rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月3日 論説「人民のため滅私服務する我が党の偉業は必勝不敗である」

 

 標記論説は、党理論機関誌「勤労者」との「共同論説」として掲載されたものである。聯合通信の記事によると、この種「共同論説」が掲載されるのは、金正恩時代になって以来6回目、今年に入って3回目のことだそうである。今次掲載が目前の党創建75周年に向けてのものであることはいうまでもないであろう。

 同論説の骨子は、標題に示されているとおり「人民大衆第一主義」「滅私服務」などの強調であり、前段「1」の部分で朝鮮労働党が一貫してそれを基調としてきたことを、後段「2」の部分でとりわけ金正恩がそれを主導・具現していることを主張している。かなりの長文であるので、特に関心が魅かれる部分を中心にかいつまんで紹介したい。

 まず、冒頭では、標題の趣旨を敷衍するかのように、「人民は、革命的党の根であり地盤であり力の源泉である。人民を神聖に奉じ人民の支持と信頼を受ける党は、いかなる試練と逆境の中においても、絶対に変質も瓦解も崩壊もしない」と主張し、「滅私服務」の狙いが党の安定にあることを率直に明示している。

 次に「1」では、前述のとおり「朝鮮労働党は、人民の利益と幸福のための献身的服務の新歴史を開拓した偉大な党である」ことが述べられているが、ここでいう「人民の利益と幸福」には独特の意味が込められている。それは、まず「尊厳」であり、「他人よりも食べられず着られなくても生きていけるが、(他人に)踏みつけにされては生きていけないのが人民大衆である。人民大衆において自主権と尊厳は命よりも一層貴重である」と主張する。また、「政治的生命」の保護や「強力な戦争抑止力」で「固く担保」していることと結び付けて論じられる。

 その上で2018年以来の路線に関し、「新たな併進路線の勝利を宣布すると同時に全党的、全国家的な力を経済建設と人民生活向上に集中させた我が党の戦略的決断は、数十年間に及ぶ朝鮮労働党のすべての闘争と勝利の必然的帰結であった。・・・黄金山、黄金原、黄金海より更に貴重な戦略資産はない」として正当化を図っている。このような表現からは、米朝交渉の停滞にもかかわらず、いわゆる「非核化」路線がいまだ放棄されたわけではないことをうかがうことも可能であろう。

 これに続く「2」では、冒頭、「金正恩同志は、我が党を人民のため滅私服務する革命的党として絶え間なく強化発展させていく人民の偉大な首領であらせられる」として、金正恩を「首領」と呼んでいる。金正恩に対し、このように直接的な形で「首領」との表現が用いられるのは異例というべきであろう。

 そして、それを敷衍する形で同人の業績として、「人民大衆第一主義を党の路線と政策着想に徹底して具現」(「金日成金正日主義の本質を人民大衆第一主義として定式化」など)、「人民に対する滅私服務を革命的党風としてより徹底して確立」(「権柄と官僚主義、不正腐敗現象を根源的に根こそぎにするための闘争を賢明に指導」など)、「犠牲的な献身と崇高な亀鑑によって全党を人民のための滅私服務戦へと指導」したことなどをあげている。

 更に結びの部分では、「主体100年(2012年)代に我が党が成し遂げた業績中の業績は、史上最悪の厳しい逆境の中で、人民に対する愛と信頼によって党と人民の一心団結を固く守り千百倍に固めたことである」と主張している。これもまた「一心団結」すなわち人民からの支持・信任の維持・確保が最重要な目標であり、前述のような「滅私服務」はそのために必要不可欠なものとの認識を改めて示すものと考えられる。