rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月10日 金正恩が「朝鮮人民軍前線長距離砲兵区分隊の火力打撃訓練を再度指導」

 

 3月9日に実施された標記訓練に関する記事。3月2日にも同じ名称の訓練を実施しており、その1週間後に改めて実施したことになる。前回訓練と比較しつつ、その概況を整理すると次のとおりとなる。

 金正恩を出迎えた者は、前回は朴正天総参謀長、軍団指揮メンバー、砲兵部隊指揮メンバーだったのが、今回は、朴総参謀長と前線砲兵部隊指揮メンバーだけになっている。

 実施場所は、前回が江原道元山付近、今回は咸鏡南道宣徳付近と数十キロ程度、北側に移動している。

 訓練目的は、今回は「不意の軍事的対応打撃能力を点検すること」とされており、訓練開始に際して、金正恩から朴総参謀長に「状況」が提示され、それに対応して射撃を行う形がとられている(前回は、目的等について言及無し)。

 訓練参加兵器は、「超大型放射砲」及び240mm放射砲は共通だが、今回は、それに170mm自走砲が加わっている(報道写真より推測)。

 超大型放射砲からの発射の飛翔体が今回は3発、飛距離200キロ、高度50キロ、発射間隔20秒・1分(前回は、2発、240キロ、35キロ、20秒)で、発数は増えたが、飛距離は抑えている(韓国軍推定)。

 以上の訓練概況を踏まえて、今回の訓練の意味を検討してみたい。ほぼ確実なのは、今回の訓練場所は、「前線」とは言えず、したがって、訓練参加部隊は、本来の駐屯地を離れて移動してきたことである。出迎え者の中に軍団指揮メンバーが含まれなかったのはそのためではないだろうか。

 しかし、判然としない点も少なくない。そもそも今回の部隊と前回の部隊は同一なのか、違う部隊なのか。今回の報道写真に写っている170mm自走砲は前回は参加しなかった(報道写真には参加した全兵器を示すと前提すれば)とすれば、違う部隊の可能性が高いと言える。ではどこから来た部隊なのか。大胆に推測すると、西部地区の比較的ソウルに近い地域に所在する部隊ではないだろうか。そうであれば、170mm自走砲(延伸弾を用いれば射程約60キロと推定)も、ソウル攻撃という戦略的目的での用法が可能となり、「前線長距離砲兵区分隊」に配属して、超大型放射砲などと一体的に運用する意味が合理化できる。

 また、飛翔体の発射についても「3発」の意味は疑問である。もともと、3発の予定であったのか(それでも3発目は20秒間隔では発射できなかったが)、あるいは、本来4発発射予定であったが、4発目は発射できなかった(あるいは余り飛ばなかった)のか検討の余地がある。いずれにせよ、この点については技術的に「完璧に成功した」とは言いにくいのではないだろうか。そもそも、この超大型放射砲は、4連装なのであるから、4発連続発射しないと完成とはいえないように思う。換言すると、北朝鮮としては、早晩、それを誇示する機会を目指すことになろう。

 一方、外交的意味は、前回の訓練と基本的には変わらず、米国に対する過剰な刺激は避けつつ、軍事的脅威としての存在感を示し続けるということではないだろうか。韓国に対しては、金正恩の文大統領あて親書送付(4日)から5日後ということで含意が注目されたが、北朝鮮の論理としては、この種の演習は通常のもので南北関係を阻害するものではなく何ら問題ない、ということであり、しいて言えば、そうした主張を既成事実化させるという効果を期待したともいえよう。現に、韓国側の今次訓練への反応は、先般の金予正談話の「効き目」のせいか、前回訓練の際よりもトーンダウンしたとの見方も示されているようである。

 ただ、対米交渉の文脈で言えば、この次元で譲歩引き出しの効果がなければ、更なる次元に進めるということは、いずれかの時点で当然予測される出方である。米国大統領選挙までにその日がくることを想定しておく必要があろう。