rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2020年1月3日 社説「党創建75周年を迎える今年に正面突破戦で革命的大進軍の歩幅を大きく踏み出そう」

 

 本年は、1月1日に昨年末の中央委員会全員会議の結果が報道され、元旦恒例の「新年辞」は省略された。本社説は、同会議結果の趣旨を改めて敷衍するとともに、そこでは言及されなかった各工業部門の課題などを提示するものである。そのような点で、本社説は、「新年辞」に代わるもの、あるいは金正日時代の「新年共同社説」に匹敵するものとも言える。

 そのような視点から同社説を見ると、まず構成面において、昨年の成果を述べた部分と今年の課題を述べた部分の間において、「正面突破戦」の必然性、正当性が縷々主張されていることが注目される。例年の新年辞ないし新年社説では、前年の成果に続けて当年の課題が列挙されるのが通例であったからである。

 そこで主張されているのは、敵への妥協・譲歩は、安楽をもたらすものではなく、敗北の道でしかないこと、逆に「自力更生」による建設成果の誇示によって「制裁武器を無用の物とする」ことこそが敵を圧倒する唯一の道であり、かつ、それは国民の奮闘によって十分可能である、との論理である。

 このような主張の背景には、やはり国内において、潜在的にではあろうが、米国(あるいは韓国)への譲歩を通じた多大な経済支援獲得への期待が相当根深く存在しているのではないだろうか。

 今次会議において金正恩が「正面突破戦」を提起した究極の狙いは、いわば「背水の陣」を敷き、あえて退路がないことを示すことによって、国内のそのような「敗北主義」を払拭することにあったのではないかと推測している。そこで格好の「ロールモデル」となるのが、厳しい環境でも日帝に屈しなかった「抗日パルチザン」であり、国民にその精神を体得させるために始めたのが「白頭山革命戦跡地踏査行軍」であったのであろう。同「踏査行軍」の実施決定と同時に、中央委員会全員会議の招集が決定されたことは、決して偶然ではない。両者は、ワンセットのものと考えるべきであろう。

 次に、今後の課題については、概ね会議結果で報じられたものと同様であるので、重複は省略し、新たに示された内容及び注目点だけを列挙する。

 まず、各工業部門についての言及を紹介すると、筆頭に金属工業、続いて、化学工業、電力部門、石炭、鉄道運輸、軽工業、機械工業、建材工業の順となっている。ただし、各部門に関する言及量にさほどの違いはなく、かねて見られた「経済の先行部門」などの表現もみられない。悪く言うと「総花的」、良く言えばバランスよく列挙されている印象を受ける。

 むしろ、経済関係の言及において注目されるのは、「国家経済発展5カ年戦略」への言及が見られないことである。同「戦略」は、本年が最終年度にあたるはずであり、以前には、その完遂に向けた奮起がしきりに強調されていたことを考えると、「異常」と言わざるを得ない。また、会議関連報道の中でやや唐突な形で提起された「10大展望目標」についても、この社説では言及がない。今後の推移が注目される。

 更に、経済の運営管理に関しても、「全般的な機構体系を整備し、経済管理を改善するための事業」については言及されているが、通例言及のある「経済的テコ」の活用などには触れられていない。金正恩の報告で「国営商業網」の強化があげられていたことなども勘案すると、今後、金正恩時代に入って以来、積極的に導入されてきたとされる市場経済的要素について、やや制約が加えられ、内閣を中心とした指令型の経済運営への復帰が画されることも考えられよう。ただ、この点については、更なる注視が必要と思われる。

 対外分野に関し指摘したいのは、「我が共和国の尊厳と生存権を侵害する行為に対しては、即時的で強力な打撃を抱かせなければならない」との表現の意味である。我が国の一般報道などでは、軍事的強硬姿勢を示唆したものとして着目されている。しかし、この文は、「対外事業部門においては、我が国家の戦略的地位と位相の基づき、大国的姿勢で外交戦、策略戦を肝を据えて展開しなければならない」との文に続くものであり、主に外交次元における姿勢を論じたものとみるのが妥当であろう。例えば、各種の制裁強化の動きなどに対しては、拱手傍観することなく、その都度、鋭く対応していくとの趣旨と考えられる。例えば、米中の「貿易戦争」、米ロの丁々発止のやりとりなどを念頭においているのではないだろうか。

 最後に、「全員会議の思想と精神」について全国的な「学習熱風」を起こすことが訴えられている点を紹介しておきたい。そこでは「暗記式、読経式方法を徹底的に排撃」し、その趣旨をしっかり体得・実践するように努めることが強調されている。金正恩が会議の結語で「正面突破戦のスローガンを叫ぶだけ」に終わらせないよう繰り返し戒めたことと符合する。いかに立派な方針を打ち出しても、そういう形で「スルー」されてしまえば、何らの結果も生み出せない。我々としても、今後、北朝鮮の各層で今次会議の「思想と精神」がいかに実践されるかを注視していく必要があろう。