rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年6月21日 党中央委第8期第8回全員会議拡大会議の開催状況(加筆版)

 

 遅くなってしまったが、標記について、その概要を改めて整理しておきたい。

・ 開催日・場所:2023年6月16日~18日、党中央委員会本部

・ 出席者:党中央政治局常務委員、政治局委員・候補委員、中央委委員・候補委員が「参加」。「党中央委員会と内閣の該当部署幹部、道・市・郡人民委員長、道農村経理委員長、省・中央機関・重要工場の責任幹部」が「傍聴」。金正恩が「参席」(従前は、金正恩「参席」を最初に記載)

・ 議題

  1.今年の主要政策実行のための闘いをより果敢に展開していくことについて

  2.教育事業を発展させるための画期的措置について

  3.各級人民委員会活動家の役割を画期的に強めることについて

  4.人民主権の強化における問題について

  5.党規律建設を深化させるための重要対策について

  6.組織問題

・ 第1議題「報告」(報告者不詳)骨子

  • 上半年成果:「主観的・客観的形勢は不利であったが、わが党と人民は金正恩総書記の卓越して洗練された指導の下、主動的で積極的な闘いで難局を打開しながら、党建設と国益守護、経済建設、文明建設など、各方面で鼓舞的かつ前進的で自負するに値する成果を獲得」、「今年の灌漑建設目標が基本的に達成」、「金属工業と化学工業部門が困難と難関を頑強に克服しながら高くなった計画を超過遂行」
  • 問題点、課題:「人民経済計画を無条件に遂行する厳格な規律を確立できず、経済の自立的土台を築くための事業を実のあるものに行えなかった一連の弊害」、「主要工業部門が生産において跛行(はこう)性を克服し、すでに到達した成長界線を強固にし、より勢い強い闘いで経済全般の新たな高調を牽引していく(必要)」、「整備・補強対象と改修・近代化対象の完工に拍車」、「各建設指揮部が建設者の高揚した闘争熱意に応じて建材保障対策を徹底的に立て、設計と施工の質を完璧に保障しながら、頑強な攻撃戦で工事日程を狂いなく進めなければならない」
  • 重点政策実行状況:「育児政策」(ミルク供給)、「国土管理、生態環境保護事業」、科学技術振興のための人材育成など、「宇宙産業の拡大・発展」、「保衛・安全機関」の活動強化
  • 国防・外交:「わが共和国の戦略武力が高度化された軍事技術力においても、兵器システムの発展速度においても自他共に認める進歩を遂げ、現存の威力的実体として成長・強化されている立派な成果を評価」の一方、「一角で現れた看過できない欠点も厳正に総括」、「最も重大な欠点は、去る5月31日、宇宙開発部門で重大な戦略的事業である軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したこと」「衛星打ち上げの準備を責任を持って推進した活動家らの無責任さが辛辣(しんらつ)に批判」、「国防部門で党中央が示した核兵器発展方向と核力量増強路線を一貫してとらえて強力かつ威力ある核兵器の増産実績をもって聖なるチュチェの革命偉業をしっかり防衛」「敵が意図的に、露骨に鼓吹する軍事的緊張激化策動に対抗して行動対行動の原則を徹底的に堅持し、つねに圧倒的かつ攻勢的な対応措置を直ちに強力に決行すべきであると認めたし、総会はその実行のための具体的方案と対応方式を一致可決で承認」「激突する国際軍事・政治情勢に対処して米国の強盗さながらの世界覇権戦略に反旗を翻した国家との連帯をより一層強化」
  • 党建設:「新時代の5大党建設路線を貫徹するための活動を強力に展開」

・ 第1議題「討論」(金徳訓総理、李日換秘書(宣伝扇動担当)、全現哲秘書(経済担当)):「人民経済発展の12の重要目標達成のための闘いの過程において対策を立てるべき問題を総会の審議に提起」

・ 第2議題:朴泰成秘書(科学・教育担当)が「報告」:「教育の内容と方法を世界的な教育発展の趨勢(すうせい)に合わせて改善」に向けた「研究状況を報告し、総会の審議に提起」

