rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月14日 金与正がまたも「談話」を発表

 

 金与正が13日、韓国の「ビラ散布」問題に関し再度の「談話」を発表し、14日付けの「労働新聞」紙上にこれが掲載された。

 同談話は、冒頭、「私は、昨日、我が統一戦線部長が出した談話に全的な共感を表する」とした上で、統一戦線部長談話と同様、韓国の対応を信じるに足りないものと決めつけ、「確実に南朝鮮とは決別するときがきたようだ」として、韓国側の対応にかかわらず対決姿勢に変化のないことを改めて鮮明にしている。

 そして、「私は、(金正恩)委員長同志と党と国家から付与された私の権限を行使し、対敵事業関連部署(複数)に次の段階行動を決行することを指示した」ことを明らかにし、続けて「遠からず、使いみちのない北南共同連絡事務所が跡形もなく崩れ去る悲惨な光景を見ることになるであろう」ことを予告する。

 また、「次の対策行動の行使権は、我が軍隊総参謀部に渡そうと思う。我が軍隊もやはり人民の憤怒を多少なりとも醒ましてくれる、何かを決心して断行するであろうと信じる」として、軍を関与させる意向を示している。

 このような談話発表について、金与正の役割という視点と南北関係という視点の両面から気付いた点を記しておきたい。

 まず、金与正の役割なり存在感という視点から、同人の4日の談話発表以来の動向を振り返ると、やや足並みがそろわないとの印象がある。4日の談話発表に続く5日の統一戦線部代弁人談話では金与正が「対南事業を総括する」ことを明言していたにもかかわらず、8日の「対南部署の総括会議」は、金英哲副委員長との共同主宰の形で開催されたと報じられ(報道は9日)、更に12日には統一戦線部長が談話を発表、13日には外務省北米担当局長まで韓国外交部を非難する「談話」を発表するに至っていた。

 今次金与正談話は、そのような中、改めて対南部門における「委員長同志と党と国家から付与された私の権限」を誇示したものとも考えられる。また、次の対策行動の行使権を軍総参謀部に渡すとの表現は、この問題に関しては、同人が軍に対する指導権も有していることを示すものといえよう。なお、今次談話冒頭の「我が統一戦線部長」との表現は、対等か目上であれば「・・部長同志」とすべきところ、それがなく、朝鮮語のニュアンスとしてはやや格下の扱いをしているようにも感じる(それほど朝鮮語に熟達しているわけではないので間違っているかもしれないが)。

 次に、南北関係上の意義としては、次の段階が南北共同連絡事務所に関する措置であることを明らかにするとともに、軍を関与させることを示した点が注目される。前者については、「跡形もなく崩れ去る」というのが何を意味するのか、文字通り建物を破壊するということなのか、機能の喪失を象徴的に述べたのかはなお明らかでないが、前者の可能性も否定できない。ただ、いずれにせよ、今後、韓国側への退去要求など、いくつかの段階を踏んで進めていくのであろう。

 後者については、仮に軍事攻撃的なことを想定しているのであれば、こうした「予告」などは行わず奇襲的に実施するのが効果的であろう(例えば、天安艦爆沈のように)。今次談話における軍総参謀部への行使権移譲発表の後、総参謀部からの何らかの措置の発表、措置の実施と何段階にも見せ場を作ることによって、心理的・宣伝的な効果を持続させることを重視しているように思われる。

 ちなみに、本日の「労働新聞」紙上のその他の関連報道は、「人民の懲罰は防げない」と題する政論が「これから世間の人々は、人民の懲罰がどれだけ恐ろしいものであるかを悲惨な光景を通じてはっきりと見ることになるであろう」と厳しい対応を予告し、また、「収まらない憤怒の火の手」「我々式計算法」などと題する記事も、各界の人々の怒りが続いており、「(そのような)憎悪の火は逆賊一味をまとめて燃やし尽くすまで引き続き燃え上がる」、「罪悪の代価をきれいに受け取り最後まで懲罰するのが我々式の計算法」などと報復措置の必要性を主張している。

 また、国外の関連動向として、在中朝鮮人総連合会副議長らの発言やロシア、ギニアなどの親善団体の反響を報じている。

 以上の動向、報道内容などを総合して大胆な推測を述べると、今後、開城の南北共同連絡事務所について、韓国側に期限を定めて退去・撤収を迫った上で、軍部隊による砲撃などで建物を破壊する場面を公開するのではないだろうか。内外への宣伝効果は抜群であろう。砲撃に代えて短距離ミサイルを用いれば更に効果的だが、さすがにそこまではしないでしょう。