rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年3月30日 金予正談話で文大統領の北朝鮮ミサイル関連発言を非難

 

 本日の朝鮮中央通信は、「朝鮮労働党中央委員会宣伝扇動部の金與正副部長が30日、次のような談話を発表した」と報じた。

 同談話は、「南朝鮮執権者」が26日に行った演説中の北朝鮮ミサイル発射に関する「国民のみなさんの懸念が大きい」「対話の雰囲気に困難を与える」などの発言を直接引用した上で、昨年7月の韓国におけるミサイル開発を「韓半島の平和を守る」などと自賛した発言を引用して対比し、その矛盾を指摘して、「鉄面皮さに驚愕を禁じ得ない」「非論理的で厚顔無恥な言動」などと非難するとともに、それは「米国の強盗さながらの主張」とまったく同じであるとして、「米国産オウム」と揶揄している。

 ここで引用されている文大統領の発言がミサイル発射に対する直接的な非難などの表現を避けた、ある意味抑制的なものであったことを勘案するなら、同談話の表現は、文在寅との名指しこそ避けてはいるものの、相当強烈なもののように感じられる。ただ、そうした文政権に対する厳しい姿勢は、今に始まったものではなく、皮肉なことにいきり立つのは野党・保守陣営だけで、文政権にとっては、さほどショックなものではないのかもしれない。

 なお、ここで展開されている論理は、29日に報じられた外務省国際機構局長談話の「二重基準」批判と通底するものであり、お前たちがやっていることを俺がやってなぜ悪い、というものである。それはそれで一理あるようにも見えるが、NPT脱退声明以来の核ミサイル開発推進を強引に進める過程で様々な国連安保理決議を受けてきたこれまでの経緯などを視野に入れれば、北朝鮮にはそうした主張を行う権利はないとも言えよう。

 むしろ今回の談話報道で注目すべきは、金予正の肩書が、先の米韓合同軍事演習批判談話の際には単に「副部長」とされていたのに対し、「宣伝扇動部副部長」と所属を示して記載されたことである。ここで重要な問いは、その所属がいつから宣伝扇動部になったのか(党大会において、従前の第一副部長から副部長に格下げになったときか)ということよりも、なぜ今回は従前と異なる表記をしたのか、あるいは、そのような表記の変化は同人の権限・役割に何らかの変動が生じたことを示すものなのかということであろう。単なる標記の揺れという可能性もあり、あまり深読みはすべきではないかもしれないが、問題意識は持っておくべきであろう。

 また、従前、韓国の報道などでは、同人は、対韓・対米関係を総括する立場にあるとの見方が有力であったが、そうした立場と「宣伝扇動部副部長」という肩書の関係はどう解釈されるべきなのだろうか。私見では、大した根拠はないのだが、そもそも同人は、総括というほどの立場にはなく、対韓・対米関係分野において、主に看板的ないしスポークスマン的立場にあった(今もある)と考えている。いかに金正恩が信頼する妹であるにせよ、対外関係の経験も少ない同人に国家の命運に直結する対韓・対米関係を「総括」させるというのは、常識的に考えてもあり得ないことではないだろうか。

 本ブログで同人の談話について「金予正名義の談話」と表現してきたのも、そのためである。金予正に限らず、誰であれ、各人が自分の考えを談話として発表しているわけではなく、いわば対韓・対米チーム(その構成員は定かでないが、最高責任者は当然ながら金正恩であろう)の決定に基づき、その都度、金予正はじめ様々な人物の名義を用いて発表していると考えるべきではないだろうか。