rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月13日  「紙上演壇 人民は偉大だ。強力な思想攻勢でその心臓に火をともそう!」

 

 本日の「労働新聞」には、標記の共通タイトルの下、4件の投稿記事が記載されている。このタイトルそのものが北朝鮮の独特の「人民観」を端的に示しているといえる。すなわち、人民は、「偉大」であると同時に、党の働き掛け、動員の対象と位置づけられている。換言すると、その「偉大さ」は、自ずと発揮されるのものではなく、党の働き掛けを受けることによってはじめて発揮される、いわば「潜在的能力」と目されているといえる。それが「偉大」と評されるのは、その「潜在的能力」が巨大であると目されているからであり、その自律性、自己決定能力などが評価されてのことではないのである。

 4件の記事の執筆者は、各界各層の人物であるが、いずれも、以上のような基本的発想に基づき、人民大衆をいかに発動するかを論じるという点で共通している。

 最初は、「自力更生思想をいかに植え付けるのか」と題する咸鏡北道党委員会副委員長李英南(音訳。以下同)の記事である。そのためにポイントは2点あり、「何よりも、今日、自力更生が単純に経済実務的問題ではなく、革命と反革命を分かつ深刻な政治的問題、思想的問題であるということをはっきりと認識させること」であり、「次に、幹部と党員と勤労者に自力更生の主人はまさに自分自身であるという確固とした観点を植え付けること」が重要と述べている。勤労者のみならず、幹部・党員でさえ、「観点を植え付ける」べき客体とみなされているのである。

 次は、「機械式、模倣式、かっこつけ、行事式事業方法から徹底して脱皮し、

思想事業を斬新に行っていこう 革命精神武装と実体験」と題する記事で、革命史跡指導局副局長咸主屋によるものである。彼は、白頭山地区革命戦跡地踏査行軍への参加者の発言などを引用しつつ、実体験を通じた思想教育活動の効果などを論じている。

 三件目は、「診断、処方、そして実践」と題する、北倉地区青年炭鉱連合企業所党委員長金英勲の記事である。問題に対する党幹部のあるべき対応として、「病人」を例にとって、①診断:まず問題発生の正確な原因を探り、②処方:様々な知恵を絞ってその対策を考え出し、③実践:その対策を結果に結びつくまで粘り強く実行し続ける、ことをあげている。ここでも、人民大衆は、それらを推進する主体としてではなく、診断され処方される客体と位置付けられている。

 最後は、「命中弾か不発弾か」と題する温泉群党委員長崔英現の記事で、思想活動は、実施した件数ではなく、その中で「命中弾」がどれだけ含まれるかであるかとした上で、「人民たち自身が納得し共感し呼応するようにする思想事業こそが命中弾であると言える」と主張する。ここでも、「人民たち」は、「納得し共感し呼応する」主体ではなく、そうするようにされる客体である。

 以上の「紙上論壇」は、おそらく最近の「人民大衆第一主義」キャンペーンの一環として企画されたものと思われるが、まさにそこにおける「人民」が、以上のような客体としての位置づけを前提とした概念であることを図らずも示していると考えられる。