rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月30日 「国防科学院 超大型放射砲試験射撃実施」

 

「国防科学院においては、3月29日、朝鮮人民軍部隊に引き渡される超大型放射砲の戦術技術的特性をもう一度確証することに目的を置いて、試験射撃を実施した」ことを明らかにした記事。

 韓国軍によると、同日午前6時10分ころ、元山付近から北東方向に向け、飛翔体2発が発射され、飛距離230キロ、最大高度30キロ、発射間隔は約20秒であったという。同記事は、これに関するものであろう。

 記事によると、「党副委員長・李炳哲同志と党中央委軍需工業部幹部たち、張昌河同志、全日浩同志をはじめとした国防科学研究部門の指導幹部たちがこの武器試験を指導」したという。したがって、今回は金正恩の出席はなかったと考えられる。

 記事は、この際、李炳哲が「超大型放射砲武器体系を作戦配置する事業は、国家防衛と関連した党中央の新たな戦略的企図を実現する上で極めて大きな意義を持つ重大事業である」と強調しつつ、「超大型放射砲武器体系を人民軍部隊に引き渡す上で提起される関連問題を了解し、国防科学研究部門と軍需工場(複数)に該当する対策的課題を与えた」としている。

 また、同人は、あわせて「国防科学研究部門と軍需労働階級が党中央が提示した核心国防科学研究目標と主要武器生産計画をこの気勢で引き続き占領していくための粘り強い闘争をより強度高く展開」することを訴えた、としている。

 本記事に関し、最大の「謎」は、実験の対象を「超大型放射砲」と称している一方、添付された報道写真に写っているのは、去る3月2日及び9日にその名称で実験された際の報道写真に写っていた兵器(4連装発射機・装輪型車両に搭載)とは異なる兵器(6連装発射機・装軌型車両に搭載)であったことである。

 そして、今回の兵器の形状は、昨年8月2日に「大口径操縦放射砲」と称して実験された際に添付された写真に写っていた兵器に似ているといわれる(この時の写真は、発射機部分はモザイク処理されており不鮮明だが発射管が横3列に配置の模様。車両部分は今回と酷似)。なお、この際の飛行距離は、220キロ、最大高度で25キロであった。ちなみに、その名称の武器の試射は、直前の7月31日にも実施されており、この際は飛行距離250キロ、最大高度30キロであった(この時は写真添付無し)。なお、2回とも金正恩が立ち会っており、8月2日の試射結果として、「高度抑制水平飛行性能と軌道変則能力、目標命中性、戦闘部爆発威力が成功裏に確定・・・我が党が構想し望んだもう一つの主体武器が生まれた」と報じられていた。

 以上を総合すると、今回実験されたのは、昨年7月31日及び8月2日に試射された「大口径操縦放射砲」を完成させたものであり、同兵器と今月2日及び9日に発射された「超大型放射砲」を合わせて「超大型放射砲武器体系」と称していると考えられる。今回の実験について「超大型放射砲の・・・」と記したのはそのような趣旨からであろう。

 なお、本ブログで既に指摘したところだが、今月2日及び9日の発射は、軍部隊(前線長距離砲兵区分隊)による演習であったのに対し、今次発射は、「軍部隊に引き渡される」ことを前提にしたものとはいえ、いまだ国防科学院による開発段階の実験であったことは、明確に区別しておくべきであろう。その点で、今回実験された兵器は、3月21日に国防科学院により、やはり「軍部隊への引き渡し」に向けて試射が行われた「戦術誘導武器」(いわゆる北朝鮮版ATACMS)と同じ開発段階にあるものいえよう。これら兵器については、今後、それぞれの試験結果を踏まえた最終調整などを経て、軍部隊に配備されると思われるが、その場合、やはり実際に配備された部隊によって、改めて発射訓練が行われるのではないだろうか。そうしてこそ初めて、李炳哲のいう「作戦配置」が完了したと言えると考える。

 結局のところ、このところの一連の試射などを経て、北朝鮮が早晩3種類の新型短距離ミサイルを配備することが示されたことになる。それが、李炳哲の言うとおり「国家防衛と関連した党中央の新たな戦略的企図を実現する上で極めて大きな意義を持つ」ことは否定できないであろう。ただし、問題は、それら兵器をどの程度生産するかで、その経済的負担は軽視できないと考える。