rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月4日 金予正の対韓非難談話発出の意味

 

 「労働新聞」の記事ではないが、朝鮮中央通信によると、3月3日、金正恩の妹・金予正が「党中央委第一副部長」の肩書で、「青瓦台の低能な思考方式に驚愕を表す」と題する談話を発出した。

 内容は、韓国大統領府(青瓦台)が北朝鮮の短距離ミサイル発射を伴う「人民軍前線砲兵の火力戦闘訓練」の実施に対し、「強い遺憾」を表し「中断要求」をしたことなどをとらえて、非難したものである。

 この動きは、北朝鮮の対韓政策上いかなる意味を持つのか、すなわち、この談話にいかなるメッセージが込められているのかついて、とりあえずのコメントを記したい。

 その点に関する韓国内の反響は、一昨年来の南北交流で象徴的役割を果たしてきた、いわばスター的存在であった金予正から、「低能」「盗人猛々しい」「我々の不信と憎悪、軽蔑だけをより増幅」「一言一言、やること一つ一つが、みなそれほどに具体的で完璧に馬鹿のよう」「怖がる犬ほどよく吠える」などなど揶揄嘲笑的な言葉を投げつけられて、大いに落胆あるいは周章狼狽しつつ、それでも「(北朝鮮への批判が)大統領(自身)の直接的な立場表明でないことがそれなりに幸い」と言ってもらったところに一縷の望みをつないでいる、といったところである。これで南北の関係改善はますます困難になったなどの見方も出ているようである。

 ただ、この談話の文体は、前述の揶揄的な表現も含めて、いかにも情緒的・随筆的なものであり、公式的な対韓非難論調とは似て非なるものとの印象がある。極論すると、喧嘩した恋人同士が半ばじゃれあいつつ「あかんべー」をしているような印象を禁じ得ない。

 その種の雰囲気が最も感じ取れるのは「我々と相手をしようとするなら、(北朝鮮の演習を非難するような)強弁を離れて、もう少し勇敢に正々堂々と相手をすることができないだろうか」との部分である。この直前は、対米追随を批判した文章なので、ここで「勇敢に」というのは、「勇気を出して米国追随を止めて」という意味と解せる。そして、その後に前述の大統領の直接的立場表明でないのは幸いとする文章が続いている。

 大胆に推測すると、この談話の趣旨は、対韓非難というよりは、むしろ、「あなたのことは無視していませんよ。引き続き関心を持ってあなたからのメッセージを聞いていますよ。文さん、もう少し良い話を聞かせてくれませんか」ということではないだろうか。これを「秋波」と言っても過言ではないであろう。

 この談話に関し、もう一つ注目されるのは、それが金予正の名前で出されたということである。本来の対韓非難であれば、統一戦線部関係の役職者なり団体名義で出すのが本筋であろう。ところが、今次談話は、あくまでも、「党中央委第一副部長」という地位にある金予正個人のものと位置付けられている。そして、彼女が南北関係において果たしてきた役割は、一言で言えば、金正恩の「特使」ということではないだろうか。とすれば、この談話もまた、彼女が金正恩の意を受けて、その意思を代弁したものととらえることができよう。

 もちろん、繰り返しになるが、名目的には彼女の個人的談話であるから、北朝鮮なり金正恩が文大統領に秋波を送ったという不名誉は免れることができる。

 文政権の対応によっては、そろそろ南北関係に「春風」が吹く可能性もあながち否定できないのではないだろうか。北朝鮮も、文政権が総選挙で大負けしてレームダック化することは望んでいないであろうから、それに先立って、なにがしか「花」を持たせる準備はあると考えられる。「花代」は、決して安くはないであろうが。