rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年9月3日 党中央委政治局第8期第3回拡大会議を開催

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が2日開催されたことを報じる記事を掲載した。

報道によると、同会議は、前回の第2回拡大会議と同様(あるいはそれ以上に)、全国の市・郡の党責任秘書、人民委員長、社会安全部門、検察部門、連合企業所・主要工場の責任者らが参加したとされており、中央委員会全員会議に匹敵する規模であったといえよう。

 会議では、冒頭、「政治局の委任により会議を司会」した金正恩が同会議に目的・意義に関し、「重要政策課題を推進するにおいて、各道・市・郡が自らの責任を全うすることの持つ重要性」や「人民の生命安全を保護し、生活を安定させる上で切実に提起される問題」について言及しつつ、「百年の計を図る中長期的な展望事業を力強く推進」することと「現行課題を成果的に解決するための実際的な対策を講究」する必要性を訴えた上で、議題を提案したという。

 会議の議案は、①国土管理政策、②(コロナ)防疫対策、③人民消費品増産、④本年の農作業締めくくり、⑤組織(人事)問題、に関する事項である。各議題に関する注目される報道内容(金正恩の強調事項)は、次のとおりである。

 第1議題:国土管理政策:「市・郡において自体の力で国土管理事業を強力に推進し、自分の地域をいかなる自然災害にもびくともしないように、安全に改造しなければならない」「国土管理事業を第一の優先的な中心課題として押し立て、力を集中する(べき)」「世界的に災害性気象現象がひどくなりつつあり、我が国でもその危険が差し迫っている状況」「少なくとも5か年計画機関に河川整理と砂防野渓工事、堤防補修と海岸防潮堤工事を基本的に結束(すべき)」

 第2議題:コロナ防疫:「(コロナ感染症の拡大により)世界的な保健危機が日に日に悪化していることに即して国家的な防疫対策を一層強化」「国家防疫体系とこの部門の事業を再検討し防疫戦線をもう一度緊張・覚醒させるための一大政治攻勢、集中攻勢を展開」「現状況において防疫強化は瞬間も気を緩めてはならない最も中核的な課題」

 第3議題:人民消費品増産:「軽工業工場に必要な原料と資材保障対策を先行させる・・ための画期的な措置を取って下さった」「基幹工業をはじめとしたすべての部門において人民消費品生産に所要される物資を優先保障する規律を厳格に守る(べき)」「道・市・郡党委員会と人民委員会が自分の地域の特性に合わせて地方工業工場に原料、資材を保障(しつつ)軽工業部門において再資源化事業をより積極的に、科学技術的に実施し・・・生活必需品生産と8月3日人民消費品生産を活発に展開(すべき)」「人民消費品の質を高めることは生産を増やすことに劣らず重要」

 第4議題:本年農作業締めくくり:「計画された穀物生産目標を必ず占領するための課題を提示」「当面して秋収穫まで穀物収穫高を最大に高めることに力を集中」「全社会的に農村支援雰囲気を高潮させる」「秋の刈り入れと脱穀に力量と手段を総動員」「必要な営農物資と資材、設備を責任を持って保障し、糧穀輸送と加工、供給事業を改善」「今年の農作業を成果的に締めくくり人民の食糧問題解決に突破口を開くための党中央委員会的な措置を取ることについて指示」

 第5議題:組織問題:内容について何らの記述なし

 この後、金正恩が「中央と地方の幹部」に対し、「服との精神力と投身力、頑強な実践力を発揮」するよう改めて強調して「会議を結束(締めくくり)」したとされる。

 今次会議は、金正恩の冒頭発言に示されているように、とりわけ地方の自助努力を強調しつつ、「人民の安全、安定」に関する諸課題について、中長期的及び短期的な対策を策定・指示するためのものであったと考えられる。

 そこで特に注目されるのは、人民消費品及び食糧の増産に向けて、特別の措置を決定・指示したとされていることである(下線部)。その具体的内容はいずれも明らかにされていないが、基幹工業等に対して人民消費品生産に必要な物資等の優先的供給を義務付けていることなどからは、人民生活の安定を地方任せにせず、国家的レベルで本腰を入れて取り組もうとの姿勢がうかがえる。また、「8月3日人民消費品」(家内作業班などによる自主的生産による製品)に改めて言及したことは、このところの「経済管理に対する国家の統一的指導」強調とは異なる、いわば「市場経済志向」的傾向を有するものであり、ここからも人民生活向上にあらゆる手段を講じようとの意欲をうかがうことができる。

 一方、今次会議では、5か年計画の最重点とされる金属・化学部門など基幹工業部門については、ほとんど触れられていない。本ブログでもかねて指摘しているようにこれら部門における計画達成状況には、既に陰りが生じているとみられるところ、国土管理や軽工業、農業などへの力量集中が進めば、結果として、それら部門は初年度計画から未達成に陥る可能性が高いと考えられる。金正恩は、それを承知の上で、今次会議を運営したのであろうか。

 組織問題については、具体的言及ないので確実なことは言えない。テレビ映像などで会場の着席状況などがもう少し判明した段階で検討したい。

 なお、今次会議では、外交・安保関係では何らの議題も設定されておらず、やはり先般の米韓合同軍事演習への反発は、金予正らの「談話」を通じた「口撃」だけで幕が下りたとの印象が強い。せいぜい、軍事パレードを準備中との報道もあるので、いずれそれを実施する中で、何か「新兵器」でも登場させる程度で終わるのではないだろうか。

 それと、蛇足だが、金正恩は、前述のとおり「会議を司会」と報じられているが、事実上、議事一切をほとんど独壇場で仕切っているように思われる。一方、先般の最高人民会議常任委員会の会議の際は、崔竜海委員長が「会議を執行」したと報じられていたように記憶するが、だからと言って、法案審議などの議事を彼が独壇場で進めたわけではないであろう。「司会」と言おうが「執行」あるいは「指導」と言おうが、どういう基準で使い分けているのか判然としないが、実態は余り関係がないのではないだろうか。