rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月2日 共同論説「我が党の政治は、人民大衆第一主義政治である」

 

 標記は、党機関誌「勤労者」との共同論説であり、労働新聞第1面全面を費やした長大な論説である。標題に掲げる「党」というのは、金正恩とほぼ同義であり、本文は、「金正恩同志の人民大衆第一主義政治」について、「徹底した人民重視、熱烈な人民愛の政治」であることを論じた「1」と、それが「国と民族万代の富強繁栄を確固として担保していく未来志向的な政治」であることを論じた「2」の部分からなる。

 このうち「1」では、まず、それが「人民の尊厳と権益を最優先、絶対視する政治」であると主張する。すなわち、「人民の上に君臨し人民の利益を侵害する行為に対しては、それが誰であれ職位と功労がどうであれ、無慈悲に懲罰しなければならないというのが我が元帥様の政治信条である」とした上で、「この揺るぎない意志に基づき、・・・官僚主義者どもの反党的、反人民的、反社会主義的行為に強い打撃を加える党中央委員会政治局拡大会議も開かれた」として、去る2月の政治局会議を想起させている。

 以下、骨子だけを列挙すると、「人民に対する信頼を最も貴重な財富とみなし、すべての問題を人民大衆の無尽無窮の力に依拠して解決していく政治」「人民の運命と生活に全面的な責任を負い、面倒を見る最も熱烈な人民愛の政治」「いかなる逆境と試練の中でも人民の運命を固く守る政治」「自身のすべてを皆捧げて人民のために滅私服務する政治」であると主張している。

 次に「2」では、その趣旨について、「今日において明日を設計し、展望的利益と当面利益を正しく結合」させていることと説明した上で、①「革命の根本原則、根本利益を確固として固守し、勝利と繁栄を永く切り開いていく老熟した政治」、②「いかなる場合にも自主性を確固として堅持していく政治」、③「最悪の条件でも人民的本態を変わりなく固守していく政治」、④「遠い将来を展望しつつ、国と民族万代の繁栄と幸福の土台を築いていく底力のある政治」、⑤「明日に志を置いて、未来を引き寄せる政治」などの項目を挙げている。

 ただ、これら項目の内容は、実質的に重複しているようにもみえる。要するに、当面の困難にひるんだり、利益に拘泥したりすることなく、長期的展望の下、革命的原則を堅持し、将来につながる土台造りに励んでいる、ということのようである。

 論説の結論は、こういった金正恩の「人民大衆第一主義政治」の結果、すべてはうまくいっており、「光明な未来が我々を出迎えている」という楽観的展望である。

 「労働新聞」と「勤労者」の「共同論説」という形式は、いうまでもなく、党指導部が特に強調したいこと、重要視していることについて、国内の意思統一を図るための一定の重みのある措置といえよう。

 それが発出されるのは、今年1月以来のことであり、その際は、直前の中央委員会全員会議における「正面突破戦」提起を受け、その意義を敷衍し、それへの邁進を呼びかけるものであったと理解できる。しかし、今回の以上のような論説にどのような狙いが込められているのか、何故、今発出する必要があったのか、必ずしも明確ではない。

 内容においても、前述のとおり、党員ないし大衆に対して何らかの行動を訴えるものではなく、ひたすら金正恩の施策(=人民大衆第一主義政治)の称賛、現状賛美に終始している。

 そこから可能な一つの推論は、金正恩の路線なり指導の妥当性、正当性に対する疑問・懐疑の存在である。それが国内において一定の広がりを見せていることを背景として、前述のような内容の論説が発出されたと考えるのが最も自然なように思える。そして、そのような推論は、例えば「党の偉大性」扶植の必要性強調(5月27日付け本ブログ参照)など、最近の宣伝傾向とも符合するものである。金正恩に対する国内各層の認識・信頼度などについて、これまで以上に注視の必要があるように思われる。