時に生活している仮設テント展開地を訪ね、彼らに会って見舞いの言葉を掛けた」、「自ら購入してきた飴・菓子類を子供たちに与え、可愛い服を着せ(た)」。「(被災民は)慈父の温かい情に全ての罹災民がこみ上げる感激を禁じ得ず、金正恩総書記を仰いで歓呼の声を上げる感激の海、涙の海が広げられた」
8月9日
- 支援物資配布:「党中央委員会が用意した支援物資を自身の専用列車に直接積んできて伝達させた(幹部が列車前でバスで輸送してきた被災民に手交)」、「慈江道と両江道内の罹災民に送る物資も直ちに党中央委員会政治局のメンバーが現地へ出向いて伝達することを委任」
- 金正恩演説:専用列車車上から、被災民を前に演説、骨子後述
イ 金正恩演説骨子
- 被災民に対する慰労・激励:「予想外の自然災害で家を離れ、疎開地域で不便が大きく、苦労が多いと思います。・・何としてでも為になりたいと思いばかりで、すっきりと助けて差し上げられず恐縮の念を禁じえません」、「厳しい災難の時期もこのように絶対的に、無条件的に党と政府を信頼していることを誇りに思います」
- 救援・復旧への取り組み:「我が党中央委員会と共和国政府は災難の痛みを受けた皆様と常に苦楽を共にするでしょう・・我が国家指導部がいるべき場所はまさに被害現場であり、復旧戦闘場です」、「現在、党と国家の全ての活動が被害復旧戦闘に集中されています」、「平安北道の被害復旧現地だけでも、人民軍軍人と青年をはじめとした13万余名の強力な建設力量が展開されています」、「国家的に中央被害復旧対策委員会が組織され、各道に被害復旧現地司令部が出来、・・復旧用物資輸送事業は既に非常体系に移行しました」、「(被災地を)以前の姿が見いだせないほど改変させようというのが我々の目標です」
- 被災者の平壌移送:「住宅の建設が終わって生活が安定するまで少なくとも2、3カ月はかかる(ので、その間)・・平安北道と慈江道、両江道の罹災民家族の子供たちと学生たちを皆平壌に連れて行き、国家が全的に負担して安全で便利な環境の下で保育と教育を受け持って提供する非常体系を稼働させ・・老人と病弱な人、栄誉(傷痍)軍人と幼児を持つ母も・・平壌で国家的な保護恩恵を提供しようとしています」(対象者数合計1万5,400余名)
- 対韓非難:「今次災害復旧は・・深刻な対敵闘争である」「今、敵は、我々が被害を受けた機会を悪用して我が国家のイメージに泥を塗ろうと愚かな企図を続けています」、「このような生々しい事実自体が・・敵をなぜ敵と言い、なぜくずというのかに対してはっきりと認識させる良い事実的資料であり教育素材である」、「こうした現実的な事実資料を用いて、全国家的に対敵認識を正し、対敵感情を正しく育てなければなりません」
- 復旧作業督励:被災地域の党機関と政権機関は「天幕生活をしている事実を絶対に軽く見てはなりません」、食糧、生活必需品、生活用水等の円滑な供給、保健・防疫サービスの提供、被災建造物の安全性確認、住宅建設・補修の促進、道路・鉄道復旧、通信・電力網回復、農業部門の被害回復(水利施設整備・農場員に対する政治事業、埋没耕地の復旧)など
- 災害防止策督励:「被害復旧に劣らない、それよりも深刻で切実な災害防止という重大任務」、「気象予報の迅速で整然とした通報体系」・「統合洪水予報体系」などの構築、「発電所と貯水池ダムを管理する全ての単位が中央の統一的な水管理体系に無条件服従するべき」、住宅建設立地の安全性確認(「二度と被害にあわないよう自然地理的に安全性が徹底して保障された場所(を選択)又は災害防止対策を完全無欠に立てる」)
- 幹部の献身意識確立:「(被災民と)苦楽を共にする気風を発揮(せよ)」、「(各地からの)支援(物資送付)事業は、徹底して志願制の原則で行うべきであり、絶対に組織化や割り当て式でやってはなりません」、「支援資金と物資を統一的に掌握統制し、分配、供給を公正に合理的に行い、・・流用・私物化のような否定的現象が現れないよう厳格に統制(すべき)」
- 国外からの支援申し入れと自力復旧方針:「多くの国と国際機関が人道支援を提供する意向を申し入れていることに謝意を表し」(つつも)、「自体の力と努力で自らの前途を開拓していくでしょう」、「我が政府の統一的で強力な指揮の下、円滑に推進されていることに伴い、基本的にこの原則で一貫させるでしょう」
- このほか、別途記事にて、趙勇元、朴正天、金在龍、朱昌日、韓光相が「8月9日、新義州市と義州郡に出向いて被害状況と復旧準備作業を了解した」と報道
金正恩の被災者テント訪問や演説は、懇篤かつ周到で、その琴線に触れるものといえよう。「支援事業」における割り当てを戒めた点も、従前、それへの不満が伝えられていただけに、災害を契機に被災地はもちろん、その他地域も含め、住民の不満が高じることのないようにとの細心の気配りが感じられる。その上、韓国の「デマ宣伝」(か否かは定かでないが)を「対敵感情」扶植の生きた教材として活用するというのは、まさに「転禍為福」のお手本といえる。ただ、そうした指示は、逆に、それだけ韓国に対する北朝鮮住民の意識が複雑であるということをうかがわすものでもあろう。
なお、平安北道だけで建設労力が「13万余名」というのは、過大な印象を禁じ得ない(党員連隊、白頭山英雄青年突撃隊は、それぞれせいぜい2万程度であろう。あとは、軍人?)。果たしてどこから動員してきているのであろうか