rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

4月5日 論説「生産文化、生活文化確立は、崇高な愛国事業」

 

 標記論説は、まず「生産文化、生活文化」の意義について、「生産文化を確立するということは、職場をきれいに片付け、設備、資材を正しく取り扱い、製品の質と文化衛生性を保障するということ」を、「生活文化を確立するということは、街と村、家庭をはじめとしたすべての生活環境をしっかり整え管理し、服装と言語生活、公衆道徳、食生活をはじめとした日常生活を社会主義生活様式に合わせて文明的に行っていくこと」をそれぞれ意味すると説明する。その上で、それらの確立を図ることの重要性を二つの点から主張する。

 第一には、それが「我々式社会主義の優越性を余すところなく誇示するための事業である」からである。具体的に言うと、「生産文化、生活文化を立てる事業を迫力を持って推進してこそ、工場、企業所において生産量が増大し、世界的な競争力を持つ名製品、名産品が産出され、人民が最も優越した人民的施策を言葉や文字によってではなく肺腑で切に感じるようになる。そして、人民の高尚で文明的な生活基盤も準備されることとなる」との主張である。

 第二には、それが「祖国の未来のための事業である」からである。これが意味するのは、「生産文化、生活文化において創造された模範を通じて後代たちは前世代の高尚な生活気風と働き方を知ることとなり、彼らのように街と村、職場に対する愛着を持って富強祖国建設に一身を捧げる意志も固めることになる」、つまりは、次世代に模範を示すということである。

 論説は、最後に、時期的な状況との関係で同事業の意義を説く。すなわち、現在進行中の「春季衛生月間事業」及び「新型コロナウイルス感染症の伝播を防ぐための事業」に関連する具体的な活動を「生産文化、生活文化確立」という大きな眼目の中に位置付けて取り組んでいくということであろう。

 以上全体から察するに、標記論説は、職場では整理・整頓に努めるともに設備・材料を大切にする、社会では家庭の内外を清潔に保つと同時に服装・行いをきちんとする、といった(現代日本人にとっては)極めて基礎的なことの実践を「崇高な愛国事業」として訴えるものであろう。確かに、職場環境が乱雑で設備・材料を乱暴に扱えば、増産も製品の質の維持も不可能であろう。若い世代が職場でのそういった働きぶりや街角にゴミが捨てられているなどの光景を見慣れて育てば、当然それらは次世代にも継承されるのであろう。

 では、北朝鮮の職場、社会は、そのような訴えが必要なほど酷い状況にあるのだろうか。そうであるとすると、それは以前からのことなのか、あるいは悪化してそうなったのか、その実相は一編の論説文からだけでは推測しがたいが、いずれにせよ注目されるべき事柄である。

 もう一つ指摘しておきたいのは、そのような問題点の改善を「愛国」を拠り所として主張している点である。「愛国」が主張の根拠になっているという事実は、4月2日の本ブログでも指摘した点であるが、ここでも繰り返されている。いまだ仮説の段階であるが、これは、「革命」といったイデオロギー的概念の効果が薄れていることの反映とも考えられる。