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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月13日 金正恩、「朝鮮人民軍第7軍団と第9軍団管下砲兵部隊の砲射撃対抗競技を指導

 

 金正恩が3月12日、標記訓練を指導したとの報道。現地で出迎えたのは、金秀吉総政治局長、朴正天総参謀長、金正官人民武力相と「大連合部隊長たち」。

 2月末以来の金正恩による一連の軍演習指導に際し、総政治局長、人民武力相が同席したのは初めてのことである。

 同訓練の目的は、「朝鮮人民軍第4回砲兵大会で提示された我が党の砲兵威力強化方針を貫徹している軍団別砲兵武力の戦闘準備実態を不意に選択的に検閲判定し、全般的砲兵武力をもう一度覚醒させ、砲兵訓練の形式と内容、方法を根本的に改善し、訓練を実戦化するための闘争をより力強く展開するための種火を燃え上がらせること」とされる。

 具体的には、「抽選で定めた射撃順序にしたがって軍団に装備された各種口径の砲によって島目標を射撃した後、射撃成績と火力任務遂行にかかった時間を総合して勝敗を定める方法」で実施したという。

 競技の結果は、「すべての口径の砲射撃において第7軍団が第9軍団を圧倒的に勝利した」とのことである。

 以上の報道内容から推測すると、今回の演習は、第4回砲兵大会(2015年12月3,4日開催)において示された砲兵火力強化の方針に基づき、各軍団の砲兵部隊が平素からどの程度、しっかりと準備・訓練を進めているのかをチェックするために、任意の軍団を指定して、予定にない演習実施を命じ、演習効果を盛り上げるために軍団対抗という方式を取って行われたものであり、その結果として、今次演習に参加しなかった軍団の部隊に対しても、いずれ自分の部隊が選ばれることがあるかもしれないと思わせ、緊張感を維持させることを狙いとしたものと考えられる。

 今次演習に参加した軍団の所在地は、聯合通信の報道によると、第7軍団は咸鏡南道、第9軍団は咸鏡北道とのことで、いずれも、後方の師団である。報道写真によると、演習で使用されたのは、牽引式の大砲、旧式の放射砲など在来型の火砲である。

 次に、今次演習を含め2月末以来の一連の演習概況を改めて比較した上で、各演習の位置づけを検討したい。

・2月28日:合同打撃訓練:陸・海・空軍の統合作戦能力向上:前線及び東部防御部隊の砲兵部隊(各種自走砲、240mm放射砲など)

・3月2日:前線長距離砲兵区分隊の火力打撃訓練(超大型放射砲、240mm放射砲)ミサイル発射2発

・3月9日:前線長距離砲兵区分隊の火力打撃訓練(超大型放射砲、240mm放射砲、170mm自走砲)ミサイル発射3発

・3月12日:軍団管下砲兵部隊の砲射撃対抗競技(各種牽引型砲、旧来型放射砲)

 このうち、3月2日及び9日の演習は、超大型放射砲を新たに装備した「前線長距離砲兵区分隊」の演練及び同放射砲の試射を兼ねたものであろう。

 一方、2月28日の訓練は、それ以外の主力火砲を装備する陸上部隊と海・空軍との統合作戦ということで、いわば砲兵部門の精強部隊を集めた高度の訓練であったと考えられる。

 それに対し、今回の演習は、後方部隊の旧来型の砲火力を装備する、いわば2軍級の砲兵部隊を突然指名して、どの程度円滑に稼働できるかをチェックする機会を設けることにより、他の同種部隊全般の緊張感を高める契機とするためのものであったといえよう。上記目的に関する報道中の「火種」との表現がそのような今次演習に込められた性格を端的に示していると考える。今次演習に総参謀長に加え、他の演習に同席しなかった総政治局長、人民武力相が参加したのは、軍部隊の全般的引締め・即応態勢維持と言った幅広い課題を念頭においたものであったためと考えることもできよう。

 金正恩の軍事関連活動が最近増加しているが、彼としては、ただ闇雲に軍事行動を活発化しているわけではなく、以上のような、それなりに合理的な目的意識を持って、様々な演習を設定・実施しているのであろう。