rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年8月10日 金予正が米韓合同軍事演習実施を非難の談話

 

 朝鮮中央通信は、本日、米韓合同軍事演習の実施を非難する「金予正朝鮮労働党中央委員会副部長談話」を報じた。

 同談話は、同演習が10日から開始されたことに言及し、それを「必ず代償を払うことになる自滅的な行動」であり、「演習の規模がどうであれ、どんな形式で行われても、われわれに対する先制攻撃を骨子とする作戦計画の実行の準備をより完備するための戦争試演会、核戦争予備演習である」と決めつけて非難している。

 このような主張は、韓国側が同演習を実働部分を省いたシミュレーション形式に限定し、更に先の金予正談話を受ける形で開始直前に至って参加人員を縮小する措置を講じたことを念頭におきつつ、そのような対応では満足しないことを示すものと考えられる。

 また、米国に対しては、「地域の平和と安定を破壊する張本人」と非難するだけでなく、これまで評価を保留してきたバイデン政権の対北朝鮮政策に対しても、「現米行政府が言い立てる『外交的関与』と『前提条件なしの対話』というものは自分らの侵略的本心を覆い隠すための偽善にすぎない」として、不信感を露わにした。また、駐韓米軍の存在そのものを問題視する姿勢を改めて表明した。

 その上で、北朝鮮の今後の対応について、「われわれに反対するいかなる軍事行動にも迅速に対応できる国家防衛力と強力な先制攻撃能力をより強化していくことにいっそう拍車をかける」と予告している。

 更に、文政権に対し、「南朝鮮当局者らの背信的な行為に強い遺憾を表明」した。ここでの「背信的」との表現は、先の南北通信連絡線復元の前提となった期待を裏切られたとの思いを反映したものであろう。

 談話は、最後に、「委任によってこの文を発表」することを明らかにしている。「私の考え」を示した先の談話とは異なることを印象付けるものといえよう。

 上述のような談話の内容から推測すると、先の南北連絡通信線の復元を契機として、南北関係の改善と米朝対話の再開を始動させていくという文政権の目論見が奏功する可能性は極めて低くなったと考えられる。

 むしろ、焦点は、今後、北朝鮮が実際にどのような対応措置を講じるのか、とりわけ、「国家防衛力と強力な先制攻撃能力をより強化」するためにどのような活動を行うか、に移ったといわざるをえないであろう。

 それを占う上でとりあえず注目されるのは、同談話が明日の「労働新聞」に掲載されるか否かである。南北の連絡通信線復元はもちろんのこと、1日付けの金予正談話も掲載されていない。仮に、今回の談話が掲載されれば、北朝鮮がこの問題に本腰をいれて対応するという一つのシグナルとみなすことができるのではないだろうか。