rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月12日 論説「人民の要求と利益はすべての事業の絶対的な基準である」

 

 標記論説は、先月末の政治局拡大会議以降の「人民大衆第一主義」キャンペーンの一環といえよう。「幹部が人民の要求と利益を絶対的な基準とみなすこと」が何故大切であるのかについて、3つの側面から説明している。

 第一は、それが「(幹部が)人民の真の従僕になるための先決条件である」からである。では、何故、幹部が「人民の真の従僕」になることがそれほど重要なのか。その理由は、「今日の正面突破戦は、人民死守戦、人民服務戦である」と考えているからである。その意味は、「敵対勢力どもが我々の一心団結を破壊しようと必死的に発悪している今こそ、幹部が滅私服務の貴重な成果で仇敵どもの頭上に無慈悲な鉄槌を下さなければならない」ということである。

 第二は、「自分の部門、自分の単位の事業において実質的で飛躍的な発展を遂げるための根本担保である」ためである。何故なら「すべての事業が大衆の要求に合うように組織され推進されるとき、彼らの精神力が余すところなく噴出され、絶え間ない前進飛躍を成し遂げることができる」からである。大衆が望まないことを始めても、積極的な参加は得られないということであろう。これは分かりやすい理由と言える。

 第三は、「高い理想と目標を押し立て輝かしい実践していく決定的条件である」からである。その意味は、目標をいかに適切に設定するかということと関連する。「理想と目標を高く立てると言って、主観と欲望に捕らわれてはならない。実現不可能な理想は空想に終わり、虚荒な目標は紙上の空文にしかならない」のであり、「理想と目標は最も聡明で賢い存在である人民大衆の要求を絶対的な基準とみなすとき、科学性が担保され実践へとつなげることができる」と主張する。

 以上のうち最も注目されるのは、第一の理由で、「人民死守戦」を展開しなければならないほど、人民からの信任が危うい状態なのかということである。つまり、現在、人民からの支持・信任をめぐって敵対勢力と闘争している、幹部の対応が適切を欠けば、それを喪失するおそれがあるとの認識があるのであろうか。それが、議論展開上の強調のための修辞に過ぎないのか、あるいは現実に根差した訴えであるのか、俄かには断定できないが、よくよく考えるべき問題であろう。

 もう一つ指摘したいのは、主に第三の理由と関連してだが、そういった「人民大衆の要求」を誰がいかに読み取るのか、という問題である。とりわけ、「人民大衆」からは、実際は、雑多な要求が提起されるのであろうから、それをいかに取捨選択・集約し、優先順位を定めて取り組んでいくのか、その方法論について、本論説は何も語っていない。何かそのための制度的措置(大衆の要求発表の場の創設など)を講じるのであれば格別だが、おそらくそのような意図はないであろうから、そうであれば、前述のような主張は、結局のところ、幹部は大衆の声に耳を傾けよという精神論に終わってしまうように感じられる。