・ 第3議題:趙勇元秘書(組織担当)が「報告」:「人民委員長が自分の地域を党と国家に全的に責任を持つという確固たる観点と立場を持って、活動で主導性、創造性、活動性を積極的に発揮する上で提起される原則的問題が強調され、敗北主義に陥って受け持った事業を主人らしく展開していない一部の人民委員長に対する資料通報」

・ 第4議題:最高人民会議常任委員会崔龍海委員長が「発言」:「勤労者大衆が国家と社会の真の主人としての責任と権利を十分に行使し、中央集権制原則に基づいた民主的選挙制度を一層強化、発展させるための方向で研究した新しい代議員選挙方法」について解説、「研究案を総会の審議に提起」

・ 第5議題:趙勇元秘書(組織担当)が「発言」:「新時代の党建設理論に立脚して規律監督部門の機構システム、活動システムを改善するための方途を研究した状況を報告」し、「朝鮮労働党の潔白な政治気風を変わることなく堅持するための制度的装置の補強において現実的意義を持つ対策案が総会の審議に提起」

・ 分科別研究及び協議会の開催:「議案討議過程に提起された問題をまとめて審議」「党と政府の幹部たちが、分科別に研究および協議会を指導」「建設的な対案が提起され、科学性と実現可能性が厳密に検討された計画が審議」

・ 決定書採択:「党中央委員会政治局は、最終的に確定した決定書の草案を総会の承認に提起」「総会は、当該の決定書を全員一致で採択」

・ 第6議題(人事):金英哲:中央委員、政治局委員候補(写真肩書=統一戦線部顧問)、呉秀容器:政治局委員、秘書、部長(写真肩書=経済部長)、強純男(国防部長):政治局委員(委員候補から)。その他:「秘書を解任」(氏名未報道:全現哲か?)

 

 以上の会議概況のうち、第1議題に関しては、成果面では「金属工業と化学工業部門」で「計画を超過遂行」としていることに驚いた。本当だろうか。問題点及び今後の課題については、「主要工業部門」の生産についての「跛行性」との指摘が印象的である。具体的にどのような状況を指しているのか判然としないが、要するに、全体として済々とした経済運営が出来ていないということであろうか。

 国防・外交面での主張は、衛星打ち上げ失敗に言及が特徴といえば特徴だが、それを除くと、結局のところ、従前の路線を堅持という以上の意味はないように思える。

 第2議題(教育改革)、第3議題(人民委員会活性化)、第4議題(代議員選挙方式改革)は、本来的には最高人民会議で取り上げてもいいようなテーマであり、最近の何でも党中央委員会で決める流れの表れともいえよう。いずれにせよ、さほど重要な内容ではないと考えられる。第5議題も、従前の規律強化取り組みの繰り返しに過ぎない。

 第6議題(人事)の目玉は、金英哲と呉守容の再登用だが、前者は、「顧問」であり、現役復活というよりは、処遇的意味合いが濃いいのではないだろうか。後者も、代わり映えのしない人事で、人材が限定的であることがうかがえる。それによる経済政策の転換を期待すべきではないであろう。

 会議運営に関しては、最近の例にならって、第1議題から第5議題までについては、最初の報告は「提案」にとどめ、分科別研究・協議会の審議と、政治局会議でのその集約を経て、全員会議での決定書採択という流れを踏襲している。決定について、「みんなで決めたこと」という色付けを一層濃くしているように思われる。

 

以下加筆

加筆

 今次全員会議に関する報道で注目すべきことの一つとして、少なくとも「我が民族同士」のホームページを見た限りでは、これまでのところ、朝鮮中央テレビで同全員会議の開催状況が報道されていない(特別番組もなく、定時ニュース番組でも紹介せず)。

 一方、「党中央委員会第8期第8回全員会議の決定を貫徹しよう」といったスローガンは、報じられている(宣伝ポスターも発行)。

 こうした報道ぶりからは、会議での決定については、貫徹を訴えつつも、その開催状況そのものについては、余り触れたくないという姿勢がうかがわれる。そのような報道姿勢が同会議で金正恩の存在が希薄であったことと無関係とは思えない。

 こういうときこそ、韓国当局得意の「諜報」(内部情報)の役割が期待されるのだが、肝心なときに限って、意味のある話が漏れ伝わってこないのはなぜなのだろうか。