rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月3日 金正恩朝鮮人民軍前線長距離砲兵区分隊の火力打撃訓練を指導

 

 記事によると、標記訓練は、3月2日に実施され、訓練場を訪れた金正恩(同行者の報道はなし)を現地で「総参謀長陸軍大将朴正天同志と訓練に参加した大連合部隊の指揮メンバーたち、砲兵指揮メンバーたちが出迎えた」。

 韓国聯合通信は、韓国軍の発表として、同日午後零時37分ころ、元山付近から日本海北東方向に向け短距離発射体2発が20秒間隔で発射され、飛行距離は約240キロ、高度は約35キロと推測されたこと及び240mm放射砲と見られる武器も動員されたことを伝えている。

 本ブログでも紹介したとおり、北朝鮮軍は、2月28日に元山付近の海岸で金正恩指導の下、大量の火砲を動員した「合同打撃訓練」を実施しており、今次演習は、それに続くものと考えられる。

 しかし、昨年5月4日に東海岸、同9日に西海岸で実施した「火力打撃訓練」では、一般の砲兵部隊による火砲射撃とミサイル発射があわせて実施されている。このときのミサイルの飛距離は、前者は飛距離240キロ・高度60キロ、後者は飛距離420キロと270キロ(高度45~50キロ)と推測されたと報じられた。

 では、今回発射されたミサイルは、いかなる種類のものなのか。聯合通信の上記報道では、昨年10月31日と11月28日に発射された「超大型放射砲と推定される」としている。たしかに、今回の報道写真に写っている発射車両の姿は、その際のものと似ているようにもみえる。ただし、昨年10月31日の際は、飛距離370キロ・高度90キロ(発射間隔3分)と、昨年11月28日の際は、飛距離380キロ・高度97キロ(発射間隔30秒)と推測されており、同型ミサイルとすると、今回は、かなり射距離を抑制して発射したことになる。

 いずれにせよ、今次発射されたミサイルが、昨年5月の訓練で使用されたものではなく、昨年10月及び11月に発射されたものと同型であるなら、北朝鮮のミサイル戦力開発に大きな意義を持つことになる。何故なら、10月・11月の発射は、あくまでも、国防科学院が主体となって実施する「試験射撃」すなわち実験であったからである。それと同型の兵器(超大型放射砲)が、軍部隊によって、「訓練」として発射されたとすれば、まさに同兵器の開発が完了し、軍に引き渡され、軍がそれを運用する能力を備えたということを物語るからである。あわせて、発射の間隔が10月3分、11月30秒から更に10秒短縮して20秒になっていることも進歩といえよう。

 そこで、今次訓練に登場したのが、昨年末に開発され、今年から新たに軍に装備された「超大型放射砲」であったとした上で、何が言えるだろうか。

 まず、それらが配備されたのは、長距離ミサイルが配備されている「戦略軍」ではなく、前線の一般軍団であるということである。そのことは、今次訓練で金正恩を出迎えた者すなわち訓練実施者の中に、「戦略軍」関係者は含まれておらず、「大連合部隊指揮メンバーたち」がいることからうかがえるところである(「大連合部隊」というのは、一般に軍団を指すとみられている)。正直に言うと、私は、昨年新たに開発された何種類かの短距離ミサイル(この超大型放射砲も含めて)は、すべて戦略軍に配備されるのではないかと予測していた。これら兵器が、軍事境界線を挟んだ地域での軍事作戦のためというよりは、むしろ韓国内各地を打撃するための戦略的使用を主な目的としたものと考えられるからである。

 ただ、自説に固執するようであるが、今回の訓練が2月28日の一般砲兵部隊の訓練と別途に実施されたということは、今回登場した「超大型放射砲」及び従前から配備されていた「240mm放射砲」については、形式的には同じ軍団隷下に配属されているとはいえ、作戦運用上は、その他の一般砲兵とは何らか異なる、独自の体系の下に置かれていることを示しているのでないだろうか。そう考えれば、昨年は一度に行われた訓練を今年は2段階に分けて実施した理由が説明できる。

 次に、これら一連の訓練実施(ミサイル発射を含めて)の持つ対外的メッセージについて検討したい。2月29日の本ブログでは、28日に訓練でミサイル発射がなかったことを捉えて、「対外的なインパクトを抑制した」との見方を示した。その後、ミサイル発射が行われたので、この評価は早計であったと言わざるを得ない。しかし、結論として、米国などを過度に刺激することは避けようとしているとの見方は維持してよいと考えている。

 その根拠としては、①昨年5月の訓練の報道では、「いかなる勢力が我々の自主権と尊厳、生存権を害しようとするなら、一部の容赦もなく即時的な反撃を加える英雄的朝鮮人民軍の固い意志を誇示」したなど対外牽制的な主張がなされたが、今次訓練の報道では、その種の表現は用いられていないこと、②370~380キロが可能な超大型放射砲の飛距離を大幅に縮めて発射していること、をあげることができる。

 ただし、昨年は5月に実施したのと同様の訓練を、コロナウイルスで大変な状況下にもかかわらず、敢えてこの時期に繰り上げて実施したことの意味も考えるべきかもしれない。当初、予定されていた米韓合同軍事訓練への対応のためとの見方もできるが、過度な刺激は避けつつも、「軍事的脅威」が存在することは認識させておきたいとの思惑を読み取ることも許されるのではないだろうか。

 以上が現時点でのとりあえずのコメントであるが、今後、西部地域での訓練実施の有無はじめ、後続の動きに注視が必要であろう。